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関東地方環境事務所TOPICS【地区便り】日光国立公園のきのこ>きのこエッセイ「ネコノシタにキッス」

きのこエッセイ「ネコノシタにキッス」

「私たちは、何か少し、間違えていたのではなかったのか?」。森のきのこを案内するとき、いつも囚われる思いがあります。

パークボランティアでガイドをされる皆様が美しい花を案内するとき、そっと感じて、じっと観察して、とるのは写真だけ、持ち帰るのは思い出だけ、と説明をされるのだと思います。が、きのこを案内するときは、本当をいえば、匂いを嗅いでほしいし、少し裂いたり、一片を潰したりして様々な感触を手で味わってほしい、小さく割った肉の変色に驚いてほしい、少し囓って、その苦みや辛みを体験してほしいと思うのです。

晩秋のある日、とある小さな湿原で、お客から木道の傍らに生える緑色の葉の低木の名前を問われて悩んでいる様子のガイドがありました。ヤチヤナギでしたが、葉を揉めば、いい香りがします。香りの記憶は強烈で、名前を忘れても、思い出から消えることはないと思います。そばにはカヤツリグサ科の植物がありました。茎の断面に特徴があるので、触って、その三角の形状を指先でなぞれば、触覚がこの植物をずっと覚えてくれるでしょう。

外界の自然を五感で体験することで、私たちの感性も、身体も育ちます。東京女子医大の小西教授のお話をうかがいましたら、胎児(胎芽)は妊娠7週で動くのだそうです。脳が育っていないにも関わらず、羊水の動きに皮膚が反応して動くのだそうで、動くことによって脳が育つというのです。胎児はあくびもするようで、これによって肺が育つといいます。

赤ちゃんは五感を備えて生まれてきます。様々な刺激に反応し、身体機能や心を育てていくのです。生活体験の希薄は、人の、人としての成長を妨げます。

11月初めの地元の自然観察会で、散策路中、倒木にたくさんのニカワハリタケがでていたので、小躍りして、一片をつかんで、参加者の手から手にとっていただきました。ゼラチン質の半透明の可愛らしいきのこで、その不思議な姿から猫の舌の別名があります。針葉樹を分解する菌で、味にくせがなく、調理の必要もないので、湯通しして、あんみつなどに入れて楽しめます。

カラマツの林の中では、カラマツと共生する菌根菌のキヌメリガサと、朽木などの腐朽菌であるニガクリタケが目につきました。同じシーズンにでる、似たような黄色の小さなきのこですが、かたや美味な食菌、かたや猛毒菌であり注意が必要なきのこです。これも、手にとって傘の裏を返してみれば、キヌメリガサは白く、ニガクリタケは幽かに青みがかった硫黄色を呈するのでわかりやすいと思います。何より、ニガクリタケは、ふつうはその名のとおり、噛むと苦いのです。

私たちの感性を総動員してきのことのコミュニケーションを楽しみたいと思います。

野山へ、友人や家族を案内して楽しむよう、国立公園を訪れる人へも、自然を五感で味わうおもしろさを伝えることができたら何と嬉しいことでしょう。きのこは、そのために素敵なゲストとして、活躍してくれると思います。

では、皆様、よいお年をお迎えくださいますよう。

小沢晴司 記


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