檜枝岐

尾瀬の秋

2021年10月18日
尾瀬国立公園 前川公彦

みなさん、こんにちは。

檜枝岐自然保護官事務所の前川です。

10月に入り、尾瀬が色づき始めました。福島側から尾瀬に入る場合、一般車の入れる御池からのルートと御池からシャトルバスでしか入れない沼山峠からのルートの2つがあります。今回は御池から裏燧林道を通って尾瀬ヶ原(見晴)に至るルートで見つけた尾瀬の秋を紹介します。御池から裏燧林道を通って尾瀬ヶ原までは約9キロメートル、約4時間の道のりです。裏燧林道はその名の通り燧ヶ岳の裏側(北側)を通るルートで、林道とはいっても車の通れない登山道ですが、木道も設置されているので、その上を歩くことができます。林道はオオシラビソなどの針葉樹やブナなどの広葉樹の針広混交樹林内を歩くことになりますが、それほど密生していないので、明るい林内を快適に歩くことができます。

色とりどりの紅葉 ひときわ目立つ鮮やかな赤

 色とりどりの紅葉             ひときわ目立つ鮮やかな赤

さて、木道は晴れて乾燥している時には歩きやすいのですが、雨の後など濡れている時には大変滑りやすいので注意が必要です。私もこれまで何度か木道上で滑ったことがありますが、木道で滑って怪我をする人もいます。裏燧林道はいくつかの沢を越えて行きますが、大変太くて立派な木材を使用した贅沢な橋もかかっています。湿った岩や木の肌にはたくさんのミズゴケを見ることができ、尾瀬が多湿な場所であることを実感します。一見草原のように見える尾瀬ヶ原にはたくさんの池塘や小川が存在するだけではなく、一歩木道から外れればずぶずぶと靴が埋まってしまうような湿地になっています。まだ木道が作られていない頃に尾瀬の美しさに心を奪われた人たちは、腰まで泥に浸かって湿原を移動したと言われています。ミズバショウに代表されるように尾瀬のキーワードは沼、(高層)湿原、池塘といった水に関係するものです。尾瀬にはきっと日本人の心を潤してくれる「水分」が存在するのではないかと思います。

明るいブナ林を通る裏燧林道  堂々としたブナの巨木

 明るいブナ林を通る裏燧林道            堂々としたブナの巨木

小川にかかる木製の橋 岩の上に密生するミズゴケ

 小川にかかる木製の橋              岩の上に密生するコケ

尾瀬ヶ原に出ると視界が急に開け、一面の草紅葉が広がっています。草紅葉というのは草原に生える草類が赤や黄色に色づく様を言いますが、樹木の紅葉より少し早く出現するようです。イネ科植物では、葉の周辺部から紅葉が始まるので、色合いが複雑で地味な感じを受けますが、その分味わいがあるように感じます。

草紅葉の尾瀬ヶ原から至仏山を望む 逆光の中で黄金色に輝くイネ科植物

 草紅葉の尾瀬ヶ原から至仏山を望む      逆行の中で黄金色に輝くイネ科植物

早朝には霧で覆われていた尾瀬ヶ原も、午後になると傾いた太陽の下で草紅葉は黄金色に輝き、歩荷が一人静かに通り過ぎて行きました。

早朝の尾瀬ヶ原 尾瀬ヶ原を歩く歩荷

 早朝の尾瀬ヶ原                 尾瀬ヶ原を歩く歩荷