檜枝岐

尾瀬でホッと一息、道行沢

2021年12月03日
尾瀬国立公園 前川公彦

みなさん、こんにちは。

檜枝岐自然保護官事務所の前川です。

尾瀬には400年も前から利用されてきた古道が残っています。この古道は檜枝岐では沼田街道と呼ばれ、かつては会津と上州を結び、馬に荷物を載せて運んだ交易路でした。戊辰戦争の時には新政府軍をむかえ撃つため、300名もの会津藩士がこの街道を通って、群馬県の戸倉まで進軍し、交戦したということです。夏は沼山峠まで車で入ることができたので歩く機会がなかったのですが、シャトルバスも冬期休業に入りましたので、沼山峠から檜枝岐村の外れにある七入まで歩いてみました。

沼田街道は沼山峠から車道と別れ、森の中に入っていきました。長く街道として使われてきただけあって人が通るには十分に広く、草や石などの障害物もなくて歩きやすい道です。斜面に設置された木道は苔むしていました。

道行沢の入口 苔むした木道 

 道行沢の入口                    苔むした木道

歩き始めてすぐに抱返ノ滝(だきかえりのたき)に出会いました。今の時期の水量はあまり多くないのですが、それでも落差25mの高さから落ちている滝は壮観でした。抱返ノ滝から落ちた水を集めて小川が流れ始めました、これが道行沢(みちぎさわ)です。簡単にまたげそうな川幅の小さな流れで、森の中をゆるやかに流れていました。この時期は落葉のために森の中は見通しがきき、林床は川縁まで枯れ葉で覆い尽くされています。沼田街道は道行沢の脇に作られているので、水辺に降り立って沢の水を手に触れることができます。

抱返ノ滝  道行沢の流れ

 抱返ノ滝                     道行沢の流れ

沼田街道は道行沢に沿って、つかず離れずに下っていきました。たまに沢を横切るための橋が架かっていましたが、古くてどっしりした造りで、道標も親切でした。あとで村の人に聞いたところ、「さんばんきょう」と読むとのことでした。道行沢は小さな流れですが、途中で覆水することもなく流れが続いていて、沢を維持している森の豊かさを感じさせます。

道行沢にかかる三番橋とと道標

 道行沢にかかる三番橋と道標

尾瀬檜枝岐温泉観光協会が出している「巨木MAP」というパンフレットがあります(片品村でも大清水から市ノ瀬までの旧道の巨木MAPについて現在作成中です)。そこには沼山峠から七入までの沼田街道沿いで見られる巨木が地図上に示され、1本ずつの樹種や直径、樹高について書かれています。このパンフレット1枚あれば、沼山峠から七入までの沼田街道を迷うことなく歩けるばかりでなく、38本もの巨木についての情報を得ることができますので、もし道行沢を歩かれる場合はご持参していただくことをお勧めします。

巨木マップの表紙 巨木マップの内容

 巨木MAPの表紙と内容(尾瀬檜枝岐温泉観光協会発行)

下の写真は第31番目のブナの巨木です。巨木の番号は沼山峠側から順に1番から38番まで振られているので、もうだいぶ下まで降ってきたことになります。この付近はブナ平という地名の場所があるくらいブナの多い場所ですが、ひときわ大きさが目立つブナでした。静かな森の中を歩いていると、次々と出会う巨木には重みが感じられ、自然の中にいる自分の心が軽やかになります。

第31番目の巨木ブナ  巨木の標識

 第31番目の巨木ブナ                   巨木の標識

道行沢最後の橋に着きました。道行沢は相変わらず緩やかに流れています。川辺にはある程度の大きさの石もありますが、全体が箱庭のような「優しい」感じを受け、道行沢を歩く時の安心感を生み出しているように思いました。今まで檜枝岐で道行沢という名前は何度か聞いたことがあったのですが、それを語る人はきっとこのような風景を思い描きながら口にしていたのだろうなと思いました。大切なのは知識ではなく、実際に自分で行ってみて感じることです。

道行沢最後の橋 ブナ林の終わり 

 道行沢最後の橋                   ブナ林の終わり

歩いている途中、真っ黒な物質が落ちていました。最初はクマのフンかなと思ったのですが、良く見ると落ち葉の間からたまたま顔を出していた土でした。ただ、クマのフンと間違えるほど真っ黒な土で、良くは分かりませんが、この道行沢流域が大変豊かな土壌であることの証拠かなと思いました。森から出ると晴れやかな秋空が広がっていました。

落ち葉の下の土の色 森から出て見た秋の空 

 落ち葉の下の土の色                  森から出て見た秋の空