佐渡
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2018年05月17日佐渡の春は島ならではの春
佐渡 原奈緒子
みなさん、こんにちは
佐渡ではカッコウが鳴き始めて、佐渡の短い春はあっという間に過ぎていったようです。
トキたちは繁殖期の真最中。ふ化が始まり、生まれたばかりの黒い顔のヒナが確認されています。
ヒナの顔は黒く、灰色の羽毛に包まれており、親鳥とは特徴が異なります。しかし、生まれた時からくちばしの先はピンク色をしていて、トキの面影があります。
▲左:ヒナ3羽に給餌する親(5月10日撮影) ▲くちばしの先に注目!
一方、山では雪解けと共に一斉に春植物が花を咲かせていました。
佐渡にはタヌキより大きなほ乳類が生息していないため、シカ食害がないことも豊かな春植物を楽しめる理由の一つです。
▲上段:フクジュソウ、キクザキイチゲ、カタクリ
下段:様々な色形の雪割草(オオミスミソウ)
車道沿いにもいたるところに春植物の代表格であるカタクリの群生地があります。
よ~くみると違和感が、、、
葉っぱに注目です。わかりましたか?
なんと、佐渡のほとんどのカタクリは葉に斑が入っていません。
▲佐渡のカタクリ(斑なし) ▲長野県で撮影したカタクリ(斑あり)
のっぺりとした黄緑色が太陽に照らされてきらきら光る様子がまだ雪が残る殺風景な山の景色を華やかにさせます。カタクリを見れば、このしっとりした感触を確かめずにはいられません。(カタクリは花を咲かせるまでに8年もかかると言われています。やっと咲かせた命を傷つけないように優しく扱いましょう。)
これは元々斑なしの個体が佐渡に入って、分布を広げたからとも言われています。
他にもこれからが見頃のホタルブクロは紅紫色と白色の2色がありますが、佐渡で見られるのは白色ばかり。これも白花の個体群が佐渡にあったために、全島的に白色が生育していると言われています。
鳥や人のように自由に行き来できない植物は佐渡で島ならではの分布をしています。
野生のトキが最後に生息していた佐渡島には四季を通して豊かな自然があり、人の生活するすぐそばで自然にふれあうことができます。これからの時期は海岸線にトビシマカンゾウの黄色が目立ちます。穏やかな夏の佐渡に足を運んでみませんか。
▲大野亀のトビシマカンゾウ(2017年5月27日)
2018年03月09日トキと一緒にいる生き物
佐渡 近藤陽子
皆様、こんにちは。
<佐渡自然保護官事務所のふもとから撮影した夕日 2/22撮影>
新潟県佐渡市は、暖かく晴れる日が増え、春の気配を感じられるようになりました。トキたちも、凍り付いた水田が減り、ようやくエサを確保しやすい時期になったのではないでしょうか。
間もなく、春の訪れとともに、渡り鳥たちが佐渡にもやって来ます。
今回は、渡り鳥も含め、トキと一緒にいる生き物をご紹介したいと思います。
トキと一緒にいることが多い生き物。まずはサギ類。
<あぜで日光浴するトキとアオザギ>
<水路で採餌するトキとダイサギ>
トキもサギもどちらも大型の水鳥で、水辺でエサを取ります。トキが下りているところにサギが下りてきたり、サギが下りているところにトキが下りてきたり。サギ類は、トキにとって時としてエサ場の目印となる、ありがたい存在なのかもしれません。
次によくトキと一緒にいる生き物。それは、カラスとトビ。
<採餌中のトキとハシブトガラス>
<トキと同じ木にとまるトビ>
カラスは、トキの放鳥が始まった2008年から、トキの天敵とされてきました。トキを追い回し、トキの卵を盗んだり、トキのヒナを攻撃して死なせてしまったりと、佐渡では悪者のイメージが強い鳥です。しかし、放鳥10周年を迎える2018年現在、トキを追いかけるカラスを見ることはほとんどなくなりました。トキの数が佐渡島内でも増加し、カラスにとって見慣れた鳥になったからかもしれません。
また、トビは猛禽ですが、トキと一緒に木にとまっているところをよく目にします。営巣林もトキとトビとで共有していることも多く、トキの巣を見ていると思ったら、トビの巣だった。なんてこともあります。トキがトビの古巣を使用することもあります。天敵からお互い身を守りやすい等、営巣林を共有するメリットが何かあるのかもしれません。
水田を利用するシギ類もトキと一緒にいます。
<積雪で限られたエサ場にあらわれたトキとタシギ>
<トキの幼鳥と採餌するタカブシギ>
越冬しに佐渡に渡ってくるタシギ、渡りの途中に佐渡に立ち寄るタカブシギ。佐渡の水辺が、トキだけでなく多くの鳥たちのオアシスとなっていることが分かります。
その他、珍客とトキが一緒にいることもあります。
<トキの群れに混ざって採餌するアカガシラサギ>
<トキの群れに混ざって飛翔するヘラサギ>
アカガシラサギは佐渡では毎年数羽確認されています。トキの群れに混ざって確認されることも多く、トキとともにねぐら出し、トキとともに採餌していました。また、トキと交尾のまねごと(擬交尾)をする様子も観察されています。
ヘラサギは、希な迷鳥として確認されています。トキと同じトキ科に属する水鳥で、ハクチョウの群れとともに行動していたり、トキの群れとともに行動していたり、白っぽい鳥といる印象を受けました。佐渡で確認されることがほとんどないヘラサギと、日本では佐渡でしか見ることのできないトキの群れ。ヘラサギとトキ3羽が一緒に飛翔する姿を捉えたこの写真は大変貴重なものと言えるでしょう。
そして、時にはこんなことも...
<トキににじりよるクロネコ>
<トキを狙う茶トラネコ>
トキを襲うそぶりを見せるネコたちですが、実際に襲った様子が観察されたことはありません。観察していると、トキは、首を伸ばして大きく見えるような姿勢を取り、「ター!ター!」と警戒して鳴き続けます。ネコの獲物としては大きいようで、ネコも狙ってはみるものの、本気で襲うつもりはないようです。トキたちもそれを知ってか知らずか、ネコが近付いてもすぐに飛び立つことはせず、しばらく様子を見ていることが多いように感じます。
最後に、トキと一緒にいる生き物。
一度は、絶滅してしまったトキですが、今では人間もトキと一緒にいる生き物に含まれるようになりました。
これからも、こんな風景がずっと続きますように。
2018年02月19日トキガイド養成講座
佐渡 原奈緒子
みなさんこんにちは
先日、佐渡市が主催している「トキガイド養成講座」でトキのモニタリング体験会を行いました。
▲古い新聞記事などの貴重な資料も交えて紹介する若松レンジャー
トキガイド養成講座とは、トキ野生復帰への取り組みの一環として、トキの生態などを現地にて案内できる「トキガイド」を養成するために佐渡市が開設しているものです。講座は全9回行われ、その後に行われる検定試験で6割以上正解すると、「トキガイド」として認定されます。佐渡市では現在約100名がトキガイドに登録しており、飼育トキの観察施設がある、トキの森公園やエコツアーの旅行者向けにボランティアでガイドをしています。
今年の受講生はなんと60名以上!
講座の内容や、野外のトキの状況は毎年少しずつ変わっているので、既にトキガイドとして活動されていても毎年受講している勉強熱心な受講生もみられます。
▲まずは双眼鏡の正しい使い方をマスターします
佐渡事務所では第1回目に「トキ野生復帰の取組みとモニタリングについて」というタイトルで講座を担当しました。
レンジャーより、トキの野生復帰事業や佐渡におけるトキ保護の歴史について講義をした後、昼休憩をはさんでモニタリングの実習を行いました。
▲実習場所から外の田んぼにいるトキを探す皆さん
実際のモニタリングで使用している機材を使って、トキにつけた足環を読んだり、観察する際にトキに影響のない距離感(車内から観察するときは200m程度)を体感してもらいました。
▲【実際の様子】実はこの中にトキがいます
▲うっすらシルエットがわかりますか?
本物のトキがタイミングよく降りているとは限らないので、今回はデコイ(模型)に活躍してもらいました。
観察会の最中にはなんと、本物のトキが飛んで来るという嬉しいサプライズもありました。
雪景色の中を美しいトキ色をしたトキが舞い上がると大きな歓声が上がり
受講生の皆さんと時間いっぱいまで楽しみました。
2018年02月01日雪のトキ
佐渡 近藤陽子
皆様、こんにちは。
新潟県佐渡市は寒波の影響により、島内の約40%の世帯で断水するという異例の事態となりました。2月1日現在、復旧が進み、ほとんどの世帯で水が使用できるようになっています。
このような天気の中、トキたちはどのように生活しているのでしょうか。
今回は、私たちが観察した冬のトキの行動をお伝えします。
トキの行動は、通常、夜明けとともに始まります。日が昇り始める頃、ねぐらから飛び立ち、エサ場へ向かいます。しかし、最近のような吹雪の日は、夜明け後もしばらくねぐらの林の中にとどまることが多く、ねぐら出するまでに時間がかかるようです。
また、ねぐら出しても、簡単にエサを取ることはできません。
一面が雪で覆われるこの時期、凍り付いていないエサ場となる水辺を探し出さなくてはいけません。湧水がある場所や雪に覆われていないごく限られた水辺を、トキたちは上手く見つけ出し、エサを取っていました。あぜで冬眠しているイモリを掘り出して食べたり、動きの鈍くなったドジョウを泥底から見つけて食べたり、凍ったミミズを雪の下から見つけて食べたりと、くちばしの先の感覚を使ってエサを取っていました。
トキたちは、気温が上がり氷が解けるまで、木々にとまって待っていることもあります。
こうした悪天候の日は、エサ探しに1日のほとんどを費やし、暗くなる前に、ねぐらへと戻って来ます。多くのトキが、決まったねぐらを持ち、ねぐら出した林へと夕方戻って来ますが、吹雪の日は、ねぐらとする林を変えているようです。最後にエサを食べた場所の近くでねぐらを取っているのかもしれません。
断水が起こるだけで、生活に大きな支障が出る私たち。寒波が来ても、生き抜く力を備えているトキたち。私たち人間も、過酷な環境を生きる彼らから学ぶことは多いのかもしれません。
2018年01月17日トキと佐渡の野鳥の写真展 開催中!
佐渡 近藤陽子
皆様、こんにちは。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
<朝日... ではなく、加茂湖からの夕日と大佐渡山脈>
今回は、写真展のご案内です。
2018年1月17日現在、新潟県佐渡市両津港にて、トキと佐渡の野鳥の写真展を開催しています。車が行きかう道路の横を飛翔するトキや、佐渡に飛来した珍しい渡り鳥など、佐渡の豊かな自然を垣間見ることができる貴重な写真が盛りだくさん!ルアー釣りをする鳥や最大70mまで潜水する鳥など、プチ解説も見どころのひとつです。佐渡にお越しの際は、是非お立ち寄りください!
【開催期間】2018年1月15日(月)~3月14日(水)
【場所】佐渡汽船両津港 お食事とおみやげの館シータウン佐渡
【料金】入場無料
【お問合せ】環境省佐渡自然保護官事務所 TEL:0259-22-3372(土日祝日除く)
主催:環境省佐渡自然保護官事務所
共催:日本野鳥の会佐渡支部
2018年01月10日こめどころの別の顔
佐渡 原奈緒子
皆さんこんにちは
普段は佐渡島でトキのモニタリングを行っていますが、今回はなんと海を越えて新潟に上陸しました。
新潟県内にある佐渡島外の国指定鳥獣保護区について
野鳥の飛来状況や観察施設の管理運営状況について調査を行うためです。
米どころとしても有名な新潟は越後平野という名でも知られています。
信濃川や阿賀野川などの大きな河川によって運ばれた土砂がたまってできた平野のため、
もともと水をためやすい性質を持っていて、新潟市内だけでも16もの潟があります。
今回は、冬鳥の大切な越冬地になっている「佐潟(さかた)」、「福島潟」、
そして阿賀野市にある「瓢湖」の3つの国指定鳥獣保護区に行ってきました。
▲佐潟水鳥・湿地センターからの眺め 望遠鏡を自由に使うことが出来る
佐潟には「佐潟水鳥・湿地センター」があり、観察機材も充実しています。
潟に面したガラス窓からは備え付けの望遠鏡でカモ類などを観察することができます。
▲ビュー福島潟の屋上から見た福島潟
福島潟にある全面ガラス張りの「ビュー福島潟」からは福島潟全体を見下ろせ、
潟際に設置したカメラの映像をのぞけば施設の対面にある野鳥の姿や声も聞くことが出来ます。
手前の緑色をしている草地は春になると一面菜の花畑になるのだとか。
▲瓢湖のハクチョウやオナガガモ、ヒドリガモなど
瓢湖は湖の周りを一周歩ける遊歩道が整備されており、間近でハクチョウをみることができます。
到着したのは夕方だったので、ちょうどエサ場の田んぼから寝床である湖に帰ってくるところでした!
新潟県の広大な水田地帯は私たちのお腹を満たすだけでなく、
ハクチョウなどの冬鳥の貴重なエサ場となっているのです。
春になると冬鳥たちはさらに北へ帰ってしまいますが、いずれの場所でもオニバス、ミズアオイなど
貴重な植物や季節の花を一年通して楽しむことが出来ます。
冬鳥は体も大きく、水辺でゆったりと浮いているので鳥観察初心者の私でも比較的簡単に観察できます。
今年の冬はこたつにみかんも良いですが、ちょっと早起きして冬鳥探してみませんか。
~おまけ~
▲今回の現地調査ではコウノトリも観察できました!左はコサギ
2017年11月29日ようこそ日本へ!
佐渡 近藤陽子
皆様、こんにちは。
新潟県佐渡市では、佐渡最高峰の金北山で冠雪が確認されました。
日本海が荒れる日も増え、冬の到来を感じます。
<11/11撮影 佐渡市真野の海岸を埋める"波の花">
この日本海に浮かぶ佐渡島は、冬、遠く離れた外国から、海を渡ってやって来た渡り鳥たちの貴重な中継地・越冬地となっています。
「佐渡と言えばトキ」と、ついトキだけに目が行ってしまいますが、トキがいるということは、言い換えれば、トキが生息できるほど佐渡の自然が豊かだということ。佐渡の自然は、トキだけでなく、多くの渡り鳥たちの命をも支えています。飛び続けて疲れた羽を休め、豊富なエサで体力の回復を図ることができる、渡り鳥たちのオアシスと言えるでしょう。
現在、たくさんの冬の渡り鳥が飛来している佐渡ですが、先日、珍しい鳥が確認されました。確認された鳥は、コハクチョウというハクチョウの仲間。それだけであれば、佐渡では特段珍しいわけではありませんが、このコハクチョウ、何と「足環」と「ネックバンド」が装着されていました!
<個体識別のための足環とGPSシステムが付いたネックバンドを装着したコハクチョウ>
写真を確認すると、左脚には、「A45」と記載された赤い足環が、右脚には、「Moscow(モスクワ)」の文字と番号が記載されたメタルリングが装着されていました。
鳥に標識(足環)をつけて放鳥し、再捕獲することで、渡りルートや寿命などを調べる、「鳥類標識調査」は、世界各地で行われており、このコハクチョウは、ロシアで足環をつけられたようでした。
日本の鳥の研究機関である、山科鳥類研究所に確認したところ、2017年8月20日にロシアのチャウン湾で標識された成鳥であることが判明しました。このコハクチョウは約4,000kmもの距離を飛んで、佐渡にやって来たことになります。
ようこそ、日本へ!
この身ひとつで大陸を渡り、大海原を越えて、遠くロシアからやって来たことが証明されたコハクチョウ。渡り鳥たちが大陸から渡ってきていることは知識として分かってはいましたが、実際にそれが証明されると、「よくぞここまで生きてやって来た!」と、愛おしく感じられました。
こうした感動を私たちに与え、トキを含む多種多様な生き物の命を支える佐渡の自然が、失われることなく続くことを願ってやみません。
2017年11月02日マニアックな新規放鳥トキの識別方法
佐渡 近藤陽子
皆様、こんにちは。
環境省 佐渡自然保護官事務所がある、
新潟県佐渡市では、紅葉が見ごろを迎えています。
9月22日に放鳥されたトキたちは、佐渡の自然に馴染み、元気に過ごしているようです。
今回は、「放鳥されたばかりのトキ(以下、新規放鳥トキ)」か、「野生下での生活が長いトキ(以下、野生下トキ)」かを見分ける方法についてお話しします。
この見分け方は、トキの観察を日々行っているモニタリングチームのメンバーが使っている方法で、正式なものではありません。また、すべてのトキに当てはまるわけではありません。
こんなことを知っているのは、相当なトキマニア。トキマニアの第一歩を踏み出したいとお思いの方は、是非読み進んでいただきたいと思います。
さて、新規放鳥トキか、野生下トキか。
識別のポイントは「目」です。
この2枚の写真のトキの「目」にご注目ください。
何かお気づきになられたことは、ありますか?
トキの目(成鳥)は、虹彩がオレンジ色、瞳が黒色をしています。
しかし、放鳥されたばかりのトキは、虹彩にほとんど色がありません。
先ほどの写真をもう一度見てみると、左のトキの虹彩には、ほとんど色がなく、ほぼ透明です。
右のトキはオレンジ色の虹彩をしています。
新規放鳥トキ 野生下トキ
よって、左が「新規放鳥トキ」、右が「野生下トキ」です。
では、次の2枚の写真をご覧ください。どちらが「新規放鳥トキ」でしょうか。
虹彩にほとんど色がないトキ。
正解は、右のトキです。
すべての新規放鳥トキの虹彩に色がないわけではありませんが、多くがこのような傾向にあるようです。
放鳥されるまで飼育下にあったトキと、佐渡の自然の中で生きているトキとでは、目の色に差が出るようです。理由ははっきりしていませんが、エサがある程度影響しているのではないかと考えられています。
飼育されているトキたちは、馬肉が主な成分である飼料や、ドジョウを食べています。野生下のトキたちは、ドジョウやミミズ、ザリガニやバッタなど様々なものを食べています。
放鳥されたトキたちは、野生下のトキと同様のエサに切り替わります。新規放鳥トキたちも、野生下で暮らす時間が長くなるにつれて、虹彩の色が濃くなっていき、いずれ目の色をもとに識別することができなくなります。
9月に放鳥されたトキの多くが、現在でも薄い色の虹彩をしています。
環境省 佐渡自然保護官事務所が毎週更新している ☞「放鳥トキ情報」HP には、最新のトキの写真が掲載されています。HPをご覧いただくときに、目の色にも注目していただくと、新規放鳥トキの識別ができるかもしれません。
新規放鳥トキ 野生下トキ
2017年10月23日「順化ケージ」で稲刈り
佐渡 近藤陽子
皆様、こんにちは。
新潟県佐渡市では、朝晩冷え込むようになりました。
トキたちも、年に一度の羽の生え変わりの時期を迎え、美しい「とき色」が目立つ季節となりました。
佐渡各地で稲刈りも終盤に差し掛かった10月17日(火)、「順化ケージ」で稲刈りを行いました。
佐渡自然保護官事務所がある施設内には、「順化ケージ」という、敷地面積80m×50m、高さ15mの巨大なケージがあります。
<順化ケージ正面>
ここでは、放鳥したトキたちが自然界で生きていけるよう、飛翔/採餌能力・社会性などを身につけるための訓練を行います。そのため、ケージ内は、実際の佐渡の里地里山の環境を再現した棚田も作られています。この棚田では、例年、実際に米作りを行っており、田植えをする人間の姿をトキに学んでもらうほか、田植え直後の稲をトキが踏んでしまうことで起こる稲踏み被害の実態調査も行っています。
<順化ケージ内部 8/19撮影>
9/22日に今年の放鳥が終了し、トキがいなくなった順化ケージで、飼育トキを担当している新潟県佐渡トキ保護センターの職員の方々と一緒に稲刈りを行いました。
<順化ケージ内棚田での稲刈りの様子>
順化ケージ内には、カエルやバッタなど、トキのエサとなる生物もたくさんいました。トキを頂点とする小さな生態系ができており、自然に近い環境であることが分かります。
順化ケージでの稲刈りは、手刈りで行います。鎌を使っての稲刈りは初めて。水田の生き物を間近で目にする良い機会でした。トキの足跡やくちばし跡が稲の根元に集中しており、水生生物がどこにたくさんいたかが、よくわかりました。
<稲の根元にトキのくちばし跡の穴が集中しています>
放鳥されたトキたちも、この棚田で学んだ経験を野外で活かし、力強く生きていってくれることを願います。
皆様、こんにちは。
新潟県佐渡市では、爽やかに晴れ渡る日が増え、出かけるのが楽しくなる季節になりました。
<佐渡市鷲崎、二ツ亀 2018.5.26撮影>
現在、佐渡のトキたちは繁殖期真っ只中。しかし、今年は多くのペアで繁殖の失敗が確認されています。巣を作っていたけれど、途中で作ることをやめてしまったペア。卵を温めていたけれど、途中で温めるのをやめてしまったペア。ヒナが誕生していたけれど、天敵の捕食にあったのか、ヒナが確認されなくなってしまったペア。今年、誕生したヒナの羽数は、昨年の3分の2ほどにとどまっています。
そんな波乱に満ちた今年の繁殖期、職員が驚くような繁殖成功もありました。
それは、No.92(オス)とNo.200(メス)ペアの繁殖成功です。
<No.92(オス)>
<No.200(メス)>
たかだか繁殖成功と思うかもしれませんが、データ上、このペアが繁殖に成功することはほぼないとされていました。
その大きな理由に、このペアの有精卵率の低さがあります。
トキの繁殖失敗が観察で確認されると、職員は巣の下へ行って卵の殻を回収します。この卵の殻から有精卵か、無精卵か、トキが何個卵を産んだのかを調べます。
<トキの巣の下に落ちている卵殻 ※写真は92×200とは別ペア>
2015年からペアとなり、毎年繁殖に参加している92×200(職員が記録を取る時、ペアを92×200、92/200などと記載します)。回収された卵殻の解析の結果、92×200の有精卵率はずっと1割ほど。自然界で繁殖している他のトキ達と比較しても、これはかなり低い数字です。
有精卵率が低くなる要因として、トキの飼育形態が影響していると考えられています。No.92は人・人(じんじん:「人工ふ化・人工育雛」の職員が使用する略語。No.92は、ふ卵器内でふ化し、育雛器内で育ちました。)で、No.200が人・自(じん・じ:「人工ふ化・自然育雛」の略語。ふ卵器内でふ化し、トキの親に育てられたトキのこと)。
トキのトキへの刷り込みは、ヒナの目が見えるようになった時期に起こっていると考えられています。ヒナの目が見えるようになった時期に育雛器に入っていると、初めて見る生き物が人間となり、こうして育ったトキは繁殖期にトキに対する繁殖へのモチベーションが、トキの親の元でふ化し育ったトキに比べて低くなるようです。その結果、上手く交尾ができずに有精卵を産むことができないのではないかと考えられています。
<親が育てない等の理由で人工育雛されているトキのヒナ>
こうした背景もあり、3年連続で繁殖に失敗している92×200に対して、職員は今年も繁殖成功はしないだろうと予測していました。
しかし!今年の繁殖期、92×200はついにヒナを誕生させました!しかも2羽!
<左からNo.92とヒナ2羽>
毎年92×200の巣作りから抱卵、抱卵中止を観察し続け、頑張ってるけれど成功しないこのペアを見守ってきた私たち職員にとって、本当に嬉しいニュースでした。
「繁殖の経験を積むほど有精卵を産む確率は高まる」とのデータは出ています。が、ここまで有精卵率が低かった92×200ペアの今年の大逆転は、これからのトキの前途が大きく開かれていくような希望を与えました。
今後は、このヒナたちが無事に巣立ち、再来年、92×200の子供たちが繁殖する姿を見られることを夢見て、今年の繁殖期を引き続き見守っていこうと思います。
<ヒナに吐き戻したエサを与えるNo.92>