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関東地方環境事務所

報道発表資料

2024年10月15日
  • 報道発表

令和6年度西之島総合学術調査結果概要について

1.令和6年9月2日~同年9月11日に「令和6年度西之島総合学術調査」を実施しました。
2.今般、その調査概要を取りまとめましたので、お知らせいたします。
  <主な概要>
   ・火山活動に伴う大きな地形変化は見られず、また、火山ガスの直接観測を初めて実施。
   ・昨年は急激に減少していた鳥類が、今年度は生息数、繁殖数ともに回復していることを確認。ハサミムシが広域に生息することを確認。
   ・過年度に引き続きコケムシやゴカイ、八放サンゴのほか、新たにカイメン等の底生生物の生息を確認。変色水域の水質情報を連続観測。
   ・火山活動からの安全確保や環境攪乱の回避のため、無人航空機、陸上探査機、無人艇等を活用して調査を実施。
3.撮影した映像の一部を報道用に共通利用できるものとして提供しますので、提供を希望される場合は担当者まで御連絡ください。

■ 背景・目的

 西之島は、小笠原諸島に位置する孤立性の高い海洋島であり、火山活動により極めて人為的影響の少ない自然環境が存在します。環境省では、平成25年以降の火山活動の影響を受けた西之島の状況を把握するため、令和元年9月に上陸し、鳥類、昆虫、植物等に関する調査を実施しました。しかし、令和元年12月以降の火山活動により、生態系が維持されていた旧西之島の全てが溶岩若しくは火山灰に覆われ、新たな大地が形成されました。生物相がリセットされた状態となったことで、西之島は、原生状態の生態系がどのように遷移していくのかを確認できる世界に類のない科学的価値を有しています。
 そこで、環境省としては、人為的な影響を可能な限り与えないように配慮しつつ、西之島における生態系の変化や噴火の過程等自然の遷移をモニタリングすることで、海洋島における原生状態の生態系の成り立ち(一次遷移)を解明することを目的として、総合学術調査を毎年実施しています。
 なお、本調査によって得られた知見は、西之島における自然のモニタリングや保全に役立てていくことを想定しています。また、新たに開発された調査技術は、西之島に限らず様々な地域の自然のモニタリングや生物資源の保全等に寄与していくことを期待しています。

■ 調査内容及び結果

西之島は山頂火口から概ね1.5kmの範囲に噴火警報(火口周辺)が発令されており、上陸して調査することが困難であることから、無人航空機(UAV)や陸上探査機、無人艇 等を活用した遠隔調査を実施しました。
内容としては、(1)陸域生態系調査、(2)地質調査、(3)海域調査を実施しました。
 
現地調査には以下の専門家が参加しました。
・川上 和人(森林総合研究所 鳥類調査担当)
・広瀬 雅人(北里大学海洋生命科学部 浮遊生物・底生動物調査担当)
・黒田 洋司(明治大学理工学部 探査機担当)
・加藤 恵輔(明治大学理工学部 探査機担当)
・川口 允孝(東京大学地震研究所 地質担当)
・森 英章(自然環境研究センター 陸上節足動物調査担当)

(1)陸域生態系調査
<調査内容>
 西之島では生態系が維持されていた旧島の全てが溶岩に埋め尽くされ、溶岩による新たな大地が形成されました。そのため、陸域については、噴火による攪乱後の鳥類をはじめとした生物相の変化や、海洋島の生態系の成立プロセスにおいて海鳥等が果たす役割を明らかにするために、以下の調査を実施しました。

① 目視による観察(地形の概況把握、海鳥の生息状況の確認等)
② UAVによる撮影(地形の詳細把握、地上繁殖性海鳥の生息状況、植物の存在の有無の把握等)
③ 調査機器(録音装置、自動撮影カメラ等)の設置・回収
④ 粘着トラップによる節足動物等の採集

<調査結果>
(ア)鳥類
 目視及びUAVによる観察の結果、カツオドリ、アオツラカツオドリ、クロアジサシ、オオアジサシ、セグロアジサシ の生息を確認できました。カツオドリ、クロアジサシ、セグロアジサシについては幼鳥の生育も確認できたことから、西之島での繁殖に成功していると考えられます。
 また、令和5年度調査では多くの種類で生息数の減少が見られ、繁殖数も減少していましたが、今年度の調査では生息数、繁殖数ともに回復が見られました。
 特にカツオドリにおいてはこれまでに記録のなかった南部のエリアでも営巣が確認され、繁殖域の拡大を確認できました。
 海鳥は、西之島のように陸上に生物が乏しい環境においても食物資源を海から得るため繁殖可能である他、種子散布、土壌攪乱など生態系で重要な役割を担っていることから、西之島における生態系構築の先駆者であると考えられます。したがって、海鳥の定着プロセスを把握することは、西之島の生態系の成り立ちの解明につながる大きな手掛かりになると考えられることから、今後も継続したモニタリングが重要となります。
 
                                                                                                            (写真提供:森林総合研究所 川上和人)

(イ)  節足動物
 UAVを用いて陸上探査機を西之島へ運搬し、節足動物を採取するための粘着トラップやライトトラップ、自動撮影カメラ等を遠隔操作にて設置しました。設置した粘着トラップ4か所のうち、回収できた3か所からヤニイロハサミムシの個体を複数採取できました。また、自動撮影カメラの映像から、シラミバエの生息も確認できました。
 ハサミムシについては、過年度の調査から継続して西之島での生息が確認されており、また今回調査では西之島の西側及び東側の両極端において生息が確認されました。
 ハサミムシ等の節足動物は、生態学的遷移の中で、海鳥の死骸を分解し、糞をすることで生態系の土台である土壌を作り出す役割を担っていると考えられます。ハサミムシ等の節足動物の生息状況の調査を行うことは、海鳥と同様に、西之島の生態系成立プロセスを解明するにあたって重要となります。
 
                                 (写真提供:自然環境研究センター 森英章)
       ※当初計画では、海鳥の死体や巣材等のサンプル採取も予定しておりましたが、風況及び海況の悪化により実施することができませんでした。
       ※UAV及び無人探査機を活用して設置した粘着トラップ4か所のうち1か所は、風況及び海況の悪化によりUAVを飛行させることができず、
        回収できませんでした。そのため、翌年度事業等において回収することを予定しています。

(2)地質調査
<調査内容>
 西之島の自然環境・生態系に大きな影響を及ぼす火山の活動状況は、生態系の遷移を解明するにあたって欠かせない情報となります。そのため、これまでの西之島のマグマ活動の全体像を把握し、火山活動の現状を評価するため、以下の調査を実施しました。

① 船上からの目視観察及びUAV撮影による地形・地質構造の把握
② 岩石試料の採取
③ UAVによる火山ガスの観測

<調査結果>
(ア)地形・地質
 船上からの目視観察及びUAVによる地形の撮影を実施した結果、昨年度と比較して火山活動による山体の拡大等大きな地形変化は見られず、複数個所において火砕丘が浸食・崩壊し、山腹へ土砂供給している状況が確認されました。今後、過年度の調査結果との比較等、詳細分析を行うことを予定しています。
 なお、当初計画では、UAVに取り付けた吸引機で岩石試料の採取を行う予定でしたが、天候不良によりUAVを飛行させることができませんでしたので、陸域生態系調査において使用した陸上探査機のタイヤや粘着トラップに付着した微量の岩石試料等を活用し、地質の分析を行う予定です。

(イ)火山ガス
 過年度から継続して、主火口及び火砕丘の山腹から、水蒸気噴煙の放出を確認しました。このうち、火口内および火砕丘の東側から噴出している火山ガスについて、UAVにより観測ロガーを運搬し、火山ガス成分の観測を行いました(西之島における火山ガスの直接観測は、初記録となります)。今後、詳細な解析を行う予定です。
 
                                                (写真提供:東京大学地震研究所 川口允孝)

(3)海域調査
<調査内容>
 令和元年度以降の噴火によって、海域も大きな影響を受けたと考えられることから、噴火が海洋環境及び海洋生態系に与えた影響、噴火以降の海洋生態系の遷移状況を明らかにすることを目的として、海洋環境(火山活動により発生している変色水の水質、地形など)や生物相の調査を実施しています(海域における調査は令和3年度以降実施)。
 過年度の調査結果において、噴火によりリセットされたと考えられる海底環境において、コケムシやヒドロ虫等の底生生物の生息を確認できたことから、今年度はその遷移状況の詳細や要因の把握を目的として、以下の調査を実施しました。

① 観測ブイ、無人艇等を活用した海洋環境情報の収集(変色水の水質等) 
② プランクトンネットを用いた浮遊生物の採取 
③ 漂流物に付着した生物の採取
④ 小型ドレッジ(底質を採集する器具)を用いた採泥(底生生物の採取)  
⑤ 海洋生物相把握のための環境DNA調査
⑥ 西之島における生物相の安定同位体分析 (西之島における物質循環の状態を把握するため) 
⑦ 調査船・無人艇による海底地形の把握

<調査結果>
 西之島の北側及び西側の海域において実施した小型ドレッジによる採泥により、過年度に引き続きコケムシやゴカイ、八放サンゴのほか、新たにカイメン等の底生生物の生息を確認することができました。また、観測ブイによる調査では、変色水域の表層と低層でそれぞれ初めて経時的な水質データを得ました。
 コケムシ等の固着性の動物は、先駆者として早くに海底に加入・定着することで、他の小型の生物に生息場や餌料を提供する役割を担っていると考えられます。これらの生物の定着プロセスを把握し、そこに棲み込む生物の遷移過程を調査することは、海底の生態系の成立プロセスを明らかにする上で重要となります。
 なお、これら生物相の遷移に影響を与えると考えられる変色水の水質等の海洋環境調査や、環境DNA調査の結果については、今後詳細な分析を行うことを予定しています。また、海洋環境の情報は人工衛星により得られた情報とのマッチングも進める予定です。
 
                     (写真提供:北里大学海洋生命科学部 広瀬雅人)

(参考)無人探査機等を活用した生態系モニタリングの可能性について
 今年度の調査は、無人航空機(UAV)や陸上探査機、無人艇等を活用した遠隔調査を実施しました(UAV及び無人探査機は昨年度から継続運用。また無人艇を今年度から試行的に運用)。西之島においては、火山活動に対する調査員の安全確保や外来種対策等の観点から上陸調査の実施は容易ではありません。今後の調査においても、効率性・安全性の向上等に資する手法として、これらの無人探査機等を活用した生態系モニタリングシステムの構築が期待されます。
 
                        (写真提供:明治大学理工学部 加藤恵輔)

■ 今後の予定

 今回の調査で収集したデータ及び試料については、今後、各分野の専門家が解析し、西之島の生態系の状況を明らかにしていく予定です。
 また、本年度中に、専門的見地から西之島の生態系の遷移過程の評価やモニタリングの方法等について助言を得るため、「西之島モニタリング準備会」を開催予定であり、本準備会において、本年度の調査結果を踏まえた、西之島の生態系の遷移過程の評価や今後のモニタリング調査についての検討等を行う予定です。

※報道用映像の提供について(報道機関向け)
本調査時に撮影した映像の一部を報道用に共通利用できるものとして提供します。提供したハイビジョン映像をキャプチャーした画像も御利用いただけます。映像の提供を希望される場合は、メールの件名を「西之島総合学術調査映像等提供の申込み」とした上で、会社名、部署名、役職、氏名及び連絡先(電話番号及びメールアドレス)を明記の上、【担当:吉瀨(shizen-keikaku@env.go.jp)】宛てにお送りいただきますようお願いします。担当(吉瀨)から返答がない場合は、お手数おかけしますが、環境省自然環境局自然環境計画課(03-5521-8274)へ御連絡ください。

お問い合わせ先

環境省自然環境局自然環境計画課
代表  :03-3581-3351
直通  :03-5521-8274
課長  :番匠 克二
課長補佐:笹渕 紘平
専門官 :吉瀨 啓史
主査  :福濱 有喜子
 
関東地方環境事務所国立公園課
直通  :048-600-0816
課長補佐:藤井 沙耶花
課長補佐:橋口 峻也