関東地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。
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みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
いきなりですが、問題です!これはなんの動物の足跡でしょうか?
ヒントは4つ足で、オスには角が生えています。山に行くと時々見ることができる動物です。答えは・・・この動物です!
そうです、ニホンジカです。
そもそもニホンジカってどんな動物なのでしょう。基本情報をまとめてみました。
□体長:130から140cm
□体重:40から90kg
□夏毛:オスメスともに茶褐色
□冬毛:オスは濃茶色、メスは灰褐色
□寿命:オスは10から12才、メスは15から20才
△コバイケイソウを食べるニホンジカ(平成26年(2014)撮影)
■食べ物は主に草です。葉や実、落ち葉、樹皮など植物ならたいていのものは食べてしまいます。最近では、毒があり、シカは食べないとされているコバイケイソウやトリカブトをも食べてしまう個体も出てきています。
■なわばりを持たず、群れで生息します。気に入った場所があるとしばらく滞在する習性があり、周辺の植物を食べ尽くしてしまうことがあります。
■メスは生まれて1才半で大人になり、生まれた次の年(2才)から出産します。毎年1頭ずつ出産することがふつうとされていて、高齢になっても出産率は低下しないと言われています。
■シカの足はとても健脚で、数kmから数十kmも移動することができます。南アルプスに出現するニホンジカは夏に高山・亜高山帯へ登り、冬の間は寒さを避けるために標高の低いところへ移動します。
■角はオスジカのみ付いています。角は毎年春先に付け根から脱角し、生え変わります。最初は血管が通った柔らかい皮を被った「袋角」。秋には血管が通らなくなり、硬い骨質の角になります。秋には硬くなった角を木に擦りつけて研ぐ行動が見られます。
南アルプスでは平成10年頃から稜線付近に現れるニホンジカが急激に増え、お花畑での食害が大きな問題になっています。なぜ、増えてしまったのでしょう。大きな原因の一つとして、私たち人間がニホンジカを捕らなくなったため、個体数が増え、生息域を里山から高山帯へ拡げているといわれています。
ニホンジカによる影響は花だけではありません。樹木や土壌にも大きな影響が見られています。
△樹皮が食べられてしまったハイマツ
△裸地化が進んでしまった塩見岳(手前の灰色の部分は過年度に設置した土壌流出防止マット)
写真のハイマツのように樹皮が食べられてしまった樹木は水分と養分を全体に運ぶことができなくなり、最終的には枯れてしまいます。オスジカが角を研ぐために行う行動によっても樹皮が剥がされてしまいます。塩見岳山頂直下にもかつてお花畑が拡がっていましたが、採食圧や踏圧により平成18年頃からヨモギやイネ科が優先するお花畑に変化し、平成21年には裸地化が進むほど景観が変化してしまいました。
南アルプス自然保護官事務所では県や市町村、民間団体と協力しながらシカ対策を行っています。これまでの日記でも取り上げてきましたが、どのような取り組みを行っているかご紹介したいと思います。
対策1 防鹿柵の設置
△防鹿柵設置のようす
ニホンジカに植物を食べられてしまうのを防ぐために設置される柵のことを防鹿柵といいます。南アルプスには1年を通して設置されている柵、夏季のみ設置されている柵、背が低い柵の3パターンの柵が設置されています。柵は1度立てて終わりではなく、維持管理の作業が毎年必要になります。南アルプスでは冬季にかなりの積雪があるため、斜面に柵を設置したままにしておくとひしゃげて使い物にならなくなってしまいます。このため、1年を通して設置してある柵は毎年メンテナンスを行います。また、夏季のみ設置されている柵は夏に立ち上げ、秋に撤去作業が行われます。柵で囲った場所、囲ってない場所で比較すると、草丈や見られる種類に大きな差が見られます。かつてのお花畑には戻っていませんが、徐々に回復してきている場所もあります。
対策2 土壌流出防止
△土壌流出防止のため、マットで覆う作業のようす
ニホンジカによる食圧や踏圧によって、地面がむき出しの状態になると雨風や雪解けによって土が流されてしまいます。土が流れてしまうのを防ぐために植物の繊維で作ったマットで地面を覆う対策を行っています。マットで覆うことで土壌が流れにくくなるほか、地面の温度変化が穏やかになり、飛んできた種から芽が出やすくなる効果もあります。
対策3 捕獲
南アルプスのニホンジカ問題を根本的に解決するためにはニホンジカの捕獲も重要です。南アルプス国立公園内の林道沿いや山麓など周辺地域では、林野庁や県、市町村が捕獲を実施しています。捕った命を無駄にしないで活用するため、南アルプス山麓(山梨県早川町、北杜市、長野県伊那市、大鹿村)ではジビエ料理として提供したり、肉や加工品を販売しているお店もあります。
ニホンジカ増加の原因は捕獲者の減少以外にもさまざまですが、地球温暖化によって昔よりも冬季が寒くなくなっていることや積雪量が少なくなっていることで命を落とすシカが減ったことも個体数の増加につながっていると考えられています。地球温暖化や環境問題について考え、行動することも大切です。現在の自然や景観を回復して後世に残せるように、そしてニホンジカとの共存ができる環境になってほしいと思います。
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アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、日光、尾瀬、秩父多摩甲斐、小笠原、富士箱根伊豆、南アルプス国立公園があります。
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
いきなりですが、問題です!これはなんの動物の足跡でしょうか?
ヒントは4つ足で、オスには角が生えています。山に行くと時々見ることができる動物です。答えは・・・この動物です!
そうです、ニホンジカです。
そもそもニホンジカってどんな動物なのでしょう。基本情報をまとめてみました。
□体長:130から140cm
□体重:40から90kg
□夏毛:オスメスともに茶褐色
□冬毛:オスは濃茶色、メスは灰褐色
□寿命:オスは10から12才、メスは15から20才
△コバイケイソウを食べるニホンジカ(平成26年(2014)撮影)
■食べ物は主に草です。葉や実、落ち葉、樹皮など植物ならたいていのものは食べてしまいます。最近では、毒があり、シカは食べないとされているコバイケイソウやトリカブトをも食べてしまう個体も出てきています。
■なわばりを持たず、群れで生息します。気に入った場所があるとしばらく滞在する習性があり、周辺の植物を食べ尽くしてしまうことがあります。
■メスは生まれて1才半で大人になり、生まれた次の年(2才)から出産します。毎年1頭ずつ出産することがふつうとされていて、高齢になっても出産率は低下しないと言われています。
■シカの足はとても健脚で、数kmから数十kmも移動することができます。南アルプスに出現するニホンジカは夏に高山・亜高山帯へ登り、冬の間は寒さを避けるために標高の低いところへ移動します。
■角はオスジカのみ付いています。角は毎年春先に付け根から脱角し、生え変わります。最初は血管が通った柔らかい皮を被った「袋角」。秋には血管が通らなくなり、硬い骨質の角になります。秋には硬くなった角を木に擦りつけて研ぐ行動が見られます。
南アルプスでは平成10年頃から稜線付近に現れるニホンジカが急激に増え、お花畑での食害が大きな問題になっています。なぜ、増えてしまったのでしょう。大きな原因の一つとして、私たち人間がニホンジカを捕らなくなったため、個体数が増え、生息域を里山から高山帯へ拡げているといわれています。
ニホンジカによる影響は花だけではありません。樹木や土壌にも大きな影響が見られています。
△樹皮が食べられてしまったハイマツ
△裸地化が進んでしまった塩見岳(手前の灰色の部分は過年度に設置した土壌流出防止マット)
写真のハイマツのように樹皮が食べられてしまった樹木は水分と養分を全体に運ぶことができなくなり、最終的には枯れてしまいます。オスジカが角を研ぐために行う行動によっても樹皮が剥がされてしまいます。塩見岳山頂直下にもかつてお花畑が拡がっていましたが、採食圧や踏圧により平成18年頃からヨモギやイネ科が優先するお花畑に変化し、平成21年には裸地化が進むほど景観が変化してしまいました。
南アルプス自然保護官事務所では県や市町村、民間団体と協力しながらシカ対策を行っています。これまでの日記でも取り上げてきましたが、どのような取り組みを行っているかご紹介したいと思います。
対策1 防鹿柵の設置
△防鹿柵設置のようす
ニホンジカに植物を食べられてしまうのを防ぐために設置される柵のことを防鹿柵といいます。南アルプスには1年を通して設置されている柵、夏季のみ設置されている柵、背が低い柵の3パターンの柵が設置されています。柵は1度立てて終わりではなく、維持管理の作業が毎年必要になります。南アルプスでは冬季にかなりの積雪があるため、斜面に柵を設置したままにしておくとひしゃげて使い物にならなくなってしまいます。このため、1年を通して設置してある柵は毎年メンテナンスを行います。また、夏季のみ設置されている柵は夏に立ち上げ、秋に撤去作業が行われます。柵で囲った場所、囲ってない場所で比較すると、草丈や見られる種類に大きな差が見られます。かつてのお花畑には戻っていませんが、徐々に回復してきている場所もあります。
対策2 土壌流出防止
△土壌流出防止のため、マットで覆う作業のようす
ニホンジカによる食圧や踏圧によって、地面がむき出しの状態になると雨風や雪解けによって土が流されてしまいます。土が流れてしまうのを防ぐために植物の繊維で作ったマットで地面を覆う対策を行っています。マットで覆うことで土壌が流れにくくなるほか、地面の温度変化が穏やかになり、飛んできた種から芽が出やすくなる効果もあります。
対策3 捕獲
南アルプスのニホンジカ問題を根本的に解決するためにはニホンジカの捕獲も重要です。南アルプス国立公園内の林道沿いや山麓など周辺地域では、林野庁や県、市町村が捕獲を実施しています。捕った命を無駄にしないで活用するため、南アルプス山麓(山梨県早川町、北杜市、長野県伊那市、大鹿村)ではジビエ料理として提供したり、肉や加工品を販売しているお店もあります。
ニホンジカ増加の原因は捕獲者の減少以外にもさまざまですが、地球温暖化によって昔よりも冬季が寒くなくなっていることや積雪量が少なくなっていることで命を落とすシカが減ったことも個体数の増加につながっていると考えられています。地球温暖化や環境問題について考え、行動することも大切です。現在の自然や景観を回復して後世に残せるように、そしてニホンジカとの共存ができる環境になってほしいと思います。