ACTIVE RANGER

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

関東地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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2018年06月01日92×200の奇跡

佐渡 近藤陽子

 皆様、こんにちは。

 新潟県佐渡市では、爽やかに晴れ渡る日が増え、出かけるのが楽しくなる季節になりました。


<佐渡市鷲崎、二ツ亀 2018.5.26撮影>

 現在、佐渡のトキたちは繁殖期真っ只中。しかし、今年は多くのペアで繁殖の失敗が確認されています。巣を作っていたけれど、途中で作ることをやめてしまったペア。卵を温めていたけれど、途中で温めるのをやめてしまったペア。ヒナが誕生していたけれど、天敵の捕食にあったのか、ヒナが確認されなくなってしまったペア。今年、誕生したヒナの羽数は、昨年の3分の2ほどにとどまっています。

 そんな波乱に満ちた今年の繁殖期、職員が驚くような繁殖成功もありました。

 それは、No.92(オス)とNo.200(メス)ペアの繁殖成功です。

<No.92(オス)>

   
<No.200(メス)>

 たかだか繁殖成功と思うかもしれませんが、データ上、このペアが繁殖に成功することはほぼないとされていました。

 その大きな理由に、このペアの有精卵率の低さがあります。

 トキの繁殖失敗が観察で確認されると、職員は巣の下へ行って卵の殻を回収します。この卵の殻から有精卵か、無精卵か、トキが何個卵を産んだのかを調べます。

<トキの巣の下に落ちている卵殻 ※写真は92×200とは別ペア>

 2015年からペアとなり、毎年繁殖に参加している92×200(職員が記録を取る時、ペアを92×200、92/200などと記載します)。回収された卵殻の解析の結果、92×200の有精卵率はずっと1割ほど。自然界で繁殖している他のトキ達と比較しても、これはかなり低い数字です。

 有精卵率が低くなる要因として、トキの飼育形態が影響していると考えられています。No.92は人・人(じんじん:「人工ふ化・人工育雛」の職員が使用する略語。No.92は、ふ卵器内でふ化し、育雛器内で育ちました。)で、No.200が人・自(じん・じ:「人工ふ化・自然育雛」の略語。ふ卵器内でふ化し、トキの親に育てられたトキのこと)。

 トキのトキへの刷り込みは、ヒナの目が見えるようになった時期に起こっていると考えられています。ヒナの目が見えるようになった時期に育雛器に入っていると、初めて見る生き物が人間となり、こうして育ったトキは繁殖期にトキに対する繁殖へのモチベーションが、トキの親の元でふ化し育ったトキに比べて低くなるようです。その結果、上手く交尾ができずに有精卵を産むことができないのではないかと考えられています。

<親が育てない等の理由で人工育雛されているトキのヒナ>

 こうした背景もあり、3年連続で繁殖に失敗している92×200に対して、職員は今年も繁殖成功はしないだろうと予測していました。

 しかし!今年の繁殖期、92×200はついにヒナを誕生させました!しかも2羽!

<左からNo.92とヒナ2羽>

 毎年92×200の巣作りから抱卵、抱卵中止を観察し続け、頑張ってるけれど成功しないこのペアを見守ってきた私たち職員にとって、本当に嬉しいニュースでした。

 「繁殖の経験を積むほど有精卵を産む確率は高まる」とのデータは出ています。が、ここまで有精卵率が低かった92×200ペアの今年の大逆転は、これからのトキの前途が大きく開かれていくような希望を与えました。

 今後は、このヒナたちが無事に巣立ち、再来年、92×200の子供たちが繁殖する姿を見られることを夢見て、今年の繁殖期を引き続き見守っていこうと思います。


<ヒナに吐き戻したエサを与えるNo.92>

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