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関東地方環境事務所

報道発表資料

2021年06月30日
  • 報道発表

小笠原巽島(たつみじま)における陸産貝類の移殖後の経過について

環境省では、絶滅のおそれのある小笠原陸産貝類を保全するため、平成23年(2011年)から小笠原諸島父島の施設においてこれらの飼育を実施してきたところです。 昨年(2020年)から今年3月にかけて、父島属島の巽島(たつみじま)においてチチジマカタマイマイ及びアナカタマイマイの個体群再生のために、飼育個体を移殖しました。この度順調に成長していることが確認できましたのでお知らせします。

○【令和2年11月19日発表】小笠原における陸産貝類の移殖について

(これまでの経緯及び今回移殖した2種の概要はこちらをご参照ください)

http://kanto..env.go.jp/pre_2020/post_193.html

1 移殖方法について

陸産貝類には個体に悪影響を与える可能性のある寄生生物等が存在するため、移殖においてはこのような生物を現地に持ち込まないように、専門家の助言を受け、細心の注意を払いながら実施しています。移殖の方法としては、卵による移殖と孵化個体による移殖の2つの方法があり得ます。今回は初めての試みであるためリスクを確認した上で両方の方法を実施しました。

2 卵による移殖

① 移殖の実施

令和2年11月28日にアナカタマイマイ152卵、チチジマカタマイマイ27卵を(巽島へ)移殖しました。寄生生物等を意図せず導入するリスクが最も低い手法として、卵による移殖を最初に実施しました。

なお、移殖に用いた卵は、小笠原世界遺産センターで飼育している巽島産の2種から採卵したものです。現地での寄生生物等の感染がないように隔離して保管したうえで、カゴ内に移しました。モニタリングに有用な情報を収集するために、カゴ内に移して、ふ化率等を確認したうえで、孵化個体にはマーキングをしてから野外に放逐することとしました。

② 移殖後のモニタリング結果について

令和2年12月19日、令和3年2月5日、3月17日に孵化状況を確認しました。孵化個体についてはマーキングを行った上で野外に放逐しました。アナカタマイマイでは76個体(3回分の合計数)が孵化し、そのうち孵化後死亡した18個体を除いた58個体を野外に放逐しました。

チチジマカタマイマイでは計15個体が孵化し、そのうち孵化後死亡した3個体を除いた12個体を野外に放逐しました。

室内飼育時の孵化率が約9割であることと比較すると低下していますが、父島の屋外施設で実施した試験の結果と比較すると同程度になっています。

表1 卵による移殖の結果

種名

移殖

(11/28)

1回目確認

(12/19)

2回目確認(2/5)

3回目確認(3/17)

定着確認モニタリング

(5/1)

アナカタマイマイ

152卵

45卵孵化

25卵孵化

6卵孵化

5個体

チチジマカタマイマイ

27卵

7卵孵化

6卵孵化

2卵孵化

2個体

3 孵化個体による移殖

① 移殖の実施

事前に移殖個体の一部を解剖し、寄生生物に感染していないことを確認した上で、令和3年2月5日にアナカタマイマイの成貝22個体、幼貝119個体、チチジマカタマイマイの幼貝19個体を巽島へ移殖しました。

移殖に用いた個体は、小笠原世界遺産センターで飼育している巽島産の個体から採卵し、寄生生物等の感染がないように人工基質(ペーパータオル等)、人工飼料のみを使用した飼育を行った上で、移殖初期の生存率を確認するために現地に設置したカゴの中に放しました。  

②移殖後のモニタリング結果について

令和3年3月17日に移殖初期の生存率を確認した上で野外に放逐しました。アナカタマイマイの成貝22個体、幼貝117個体、チチジマカタマイマイの幼貝19個体が生存していることを確認しました。

孵化後3か月以上成長した個体を用いたため、卵による移殖と比較して初期死亡率が抑えられたものと考えられます。

表2 孵化個体による移殖の結果

種名

移殖(2/5)

1回目確認

(3/17)

定着確認モニタリング

(5/1)

アナカタマイマイ

141個体

139個体

40個体

チチジマカタマイマイ

19個体

19個体

1個体

4 定着確認モニタリング結果について

令和3年5月1日、移殖した個体の、野外での成長等を確認するためのモニタリング調査を実施しました。モニタリングには移殖地点の周辺約10mの範囲内で標識個体を探索しました。アナカタマイマイでは卵による移殖5個体、孵化個体移殖の40個体を再発見しました。チチジマカタマイマイでは卵による移殖2個体、孵化個体移殖の1個体を再発見しました。

2種ともに探索範囲外や目視確認が困難な樹上部、落葉層等にいるため確認できなかった個体が多数いるものと思われますが、死亡が確認されたのはアナカタマイマイ1個体のみで、再発見された個体はいずれも成長していることが確認されました。

今回得られたデータを検証しつつ引き続き個体群再生に取り組んでいく予定です。

卵による移殖の様子(現地にてカゴ内に埋設)

孵化個体の放逐

参考:巽島の位置

■ 問い合わせ先
○小笠原における陸産貝類の環境省事業について

・環境省関東地方環境事務所野生生物課  
TEL:048-600-0817
課長:佐藤 大樹
担当:杉山 昇司
・環境省関東地方環境事務所小笠原自然保護官事務所
TEL:04998-2-7174
担当:成田 智史