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アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

関東地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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2017年11月 8日

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2017年11月08日島のススキ野とその由縁

富士箱根伊豆国立公園 伊豆諸島 椋本 真里奈

近頃は日が短くなり、空の色も寒々としてきましたね。

年中暖かいと思われがちな伊豆大島も、すでに冬の気配がしています。

現在、大島ではハチジョウススキ(別名:ハチジョウガヤ)が見頃です。

今回はこのススキの紹介と併せて、大島の植生の特徴を簡単に解説したいと思います。

過去の記事ですでにガクアジサイやオオバエゴノキなどの島嶼種を紹介したことはありますが、大島の植物がどうして独特なのか、今更ながら説明させてください。

大島の植生に影響するのは大きく分けて3つの環境条件だと言われています。

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【 1 】 火山活動

前の記事でも紹介した通り、大島は活火山島です。

約25,000年間に渡って噴火を繰り返して、大島の大地は異なる時代に噴出した溶岩の層になっています。

(地層大切断面)

溶岩の荒原にはまず地衣類(藻類と共生している菌類の仲間)が生え、次にハチジョウイタドリ、ハチジョウススキといった順番に自然草原ができます。

その過程を経てオオバヤシャブシなどの落葉樹林になり、最終的にスダジイなどの照葉樹林に至りますが、現在三原山東側の一部ではハチジョウススキ→オオバヤシャブシの段階が見られます。

10/26 新火口展望台より三原山とハチジョウススキ)

ちなみに三宅島でも、2000年噴火の火山ガスにより森が失われたところに現在はハチジョウススキが広がっています。

2 】潮風

一般的に、海浜植物は潮風の影響を受けやすいため背の低いものが多いです。

しかし、内陸でも比較的強い風の吹く島という環境において、大島の植物は本州の近縁なものと比べて葉っぱが大きく厚い傾向があります。

大島では、植生の発達とともに大型の植物が内陸から海岸へと移ってきました。

高さがなんと約2mもあるハチジョウススキもその1つです。

葉も厚く葉幅が広く、冬でも枯れないのが特徴です。

ハチジョウススキが影を作り、強い日光が必要な海浜植物(オオシマハイネズなど)を枯らしてしまうので、大島公園海岸遊歩道では意図的に抜き取っているそうです。


(サンセットパームラインにて)

しかし、海岸型に茎が太くなった頑健なハチジョウススキも潮風にかかればこの通り。内陸のものに比べて覇気がありませんね。

3 】隔離

海に囲まれた環境から自然的な動物の出入りがほとんどなく、大島には長い間植物を食べるほ乳類(ウサギなど)があまり生息していませんでした。

身を守る必要がないため、ハチジョウススキはトゲが退化したと考えられています。

それどころか葉っぱのざらつきすらなくなり光沢があります。平和ボケでしょうか。

ちなみに、利島以南の伊豆諸島では花のほとんどない季節があるため授粉に重要なハチの一種が生息しておらず、そこに生息する別種のハチに適応して花の形が浅くなったり花期が変化したりしています。

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以上の3点は自然の要因ですが、もちろん有人島である限りそこに暮らす人々の活動も影響してきます。

例えば、林業や農業など。かつて酪農が盛んで「ホルスタイン島」とも呼ばれた大島では、牛の飼葉用として畑でハチジョウススキを栽培していた過去もあるそうです。

ありふれた植物に見えていたものも、そうなった由縁を聞いてみると面白く感じませんか。

知れば知るほど伊豆諸島は宝島!

大島だけでなく、その他7つの有人島にもぜひ足を運んでください!

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