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関東地方環境事務所TOPICS【地区便り】日光国立公園のきのこ>きのこエッセイ「美しい風景を大切な人生の美しい記憶として留めるという利用」

きのこエッセイ「美しい風景を大切な人生の美しい記憶として留めるという利用」

鮮やかな紅葉が始まろうという10月初め、私は福島県会津地方にある沼沢湖畔の美しい集落を訪ねていました。そこで開催される第3回の全国山岳湖沼サミット・フォーラムへ参加するためでした。

沼沢湖は、周囲のほとんどを森林に覆われた天然カルデラ湖ですが、夜間の原子力発電所の余剰電力の消費や、昼間の電力需要負荷に対応する場合があるため、揚水式水力発電所が整備されています。発電施設の稼働時は下流の只見川の水をくみあげ、湖水の水質悪化を招き、急激な水位変動で湖岸の砂浜を消失させたと、山岳湖沼サミット・フォーラムで、地元漁業協同組合からの報告がありました。

日本の高度経済成長は、特に都市部での産業界の「競争と強調」によって展開され、その過程で必要な労働力やエネルギーは農山村に求められ、環境や地域格差などの問題が引き起こされた経緯があったと、政策研究大学院大学中島教授が報告されました。

また、東京学芸大学小澤教授からは、経済成長の激しい変化の中で人の心が豊かな自然体験を得る機会を失ってきたこと、今改めて、幼い子供時代からの「内なる自然=心・感性等」を育てるための自然環境体験や地域とのつながりを再構築することの必要性が紹介されました。

そして、地元自治体の理事者は、国家のエネルギー政策に貢献した代償に失われた美しい地元の河川や湖沼の保護と利用について、見直すことの重要性を訴えられました。

総括的なコメンテーターとして出席された(財)休暇村協会鹿野常務理事から、山岳湖沼の保護と適切な利用を展開していくためには、様々な利用を積極的に進めて、湖沼に、より親しむことが大切との指摘がありました。

これらの指摘を踏まえて、私は、私の出席した分科会で次のようなコメントをしました。

湖の利用方法で、発電ではどのくらいの電気が作れると示すことができますし、漁獲も、量で利用の価値を表すことは可能です。それに対して、森の湖の美しさ、その神聖さや厳粛さといった存在自体の利用、ということを考えた場合は、その価値を具体的な数値などであらわすことは難しいのです。が、ここで、敢えて、自分の大切な記憶の中に美しい場面として留める利用があること、その大切さを確認したいと思いました。

沼沢湖畔に立つと、急傾斜で湖水に落ちるカルデラの外壁が見えます。緑に覆われ、人工構造物のほとんど見えない神秘的な雰囲気があります。湖畔の丘の上に佇む沼沢集落も、どっしりした木造の大屋根の家屋が並び、古き良き、美しき日本の山村の姿を見せてくれます。

その沼沢集落の一番高いあたりに、今は廃校となった沼沢小学校校舎があります。

昭和29年の木造二階建ての建築ですが、今は宿泊施設「沼沢湖山荘」となっていて、今回の山岳湖沼サミット・フォーラムでは、参加者の受付、宿泊、交流会場となりました。

当日、早めに沼沢湖山荘についてしまい、受付開始まで時間をもてあましそうだったのですが、ふと、山荘の玄関前をみれば、立派なアカマツがありました。

マツ科の樹木には、何かしらきのこがでるもので、このような公的施設の庭先などは、手入れされながら、きのこ取りの対象地とはされていない場合もあるので、そこはかとない期待を抱いて、太い幹の周りを歩いてみました。

マツの足下に、ずんぐりした、全体にオレンジ色掛かったきのこがありました。傘の表面には明瞭な環紋。少し古くなっていたためか、傷つけても濃い赤い乳の分泌はほとんど認められませんでしたが、ところどころに乳が青緑色に変色したあとがあるのでハツタケに間違いありません。

ハツタケ
写真:ハツタケ

ハツタケはきのこシーズンの幕開けにでるのだそうです。ハツタケの名もそこからついたといわれますが、秋も同時に展開していきます。この号が届く頃、日光の紅葉も終盤を迎える頃かもしれません。

ハツタケに始まったでありましょう、皆様のきのこシーズンは、さていかがでしたでしょうか?

小沢晴司 記


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