2020年11月20日
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2020年11月20日アサギマダラの旅立ち(箱根地域)
富士箱根伊豆国立公園 山口光子
皆さん、こんにちは。
富士箱根伊豆国立公園管理事務所の山口です。
今回はアサギマダラという蝶のお話です。
少し前のお話なのですが9月から10月にかけて、箱根ビジターセンターではアサギマダラの幼虫が展示され、羽化までの変化を観察することが出来ました。
【 アサギマダラ幼虫 9/25撮影 】
地元箱根在住の蝶研究家の御庭で、9月下旬にアサギマダラの幼虫が見つかりました。お客様に紹介できるようにとのご厚意から、箱根ビジターセンターでの展示を開始しています。定期的に食草も運んで頂き、成長を見守っていたところ、見事に成長し・・
【 サナギ 10/1撮影 】
2匹が同時にサナギとなりました。きれいな緑色のサナギが隣り合わせで並んでいます。
同じような場所を選んだことは驚きでした。
蝶のサナギには寄生蜂が宿ることも多く、必ず正常に羽化するとは限らないそうです。もしかしたらうまくいかないかもと思いながらも、見守りました。
すると、1羽目は10/13、気がつくと無事に成虫となっていました。この1羽は状態が安定したのを見計らって、野に放っています。そして、もう1羽。どうなるかと心配しながら数日観察していましたが、10/15朝に飼育ケースをのぞき込むと、緑色だったサナギの表面が透明に変わり、中で真っ黒な物体がもぞもぞと動いていました。驚いて見ていると、そのまま成虫の羽化が始まり、ビジターセンターにいたお客様と一緒に一部始終の観察をすることが出来ました。ご一緒したお客様も、とても感動していました。
あまりの驚きに、羽化中の写真は撮れませんでしたが、羽が開ききった成虫がこちらです。
【 羽化直後の成虫 10/15撮影 】
翌日まで羽が乾くのを待ち、野に放つこととしましたが、その前に研究家の指導を受けて一作業。アサギマダラは驚くほどの長距離を飛行し、旅する蝶として有名です。全国で研究のためにマーキングが施され、その研究結果によると本州から沖縄や台湾まで移動をしたという記録も残っています。そこで箱根ビジターセンターでも、研究協力を試みることになり、指導を受けながら羽にマーカーで日付と生まれた場所が分かるようにマーキングを行い、放蝶しました。
【 ヒヨドリバナにおいた直後 10/16日撮影 】
周辺で良く咲いていたヒヨドリバナの上にのせたところ、すぐに給蜜を始めました。おなかがすいていたのでしょう。旅のエネルギーを貯めるように、夢中で蜜を吸っていました。
【 ハコネビジターセンターとアサギマダラ 10/16撮影 】
その後、しばらくは箱根ビジターセンターの正面で休んでいましたが、夕方には姿を消していました。さて、今頃はどこまで飛んでいったでしょうか。南に向かって、旅の最中であることを祈るばかりです。
時折このようなマーキングのあるアサギマダラがいるため、アサギマダラを見かけた際にはマーキングの有無も是非確認して見て下さい。もし「ハコネVC」の文字があったときには、観察した場所の情報を箱根ビジターセンターまでご連絡頂けると嬉しいです。
箱根ビジターセンターHP ⇒ http://hakonevc.sunnyday.jp/
ご協力頂きました地元蝶研究家様、貴重な体験をさせて頂きありがとうございました。
皆様、こんにちは。
佐渡自然保護官事務所の近藤です。
私たち佐渡のアクティブ・レンジャーは、佐渡の野生下で暮らすトキのモニタリングを主な業務としています。トキのモニタリングで得たデータは、トキ野生復帰の取組の評価や今後の事業の目標・方針を立てるために活用されます。
トキのモニタリングでは、トキの脚に装着されている足環(あしわ)を確認して個体を識別し、どの個体が、いつ、どこで、何をしていたか、を記録します。こうしたモニタリングによって、トキの生存状況、繁殖結果、トキが好む環境などが分かります。
<全ての放鳥トキと野生下で誕生したトキの一部に個体識別のための足環(左脚に番号リング、右脚にカラーリング)が装着されています。>
<野生下トキの足環の識別表。佐渡市羽茂(はもち)地区で観察していたので、羽茂グループを参照し、写真の個体がB94であると分かりました。>
個体の識別は、モニタリングの基本かつ最重要要素ですが、でこぼこした水田や草の茂みを歩き回るトキの足環を読むのは至難の業です。
<手前の草に脚が隠れてしまっています。>
トキの識別にはスピードが要求されます。観察中、歩行者や車が通過したり、上空を猛禽が飛んだりして、トキが驚き飛んでしまうことがあるからです。トキが飛んでしまっては、足環を読むどころか観察すらできません。
そのため、私たちはトキが飛ぶ前に見せる行動にとても敏感です。
前置きが長くなりましたが、今回はトキが飛び立つ前に見せる行動を紹介します。
通常、モニタリングは車に乗って行います。トキを驚かさないために、観察するトキから150メートル程度(田んぼ約2枚分)離れた安全な場所で停車し、エンジンを切って観察します。エンジンを切った車は生きものとして認識されないのか、そして、車内の人間は確認しにくいのか、車の中からだとトキを警戒させずに自然な行動を観察することができます。
トキの警戒行動は、餌場にいれば、下を向いて餌を捕るのをやめ、頭を高く持ち上げて動きがとまります。水田からあぜに上がってより高い位置からこちらの様子をうかがう個体もいます。木に止まっているのであれば、動きをとめ、頭を高く持ち上げてこちらをじっと見つめます。この場合、150メートル以上離れていても、それ以上近付くと飛んでしまうので、私たちはエンジンをとめてトキを刺激しないよう、そこから観察します。しばらく車の中でじっとしていると、トキたちはまた頭を下げて餌を探し始めたり、羽繕いを始めたりします。このようにトキの警戒が解けると飛翔するリスクは軽減するので、観察を続け、スピーディに識別していきます。
ですが、トキはいつまでも食べている訳ではありません。おなかがいっぱいになれば飛び立ちます。飛び立つ前になると、餌を捕ることに集中しなくなり、歩いたり、きょろきょろしたり、落ち着きがなくなります。そして、「コッ...コッ...」と短く鳴き始めます。鳴き始めたらほぼ確実に飛ぶので、未識別であればその個体を優先的に識別し、識別済みであれば、飛翔写真を撮影するために、一旦観察を中断し、カメラをかまえます。ファインダーをのぞきながら、トキがフンをするのを確認したら、いよいよいつでも撮影できるように心の準備を整えます。鳥は、飛び立つ前、より身を軽くするためによくフンをするからです。素早く飛び立つトキを綺麗に写真に収めるために、飛び立つ前のこうした行動が、近藤個人的には目安になっています。
<鳴いているトキ。のどを膨らませて鳴き声を出しています。飛び立つ前の仕草です。>
<しばらく鳴いたあと、飛び立ちました。>
<飛び立つ前にあらかじめファインダーに入れておいて撮影>
飛び立つ前に鳴くと書きましたが、何かに驚いて慌てて飛ぶ場合はほとんど鳴きません。できるだけ目立たずに危険から離れるための行動かもしれません。
日々同じ生きものを観察していると、さまざまなことが見えてきます。
観察は、言葉を話さない生きものを理解する一番の近道かもしれません。
<オスのキジに近付くトキの幼鳥。どんな会話をしているのでしょう。>