Nikko National Park

温泉が湧くところ【その2】

2022年12月20日
日光 鈴木研司
温泉が湧く所【その2】
みなさんこんにちは。日光国立公園の鈴木です。随分と間があいてしまいました。
その後、日光湯元温泉の源泉の様子は日々変化しています。しかし、透明な湯が湧き出るところはいつも透明な湯でした。

隣では白く濁っています。ここも湯が湧き出ているのに白く濁ります。不思議ですね。

前回「透明な源泉が空気に触れることで白く濁ります。」と一般的な話をしました。
その後、日光湯元温泉ではない別の温泉に行ってきました。(温泉に入るためです。調査ではありません。)内湯の湯船の近くに、
「熱い場合は水で薄めてください。白く濁ります。」と書かれていました。
「ん!白く濁る。」「空気に触れるから...? 水が混ざるから...?」
「...湯温が下がると白濁するのか。」
温度計準備しました。なかなかの温度計です。

温泉が湧き出る数か所で、何回か湯温を測定してみました。それが次の表です。
月日 時間 天気 気温 湯温(高) 湯温(低) 測定場所
8月18日 14:10 雨→晴れ 24.0 41.0 36.6 源泉
9月01日 13:20 曇り 21.6 49.6 37.6 源泉
9月06日 14:00 雨→曇り 21.1 68.4 40.8 源泉
9月12日 15:20 曇り 19.8 48.2   源泉東側斜面
季節はまだ夏です。気温、湯温ともに単位は ℃です。湯温(高)、湯温(低)は、数か所の測定場所で最も高い、最も低い温度です。条件により湯温には幅がありますが、湯温が高いのは全て透明なお湯の所でした。白く濁っているところの湯温は常に低い状態でした。
温泉には火山特有の様々な成分が溶け込んでいます。その中には、イオンと呼ばれる電気的な性質(+やーの電気)を持った小さな粒子や、粒子の集まりがたくさん入っています。イオンの状態でいられれば水に溶けて見えません。しかし温度などの条件が変わると、イオンは他のイオンと結合し化合物になり、白く濁ったように見えます。おそらくこれが色の違いの理由の一つだと考えます。
 
これ覚えていますか。源泉のお湯が湧き出るところに見られた、植物と思われるものです。

その後も同じ場所にあることを2回程確認しました。しかし大雨の後、見に行くと無くなっていました。流されてしまったのですね。流されて行ったのであろう場所は源泉のすぐ隣です。湯ノ平湿原と言います。私が見ると、湯ノ平湿原の方が生息しやすい環境のように思います。
ところが、源泉の東側斜面、国道120号線の下、崖の部分から温泉が染み出てくるような場所です。

 同じものを新たに発見です。湯温は48.2℃、大量にありました。やはり湯温の高い場所を好むようです。

 約40億年前地球に生物が発生したころ、地球の環境は生物にとっては過酷でした。マグマの働きで海底に噴き出す熱水の周辺に、生物は生息していたと考えられています。生物はマグマの中から出てくる硫黄の化合物を呼吸に使っていました。今も同様の生物はいます(嫌気性生物と呼ばれています)。
日光湯元温泉の源泉周辺にはもちろん酸素は十分にあります。過酷というほどの環境ではないでしょう。とは言え、多少温度が高くても、酸性でも大丈夫という、普通の生物にとっては生息しにくい環境を好む生物がいるのですね。私には、40億年前の生物に通ずる性質があるように感じます。
身近なところに色々な生物がいます。見る方向を少し変え、見える広さを少し広げると地球の歴史にもつながっていきます。
 
1949陸水學雜誌 15 日光湯元温泉の硅藻群落 根來健一郎 氏 (東京文理科大學植物學教室) 1941年に現地で調査した結果が論文に発表されています。研究している方はいるのですね。興味のある方はどうぞご覧ください。(J-STAGEで検索)