報道発表資料
2022年08月02日
- 報道発表
令和4年度西之島総合学術調査結果概要について
<関東地方環境事務所同時発表>
1. 令和4年7月13日(水)~15日(金)に「令和4年度西之島総合学術調査」を実施しました。
2. 今般、その調査結果概要を取りまとめましたので、お知らせいたします。
3. 撮影した映像の一部を報道用に共通利用できるものとして提供しますので、提供を希望される場合は担当者まで御連絡ください。
■背景
西之島は孤立性が高い海洋島であり、極めて人為的影響の少ない自然環境が存在します。環境省では、平成25年以降の火山活動の影響を受けた西之島の状況を把握するため、令和元年に西之島に上陸し、鳥類、昆虫、植物等に関する調査を実施しました。しかし、令和元年12月以降の火山活動により、生態系が維持されていた旧西之島の全てが溶岩若しくは火山灰に覆われ、溶岩による新たな大地が形成されました。生物相がリセットされた状態となったことで、西之島は、原生状態の生態系がどのように遷移していくのかを確認することができる世界に類のない科学的価値を有しています。
環境省としては、西之島の自然の遷移をモニタリングしつつ、人為的影響を可能な限り与えないままにその価値を見守ることが重要と考えており、令和2年度の大規模噴火以降の原初の生態系の生物相等を明らかにすることを目的とした総合学術調査を令和3年度から実施しています。
環境省としては、西之島の自然の遷移をモニタリングしつつ、人為的影響を可能な限り与えないままにその価値を見守ることが重要と考えており、令和2年度の大規模噴火以降の原初の生態系の生物相等を明らかにすることを目的とした総合学術調査を令和3年度から実施しています。
■調査概要
令和4年7月13日(水)から同年7月15日(金)において「令和4年度西之島総合学術調査」を実施しました。なお、西之島は山頂火口からおおむね1.5㎞の範囲に噴火警報(火口周辺)が発令されており、上陸調査が困難であることから、潜水等による周辺海域での海域生物調査を中心に行いました。
現地調査には以下の専門家が参加しました。
・川上 和人(森林総合研究所 鳥類調査担当)
・小玉 将史(鹿児島大学水産学部 底生動物調査担当)
・広瀬 雅人(北里大学海洋生命科学部 浮遊生物・底生動物調査担当)
・森 英章(自然環境研究センター 陸上節足動物調査担当)
現地調査には以下の専門家が参加しました。
・川上 和人(森林総合研究所 鳥類調査担当)
・小玉 将史(鹿児島大学水産学部 底生動物調査担当)
・広瀬 雅人(北里大学海洋生命科学部 浮遊生物・底生動物調査担当)
・森 英章(自然環境研究センター 陸上節足動物調査担当)
■調査内容
(1) 海域生物調査
西之島周辺の海底については、令和3年7月の調査において、西之島の噴火の影響を大きく受けた原初の状態であることが示唆されました。沿岸域の生態系は新たな底生生物が加入することにより比較的短い期間で群集構造が遷移していくことから、西之島周辺の底生生物群集もこの一年間で大きく変化すると予想されました。そのため、西之島周辺海域の生態系の変化を明らかにすることを目的に、令和3年度に調査が行われた北側海域を中心に、以下のとおり令和3年度の調査と同様の手法によるモニタリング調査を実施しました。
①水温、塩分、溶存酸素、pH、クロロフィルa、濁度等の測定
②環境DNA解析のための試料(周辺海域の海水)採取
③海底および砂泥中の生物相の把握のための潜水調査
④プランクトンネットを用いたプランクトン採集
⑤トラップによる夜間活動する海底の生物の採集
⑥生物の分散に関する情報を得るための流れ藻や漂流物など潮目に集まる生物の採集
⑦潮間帯生物採集及び環境DNA解析のための試料(沿岸の海水)採取
⑧海中映像の取得
⑨海底環境の長期モニタリングを目的とした水温、電気伝導率、照度を記録するデータロガーの海底設置
(2) 陸域生物調査
西之島の陸域については、生物相の変化や原生状態下にある海鳥の生態系における機能を評価することを目的に、以下の調査を実施しました。
①無人航空機(UAV)空中撮影による地上繁殖性海鳥の生息状況および植物の存在の有無の把握
②上陸候補地点周辺調査による鳥類の死体や巣材、火山性岩石、火山灰、それらに付着している節足動物等の採集
③上陸候補地点周辺調査による録音装置、自動撮影装置、粘着トラップ、温湿度ロガーなどの調査機器回収・設置
■調査結果(概要)
(1)海域生物調査
ア.底生生物・本調査において計70種以上の生物が確認され、このうち底生生物は少なくとも44種が確認されました。イソギンチャク類やテッポウエビ類といった、令和3年の調査では見られなかった新たな底生生物も確認されました。
・海底の転石下にはフサゴカイの仲間やエビ・カニなどの甲殻類が令和3年よりも多く確認されたことから、これらの生物が餌とする有機物がこの1年間で増加したと考えられます。なお、これらの有機物が何に由来するのかについては現段階では不明であり、この生態系がどのような炭素源によって支えられているのか今後調査していく必要があります。
・海底の岩盤上には令和3年と同様に多数のヒドロ虫類とコケムシ類が確認されましたが、カイメン類やサンゴ類、大型藻類などは確認されませんでした。これは、西之島が他の島から孤立した海洋島であり近隣の沿岸域からの新たな生物の加入の機会が少ないこと、陸域からの栄養塩の供給が乏しいこと、さらに火山活動に起因する変色水域が継続して確認されていることなどが要因として考えられます。
・また、ウニ類やヒトデ類といった棘皮動物や、ヨコエビ類などの小型甲殻類など、一般的に沿岸域で採取される生物が令和3年と同様にほとんど得られませんでした。この結果は、これらの底生生物の加入が少なかった可能性に加えて、これらの生物が餌や生息場とするサンゴ類、大型藻類の定着がみられないことも要因の一つと考えられます。
イ.漂流物上の生物
・漂流していた軽石や人工物上からは24種以上の生物が確認されました。それらの中には、令和3年と同様にオキナガレガニやカルエボシ、サメハダコケムシ属の1種、アミモンガラなども見られました。
ウ.潮間帯の生物
・潮間帯においては、カニ類は多く確認されたものの、令和3年に確認された巻貝類や藻類は確認されませんでした。この結果は、そもそも生物の加入が少なかった可能性に加えて、令和3年の調査時と比較して海岸の地形が変化しており、外洋に面した激しい波当たりによる浸食や岩盤の崩落によって生じる頻度の高い攪乱の影響もあると考えられます。
エ.生物群集の形成と遷移について
・これらの調査結果から、本調査海域における生物群集の形成は、通常の沿岸域の裸地におけるものよりも遥かにゆっくりと進行している可能性が明らかとなりました。このことは、西之島の調査海域が、通常の沿岸域では進行が早いために捉えることが困難であった群集構造の遷移過程をスローモーションで観察しているかのように詳細に記録することができる、世界でも類を見ない貴重な環境であることを示しているものと考えられます。
(2)陸域生物調査
ア.鳥類① 繁殖集団の確認について
・西之島の西部、北部、東部において、アオツラカツオドリ約10ペア、カツオドリ約150ペア、クロアジサシ約30ペア、オオアジサシ約150ペア、セグロアジサシ約300ペアの営巣を確認しました。
・そのうち、カツオドリ、セグロアジサシは昨年の同時期に比べて営巣数が大きく減少しており、これは、昨年の繁殖成功率が低かったとことと関係があると考えられます。
② 繁殖状況について
・オオアジサシでは、西之島北部の海岸で約50羽の雛が確認されました。
・その他の種では抱卵が確認されました。
③ 繁殖分布等の変化について
・カツオドリ及びアオツラカツオドリでは、令和3年の分布地を中心に分布が拡大していました。
・オオアジサシ、セグロアジサシは、令和3年に繁殖成功率が低かった東部のガリー(雨水などの流れによって地表面が削られてできた溝状の地形)から、別の場所にコロニーを移動させていました。
・オオアジサシは西之島北東部及び西部の海岸で、セグロアジサシは西之島北西部のガリー内での営巣が初めて確認されました。
・令和3年には西之島北部の砂浜で、クロアジサシが営巣していましたが、多数の放棄卵が見られ、波の影響で繁殖に失敗したものと考えられました。令和4年には同じ海岸の溶岩上や台地上などを中心に31巣の営巣が確認され、多数の雛が観察されました。波浪の影響を受けにくい溶岩上で営巣することで繁殖成功率が上昇した可能性があります。
イ.節足動物
① 分解者となる昆虫の発見
・海岸で見つかったクロアジサシの死体から、令和2年の大規模噴火後初めてトビカツオブシムシおよびヤニイロハサミムシが複数見つかりました。これらは令和元年の調査では旧西之島周辺において確認されていましたが、令和2年の大規模噴火後には確認されていませんでした。噴火による降灰等の影響が大きかった中でも少数が生き残り、次第に分布を拡大している可能性があります。
② 島外から渡来した昆虫の発見
・上陸候補地点周辺調査において、ニセタマナヤガの成虫1個体が見つかりました。本種は西之島における過去の調査では確認されておらず、西之島での初記録となりました。現在の西之島には植物が分布しないため、幼虫が植食性の本種は偶然飛来していたものと考えられます。現状では定着できないものの、度々新たな昆虫等の侵入機会があることを示しています。
ウ.その他
・UAV空中撮影による映像を確認した結果では、維管束植物の存在は確認できませんでした。
・上陸候補地点周辺調査において、藻類と見られる緑色の組織を採集しました。これは令和2年の大規模噴火後に初めて確認された独立栄養生物になります。
・島内の複数地点で、雨水が貯留したものと思われる水溜りまたはその痕跡が確認されました。今後、淡水系が長期間維持されるようになれば、環境の多様性が高まり、生物の定着が促進されることが期待されます。
・昨年設置した録音装置、粘着トラップ、温湿度ロガー、自動撮影カメラの一部を回収し、新たな調査機器を設置しました。
■今後の予定
・今回の調査で収集したデータ及び試料については、各分野の専門家が詳しく解析することとしており、今後、西之島の生態系の状況を明らかにしていく予定です。
・本年度中に、専門的見地から西之島の生態系の遷移過程の評価やモニタリングの方法等について助言を得るため、「西之島モニタリング準備会」を開催予定です。本委員会において、令和4年度の調査結果を踏まえた今後のモニタリング調査の内容についての検討等を行う予定です。
※ 報道用映像の提供について(報道機関向け)
本調査時に撮影した映像の一部を報道用に共通利用できるものとして提供します。提供したハイビジョン映像をキャプチャーした画像も御利用いただけます。映像の提供を希望される場合は【担当 :守・萱島】まで御連絡をお願いします。なお、事前にお申込みいただいた方にはこちらから映像提供にについて御連絡させていただきます。
以上
・本年度中に、専門的見地から西之島の生態系の遷移過程の評価やモニタリングの方法等について助言を得るため、「西之島モニタリング準備会」を開催予定です。本委員会において、令和4年度の調査結果を踏まえた今後のモニタリング調査の内容についての検討等を行う予定です。
※ 報道用映像の提供について(報道機関向け)
本調査時に撮影した映像の一部を報道用に共通利用できるものとして提供します。提供したハイビジョン映像をキャプチャーした画像も御利用いただけます。映像の提供を希望される場合は【担当 :守・萱島】まで御連絡をお願いします。なお、事前にお申込みいただいた方にはこちらから映像提供にについて御連絡させていただきます。
以上
お問い合わせ先
環境省自然環境局自然環境計画課
代表:03-3581-3351
直通:03-5521-8274
課長:堀上 勝 (内線6430)
課長補佐:石川 拓哉 (内線6435)
専門官:守 容平 (内線6492)
係長:萱島 拓郎 (内線6433)
関東地方環境事務所国立公園課
直通:048-600-0816
課長:植竹 朋子
専門官:小林 峻大
代表:03-3581-3351
直通:03-5521-8274
課長:堀上 勝 (内線6430)
課長補佐:石川 拓哉 (内線6435)
専門官:守 容平 (内線6492)
係長:萱島 拓郎 (内線6433)
関東地方環境事務所国立公園課
直通:048-600-0816
課長:植竹 朋子
専門官:小林 峻大