2022年3月23日
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2022年03月23日『大瀬崎』のビャクシン樹林
富士箱根伊豆国立公園 沼津 山田優子
みなさま、こんにちは。沼津管理官事務所の山田です。
ソメイヨシノが開花しはじめました。色とりどりの花が咲いて街が華やかです。
今年度最後の日記は大瀬崎(おせざき)海岸を紹介したいと思います。
大瀬崎海岸は沼津市西浦にある海岸で、岬が駿河湾に突き出たような形をしています。富士山が美しく見えることから、富士箱根伊豆国立公園指定80周年を記念して国立公園内および周辺地域の代表的な眺望地を選定した「富士山がある風景100選」に選ばれた場所です。
岬には国の天然記念物に指定されたビャクシン樹林が自然のまま群生しています。海に囲まれた大瀬崎ですが、ビャクシンは潮風が強く吹く沿岸地でも生育できるので、樹齢千年以上の巨木もあり貴重な場所となっています。
【 大瀬崎と富士山 】
岬の先には大瀬神社があり、岬一の巨木であるビャクシンが御神木として保護されています。ビャクシンは幹や枝に特徴があり主幹はねじれることが多く、赤褐色の樹皮は縦方向に裂けています。一本一本観察すると、とても面白いです。皮が剥離した幹が美しい、自然の芸術品のようなビャクシンが多く点在し、盆栽の巨木を見ているかのようです。
【 推定樹齢壱千五百年のビャクシン(御神木) 】
【 ビャクシンの幹 】
【 ビャクシンの球果 】
私はこの辺りで生まれ育っているので、「大瀬崎」というと子供の頃夏になると海水浴をした場所です。遠浅で波が穏やかなので毎年のように訪れていました。少し大人になってからは、この場所でスキューバダイビングのライセンスを取得しました。巡視の日もたくさんのダイバーが海に潜っていきました。海でのアクティビティが盛んな場所ですが、野鳥も多く自然を感じられる場所で、西伊豆を大瀬崎から堂ヶ島までつなぐ西伊豆歩道の起終点にもなっています。この場所を訪れた際は、ぜひ芸術的な幹をもつビャクシン樹林をみて、自然が作った造形美にも注目してもらえると嬉しいです。
▼おまけ▲
海岸を散策していると石の隙間に球体を発見しました。丸く光沢のある湿った表面です。皆さん何か分かりますか?
この物体の正体は「ウメボシイソギンチャク」です。イソギンチャクは干潮時触手を引っ込め口をすぼめて写真の様に丸まっていることがあります。水中の姿は触手を上部にユラユラさせてお花の様になります。(水中でも丸い姿が見られることもあるようです)興味がある方は調べて見て下さい。
++++++"富士山がある風景100選"とは +++++++++++++++++++++++++++++++++++++
富士箱根伊豆国立公園指定80周年記念事業の一環として、国立公園内と周辺地域の代表的な富士山の展望地を"富士山がある風景100選"として選定しました。
その他の選定地などの情報につきましては以下URLからご覧下さい。
▼富士箱根伊豆国立公園「富士山がある風景100選」
みなさま、こんにちは。
日光国立公園 那須管理官事務所の善養寺聡彦です。
前回は※ 那須平成の森で行っている中・大型ほ乳類の調査で撮影された、
微笑ましいリラック○の姿をご紹介しました。
今回はそうした撮影データを回収する時に見かける、冬のシカの生活をご紹介します。
今年は全国的に大雪で、各地で大変な思いをされている方も多いと思います。
那須地域も雪がとても多く、アクティブレンジャー(国立公園管理官(レンジャー)の補佐官)
の仕事も影響を受けています。
那須平成の森内に設置された15台のセンサーカメラ(自動撮影カメラ)は年中稼働させていますので、
冬も現地まで行ってデータを回収しています。
今年は平成の森は全域1m前後の積雪となっていて、毎回スノーシューを履いて歩きます。
平成の森は広大(およそ560ha)で、標高はおよそ1400m~600mまでかなりの落差があります。
ほぼ全域が落葉樹林で覆われています。
その中に自然観察のための歩道がありますが、基本的に舗装などはされていません。
センサーカメラは歩道近くに設置されたものもあれば、
歩道からは遠く外れた場所に設置されたものもあります。
アクティブレンジャーは道のない森の中を、
GPSを頼りにセンサーカメラにたどり着かなければなりません。
それが、現在は1mを超す積雪ですから、道など全く分かりません。
雪は穴や窪地を覆っていますから、注意して進まないと落ち込んで雪に埋まってしまいます。
特に沢を渡るときは慎重に道を選ぶ必要があります。
なかなかの冒険気分でデータ回収をしています。
こうして森の中を突き進んでいると、動物の足跡をしばしば見つけます。
シカ、キツネ、タヌキ、テン、リス。
今一番目立つのはシカの痕跡です。雪があるため、動物の活動の跡が良く残ります。
シカの足跡
雪が深いので蹄(ひずめ)の後ろの蹴爪(けづめ)の跡がついています。
平成の森の標高が高い部分では、積雪量が多いためか、
今年はほとんどシカの痕跡はありません。
やや標高が低くて雪の少ないところに移動していると考えられます。
平成の森の中標高から低標高(800m~600m)の森も今年は50cm~1m位の積雪で、
シカはさらに下部へ移動しているかと思いましたが、
シカはそんな雪の中でも必死に生き抜こうとしているようです。
標高700~800mにもシカの歩行跡が見られる。
多くのシカが行き来しているのがわかります。
また、群れで行動しているようです。
実際にシカの群れの姿を見ることもあります。
こんな足跡も見られました。
このシカはどんな行動をとったのでしょう?
これは皆さん、考えてみましょう。
さて、こんな雪の森の中、
シカは何を食べて暮らしているのでしょうか?
この森は本来、笹の多い森です。
この季節の笹は、このようになっています。
雪から上部が出ています。
でも何やら様子がおかしい。
そう、ほとんど葉がありません。
シカが食べたのでしょう。
でも、残った笹も葉はほとんどありません。
シカはどうしたらよいのでしょうか?
こんなところがしばしば見られます。
雪原に穴がいくつも空いています。
周りにはシカの足跡が沢山あります。
何やら蹴って土が飛ばされているようです。
良く見ると、笹が掘り出されています。
シカは雪に埋もれた笹を掘り出して食べていたようです。
こうした掘った穴の中には、凍り付いていて笹に到達できていないものもあります。
笹掘りを断念したシカの悲しそうな目が浮かびます。
今年は大雪でシカの苦労もひとしおでしょう。
そしてこんな光景も増えています。
樹皮剥ぎです。
いよいよ食物の尽きたシカは、木の樹皮を剥いで食べます。
草食動物といえども、樹皮そのもののように全く枯れた死細胞の部分だけでは
栄養的に不足するのでしょう。
さらに内側の生きた組織である維管束の部分を食べます。
維管束は植物にとって栄養分を運ぶ器官ですので、これを失うことは枯死につながります。
樹皮をぐるっと一週剥がされた樹木は枯れてしまうでしょう。
ここ平成の森では近年シカの生息数が増加しています。
そのためか、樹皮の剥がされた木も多く見られるようになりました。
全国的にシカは増加していて、植生への影響が問題となっています。
高山植物の減少や壊滅!
林床植物の減少や植生変化!(シカが食べない植物ばかりが残る)
他の草食動物との競合!(カモシカの領分を奪っていると言われている)
全国的に被害が広がっていて、様々な対策が検討、実行されているとこです。
平成の森ではこれまで、シカの食害によるはっきりとした植生変化は認められていませんでしたが、
今後大きな問題となると考えられます。
雪の森の中の調査、シカへのいたわりの気持ちと獣害の問題で、複雑な想いです。
※ 那須平成の森 <https://nasuheisei-f.jp/>
那須高原には那須御用邸があり、平成20年3月、そのうちの一部が宮内庁から環境省に移管されて那須平成の森と命名されました。那須平成の森の拠点施設として「那須平成の森フィールドセンター」があり、ガイドウォークをはじめとする様々なプログラムを実施しています。