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関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

南アルプスに残る氷河期の遺存種

2019年03月05日
南アルプス

みなさん、こんにちは。

南アルプス自然保護官事務所の本堂です。

みなさんは南アルプスと氷河期に深い関わりがあることをご存じでしょうか?およそ200万年前から1万年前の間に、地球上で寒い時代があったと考えられています。これを「氷河期」と呼んでいます。最終氷河期は今の日本の年平均気温が7℃から9℃低く、南アルプス周辺は大陸と陸続きでした。この時代に寒冷な気候に生育していた植物が南下しました。気温が上がり、間氷期になるとこれらの植物は寒冷な気候を求めて、高緯度の北極近くに戻り、一部は標高の高いところに生育地を移しました。このような経緯をたどり、現在も生育している高山植物のことを『氷河期の遺存種』と呼ばれています。

参考:「南アルプス概論 山梨県版 -南アルプスの自然と人々の関わり-」南アルプス世界自然遺産登録山梨県連絡協議会 

今回は『氷河期の遺存種』にスポットライトを当てていこうと思います。

【キタダケソウ】

キタダケソウ キンポウゲ科

南アルプスを代表する『氷河時代の遺存種』であるキタダケソウ。6月中旬から7月上旬に白い花を咲かせます。北岳のみ生育している固有種です。世界中のどこを探してもここ北岳にしか咲いていません。1931年清水・諏訪氏が北岳で最初の発見をし、1934年に中井・原が清水・諏訪氏が採取した標本をもとに学名を付けたそうです。

【タカネマンテマ】

タカネマンテマ ナデシコ科

一度見たら忘れないこのフォルム。国内では南アルプスのみ生育しています。スイカのようなしましま部分は萼筒(がくとう)で、この萼筒の先端からピンク色の花弁がわずかに出ます。花をつけている時は萼筒が下を向いていますが、種子になり始めるとだんだん上を向いてきます。

【チョウノスケソウ】

チョウノスケソウ バラ科

7月から8月に白い花を付ける落葉小低木です。「チョウノスケソウ」という名前はロシアの植物学者マキシモビッチの助手である「須川長之助」が発見したことがきっかけで名付けられました。似ている花がいくつかありますが、チョウノスケソウはしわが多く楕円形の葉を付けています。

南アルプスの高山は冬の低温と季節風にさらされる大変厳しい環境です。近年問題となっている温暖化が『氷河期の遺存種』へどのような影響を与えてしまうのか、とても心配です。また、盗掘や踏み込みなどの人的要因も問題視されています。今回紹介した植物の採取は禁止されています。採ったり、傷つけることのないよう、観察するようにしてくださいね。