日光

戦場ヶ原を守る

2024年03月14日
日光 鈴木研司

こんにちは。日光国立公園管理事務所の鈴木です。
日光国立公園管理事務所では、生態系保全等専門員が活躍しています。令和5年度の冬は生態系保全等専門員に同行し調査のお手伝いをしました。

生態系保全等専門員とはどのような仕事をしているのでしょうか。名前も難しいのですが、仕事も難しいです。何せ、対象となる生物は野生の二ホンジカ(以下シカと表現します)ですから大変です。シカによる被害を減らし、生物多様性の保全を行うのが目的の仕事です。なぜこのような仕事が必要なのでしょか。それはシカの数が極端に増えて、生態系のバランスが崩れてしまったからです。

環境省では国立公園等におけるニホンジカ対策を行っています。生態系保全等専門員はシカ対策の計画作り、捕獲・調査などの業務発注、フィールド調査などを行っています。

増えすぎたシカはどんどん分布を広げ多くの植物を食べつくしてしまうでしょう。シカに食べつくされ踏みつけられた湿地、草原は乾いた荒れ地になります。森林では幼木が成長できず、老木は枯死し、森林そのものが衰退します。森林の植物が新しく生まれ変わることがなくなると、森林の草地もなくなり、地表を覆う表土は流出して無くなります。このような事にまでならないにしても、森林の植物の種類が偏るなど、森林の構造が変化します。希少な植物は消失し絶滅してしまう種も出てくるかもしれません。


生物多様性保全を考えると現在のシカ問題には、シカの個体数管理と植生保護対策が必要です。特に国立公園内には希少種が多種存在することからその対策が急がれています。「シカを捕獲するの?かわいそう。」と考える人も多いと思います。シカ対策に関わる皆さんも同じ気持ちです。しかし国立公園内の他の生物も守らなければならず、国立公園の姿を維持しシカと共生していくためには必要な事なのです。
 
20数年前、戦場ヶ原の貴重な植物は、シカの食害により壊滅的な状況にありました。環境省では2001年に、戦場ヶ原の湿原の植物をシカの食害から守るため、戦場ヶ原と小田代原を囲う総延長約17kmに及ぶシカ進入防止柵を作り、戦場ヶ原からシカを追い出しました。
国道が戦場ヶ原を縦断しているため柵内への進入路がいくつかあり、シカを完全に追い出すことはできません。しかし柵のおかげで多くのシカを戦場ヶ原に入れずにすんでいます。柵が作られる前と比較すると、戦場ヶ原内のシカの数は明らかに少ないままで維持されています。
少しずつゆっくりとですが貴重な植物は戦場ヶ原に戻り、数を増やしつつあります。柵の維持管理、柵内のシカの現状や植物の状況を把握するための調査など、多くの人々の地道な努力により戦場ヶ原は守られているのです。
 
雪にはシカの足跡が残ります。フンも目立ちます。雪から頭を出している植物の食害の様子も見つけやすくなります。冬はシカはもちろんですが、他の哺乳類の痕跡調査にも適しているのです。
シカのフンです。コロコロとしています。長軸が1~2cm 程の回転楕円体です。

次の2枚の写真はシカの足跡です。大きな二本の蹄が特徴です。人間でいうと人差し指と中指です。進行方向も一目でわかります。上の写真は写真の上方へ、下の写真は写真の左方向へ移動しています。下の写真はシカあるいはイノシシかもしれません。


この写真は戦場ヶ原内での写真です。戦場ヶ原内のシカの現状を把握するための調査中です。どうやら想定以上にシカの数は多いかもしれません。シカの足跡が縦横無尽に残っています。少ない所は一頭の足跡なのですが、多い所は複数頭が同じライン上を移動した足跡が残っていました。


戦場ヶ原を守る柵です。写真は人間や車両が出入りするための門です。このような柵が約17kmもあります。

「冬は深く雪が積もることで、シカの増加はある程度抑えられていました。しかし地球温暖化の影響か、年々雪の量が減り、積雪期間も短くなっています。シカ対策にはいろいろなアプローチの仕方があると思いますが、地球温暖化を食い止めることもシカの被害対策に繋がるかもしれません。」と生態系保全等専門員は話しています。