関東地方環境事務所

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関東地方環境事務所TOPICS【地区便り】日光国立公園のきのこ>きのこエッセイ「ソライロチャワンタケ」

きのこエッセイ「ソライロチャワンタケ」

以前、私が霞ヶ関勤務をしたとき、昼休みなど、息抜きも兼ねて、楽しみだったのが職場直下の日比谷公園でのきのこ調査でした。2年間ほぼ毎日OLが憩うベンチ裏の茂みで、カメラを持って低い姿勢で怪しい動き方をしていたのに、通報されなくてよかった。ともあれ、そのうち千葉中央博物館によい指導者先生を得て、電話などで教えを乞い、最終的には100種程度の日比谷公園にでる主なきのこを概観できたように思います。やがて、先生から、日比谷公園のきのこを調べている人が他にもいることを教えていただきました。そのきのこ観察者も、日比谷公園のすぐ脇のビルに勤務していた人でした。初対面の挨拶時にそれぞれの観察記録を合わせたところ、過去ほぼ同じ日に同じ場所に出ていたきのこを二人とも見ていたことがわかりました。だのに1年近くお互いを気づかなかったのは、下ばかり見ていたからだったのかもしれません。

この8月、その友人が奥日光にご夫妻でいらっしゃいました。イタリア大使館別邸公園を案内したとき、庭に美しく青い、小さなお皿を広げたチャワンタケの仲間が点在していました。図鑑と比べるとフジイロチャワンタケモドキに似ています。友人に伝えると、後日、胞子をよくみたら指摘のきのことは表面の模様に違いがあった、新産種かもしれない、仮にソライロチャワンタケと呼ばないかと連絡がありました。実は私はきのこの切片を上手に取ってのプレパラート作りが苦手で、顕微鏡を見ていませんでした。幼い日に両親が買ってくれた顕微鏡は押入の中からときどき顔をだすだけ。でも、友人の連絡もきっかけに、やはり顕微鏡を勉強しないといけないことを痛感しました。

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数日後、都内の浜野顕微鏡という専門店へでかけました。顕微鏡が苦手な悩みも一緒に何を買うべきかご主人に相談したところ、自然の微細の中に興味深い形や神秘があることに気づき、それをよく見たいと思う気持ちがまず大事ということをおっしゃいます。最初から顕微鏡を求めることでなくともよい(ご商売大丈夫でしょうか)との言葉もあって、迷える子羊が救い主に出会ったような気持ちになりました。私のもっている古い顕微鏡で十分使えるはず、顕微鏡の仕様はつい最近まで150年間変わってなかったので部品の取替や修繕程度でよいとの話までいただきました(商売は…)。
その他サックス奏者坂田明氏の好きなミジンコは、通常は雌単性で繁殖するが、環境が悪化すると雄が出現するという話、顕微鏡でオタマジャクシのお腹の血管の脈動に命の愛おしさを見いだした子供たちは、それまでぞんざいに扱っていたオタマジャクシを両手で大切にすくって運ぶなどいろいろな話を聞かせてくださいました。
講義料には見合いませんが、小さなルーペを求めて日光に戻り、洗われたつもりの心で夏の終わりの夜空を見上げました。
丁度、はくちょう座やこと座などが社宅玄関脇の桂の木の上にかかっていました。折しも、縁日の出店のカルメ焼きのような甘い香りが桂の枯れ葉から夜気に染みだしていました。
2年前の夏の初め、土地鑑のない日光に来て、ここに住み始めるとき、桂の木が傍にあることを嬉しく思いました。私事ながら夭逝した長男にはこの桂の一字を名にいただいていたこともありましたので。秋のその落ち葉の香を楽しみにしていましたが、早2巡目を迎えました。短い時間でしたが、皆様には、これまでおつきあいくださり心から感謝しております。ありがとうございました。

小沢晴司 記


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