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関東地方環境事務所

報道発表資料

2023年10月02日
  • 報道発表

令和5年度西之島総合学術調査結果概要について

<関東地方環境事務所同時発表>

1.令和5年9月11日(月)~同年9月20日(水)に「令和5年度西之島総合学術調査」を実施しました。
2.今般、その調査結果概要を取りまとめましたので、お知らせいたします。
3.撮影した映像の一部を報道用に共通利用できるものとして提供しますので、提供を希望される場合は担当者まで御連絡ください。

■ 背景

 西之島は孤立性が高い海洋島であり、極めて人為的影響の少ない自然環境が存在します。環境省では、平成25年以降の火山活動の影響を受けた西之島の状況を把握するため、令和元年に西之島に上陸し、鳥類、昆虫、植物等に関する調査を実施しました。しかし、令和元年12月以降の火山活動により、生態系が維持されていた旧西之島の全てが溶岩若しくは火山灰に覆われ、溶岩による新たな大地が形成されました。生物相がリセットされた状態となったことで、西之島は、原生状態の生態系がどのように遷移していくのかを確認することができる世界に類のない科学的価値を有しています。
 環境省としては、西之島の自然の遷移をモニタリングしつつ、人為的影響を可能な限り与えないままにその価値を見守ることが重要と考えており、令和2年度の大規模噴火以降の原初の生態系の生物相や噴火の遷移過程等を明らかにし、今後のモニタリングや保全に役立てることを目的とした総合学術調査を令和3年度から実施しています。

■ 調査概要

 令和5年9月11日(月)から同年9月20日(水)までにおいて「令和5年度西之島総合学術調査」を実施しました。なお、西之島は山頂火口からおおむね1.5㎞の範囲に噴火警報(火口周辺)が発令されており、上陸調査が困難であることから、無人航空機(UAV)等を活用した陸域調査及び周辺海域での海域調査を中心に行いました。
 現地調査には以下の専門家が参加しました。
  • 川上 和人(森林総合研究所 鳥類調査担当)
  • 広瀬 雅人(北里大学海洋生命科学部 浮遊生物・底生動物調査担当)
  • 加藤 恵輔(明治大学理工学部 探査機担当)
  • 長井 雅史(防災科学技術研究所 地質担当)
  • 森 英章 (自然環境研究センター 陸上節足動物調査担当)

■ 調査内容

(1)陸域調査
   西之島の陸域については、生物相の変化や原生状態下にある海鳥の生態系における機能を評価することを目的に、以下の調査を実施しました。
   ① UAV空中撮影による地上繁殖性海鳥の生息状況および植物の存在の有無の把握
   ② UAVに取り付けた吸引機による火山灰等の火砕堆積物サンプルの採取。
   ③ UAVに取り付けた採水機による潮間帯生物環境DNA解析用の海水の採取
   ④ 録音装置、自動撮影装置、粘着トラップ、温湿度ロガー等の調査機器の回収・設置
   また、今後の調査の効率化等を目的に、船上からの遠隔操作によるローバーの試験運用を実施しました。
 
(2)海域調査
   西之島周辺海域については、令和3年度及び令和4年度の調査の結果、生物相の変化が比較的緩やかであったこと、火山活動の影響を強く受けた海洋環境が生物の定着に影響を与えている可能性が示唆されました。そのため、網羅的な生物調査は実施せずに、海洋環境をより詳細に把握することを目的に、西之島4方位の海域で以下の調査を実施しました。
   ① 水温、水深、電気伝導度、pH、クロロフィルa、濁度等の測定
   ② 採泥や環境DNA解析のための試料(周辺海域の海水)採取
   ③ 海中映像の取得

■ 調査結果(概要)

(1)陸域調査
   ア.鳥類
     ・ 西之島の西部、北部、東部において、カツオドリ約30ペアの営巣を確認しました。昨年度までの調査時点で繁殖の中心だった西部での営巣数は激減していました。
     ・ その他の海鳥についても個体数の減少が確認されました。
     ・ 2020年の噴火後の繁殖成功率が低く、繁殖集団が縮小している可能性があります。噴火の直接影響ではなく、噴火に伴う環境変化という間接影響がタイムラグを経て作用したと考えられます。
 
   イ.節足動物
     ・ 西之島の北西部において、ヤニイロハサミムシとカズキダニの一種の生息を確認しました。これまでの海鳥の繁殖の中心地以外において新たに昆虫が確認されたことから、海鳥由来の有機物を資源にしつつ分布を拡大している可能性があります。ただし、今回は1地点の確認にとどまっており、今後、より広範囲における調査が必要です。
     ・ 海鳥の営巣地でガ類の生息を確認しました。分類群の詳細は不明なものの、海鳥由来の有機物を資源にする昆虫等の節足動物が他にも生息している可能性があります。
     ・ 島内では直接確認できていませんが、西之島沖で船上に飛来したカツオドリにシラミバエの一種が寄生していることを確認しました。
 
   ウ.地質
     ・ 第5期(令和3年8月以降)の最近の噴火の噴出物とみられる火山灰が地表を広く覆っていました。火山灰には黒色火山ガラス質岩片や石質溶岩片のほかに粘土鉱物や硫化鉱物等の熱水変質岩片が含まれており、地下の熱水系の影響を受けた噴火活動であったと考えられます。
     ・ 主火口では二酸化硫黄を含む水蒸気噴煙の活発な放出が継続していました。噴煙にはしばしば少量の火山灰が含まれていました。山体東側では火口縁から海岸部までの広い範囲において噴気活動が活発で、噴気孔周辺の地表には火山昇華物が付着していました。
     ・ 火砕丘北斜面には比較的最近に崩壊した地形があり、発生した土石流が海岸まで達した痕跡が認められました。
     ・ 現在の西之島火山は、地下の火道でのマグマの脱ガスが進み、放出された火山ガスと熱により山体浅部に熱水系が発達しつつある状態と考えられます。
 
   エ.その他
     ・ UAV空中撮影による映像を確認した結果では、維管束植物の存在は確認できませんでした。
     ・ 昨年設置した録音装置、粘着トラップ、温湿度ロガー、自動撮影カメラは地形の変化により回収はできませんでした。今回、新たな調査機器を設置しました。
     ・ 西之島の環境下でのローバーの遠隔操作による走行に成功しました。
 
(2)海域調査
   ・ 西之島の周辺海域においてpHが6程度まで下がることがある変色水域が広がっており、定期的にやや酸性寄りの変色水にさらされる環境であることが底生生物の定着を妨げる要因の一つと考えられます。
   ・ 西之島南東部や西部の水深100m前後において、西之島では初記録となる八放サンゴ綱のウミトサカの一種やクモヒトデの一種等が確認されました。南部~西部の海域は噴火による影響が小さい、あるいは、水深100m程度の深場は噴火の影響を免れたと考えられます。
   ・ 一方で、西之島北部や北東部の水深100m前後においては、南東部や西部に比べて生物が少ないことが分かりました。最も島が拡大した島の北部では噴火による攪乱が大きく、未だ生物が加入できていない可能性があると考えられます。

■ 今後の予定

  ・ 今回の調査で収集したデータ及び試料については、各分野の専門家が詳しく解析することとしており、今後、西之島の生態系の状況を明らかにしていく予定です。
  ・ 本年度中に、専門的見地から西之島の生態系の遷移過程の評価やモニタリングの方法等について助言を得るため、「西之島モニタリング準備会」を開催予定です。本準備会において、令和5年度の調査結果を踏まえた今後のモニタリング調査の内容についての検討等を行う予定です。
 
※報道用映像の提供について(報道機関向け)
 本調査時に撮影した映像の一部を報道用に共通利用できるものとして提供します。提供したハイビジョン映像をキャプチャーした画像も御利用いただけます。映像の提供を希望される場合は【担当 :長尾(shizenkeikaku@env.go.jp)】まで御連絡をお願いします。なお、事前にお申込みいただいた方にはこちらから映像提供について御連絡させていただきます。
 
                                              以上

お問い合わせ先

環境省自然環境局自然環境計画課  
代表  :03-3581-3351
直通  :03-5521-8274
課長  :則久 雅司
課長補佐:石川 拓哉
専門官 :長尾 潤  
 
関東地方環境事務所国立公園課
直通  :048-600-0816
課長  :植竹 朋子
専門官 :橋口 峻也