![](/content/000037086.jpg)
アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
那須平成の森でセンサーカメラによって捉えられた動物の紹介野生動物のくらし ~那須平成の森から~
2024年05月01日
那須
みなさま、こんにちは。
日光国立公園 那須管理官事務所の善養寺聡彦です。
今回は那須平成の森に棲む野生動物の様子を紹介します。
以前「那須にリラック〇を見た」と題して、
那須平成の森に暮らすユーモラスな子熊を紹介しました。
※ https://kanto.env.go.jp/blog/2022/02/10/
その後那須平成の森には多くのツキノワグマが暮らしていることや、
他の動物にもいろいろな変化があることがわかってきました。
今回はその一端を紹介します。
那須高原には那須御用邸があり、平成20年3月、
そのうちの一部が宮内庁から環境省に移管されて、「那須平成の森」と命名されました。
那須平成の森の拠点施設として「那須平成の森フィールドセンター」があり、
ガイドウォークをはじめとする様々なプログラムを実施しています。
※ 那須平成の森 https://nasuheisei-f.jp/
那須平成の森の敷地は御用邸用地となる以前から、放牧地や薪炭林として利用されていました。
御用邸となってからは敷地の多くの部分は人の手を加えず、
古いところでは、およそ100年間自然の回復に任されています。
したがって那須平成の森は基本的に二次林であり、原生林ではありません。
そして那須平成の森は、那須地域の本来の植生に向かって遷移している過程にあります。
那須平成の森は、こうした自然を保護するとともに、
国民が自然にふれあえる場として設立されました。
那須平成の森では、この豊かな自然変化を守るために各種のモニタリング調査を行なっています。
中・大型動物の調査もその一つです。
環境省では那須平成の森内15カ所にセンサーカメラ(自動感知撮影)を設置し、
年間を通して稼働しています。
既に10年を超えるデータが蓄積されています。
令和5年までのデータの一部を示します。
![](/content/000220542.jpg)
表中の数値は、カメラが100日間稼働したときの撮影回数として算出されています。
全体としては動物の姿が多く捕らえられるようになってきたと言えるでしょう。
しかし動物の種類によって事情は様々です。
ニホンザルやイタチはもっと標高の低い場所を好んでいるようです。
(那須平成の森は茶臼岳の山麓にありますが、標高の高い所から低い方へ長く伸びていて、
標高は1410m~620mと相当な差があります。)
タヌキはこの3年くらいでだいぶ増えているようです。
![](/content/000220574.jpg)
タヌキ ふわふわの冬毛をまとっています。
テンも増加しているようで、冬の雪上の足跡をよく見かけます。
![](/content/000220577.jpg)
テン 冬毛は、こんな色をしています!!
意外なのはウサギがあまり撮影されないことです。
センサーカメラのデータは、そのまま個体数を反映するものではないと考えられますが、
那須では雪上のウサギの足跡も少ないのです。
ただ、昨年からウサギの足跡も少し増えてきましたので、
センサーカメラのデータとも合致しているのかもしれません。
![](/content/000220578.jpg)
ニホンノウサギ
那須の冬では、茶色のウサギと白のウサギが見られます。
次はハクビシン!
![](/content/000220583.jpg)
ハクビシン
タヌキやアナグマと見分けが難しいですが、顔が写っていれば分かります。
外来種ですが日本で増加し、
タヌキなど在来の動物や人の生活に害を与えるとして問題になっています。
那須平成の森でも増加する予感があります。
しかし、前述の在来種であるタヌキの増加は、何やら頼もしさを感じます。
増加して問題になっている外来種の動物と言えば、
‘アライグマ’。
那須平成の森ではまだ撮影されていません。
しかし那須平成の森に近い ‘名勝 殺生石’。
ここではしばしば動物の遺体が見つかりますが、
アライグマも死んでいたことがあります。
既に標高の高い那須地域にも進出しています。
さて次はツキノワグマ。
豊かな自然の証とも言えるこの動物。
この3年ほど増加傾向にあるようです。
次の写真は同じカメラで、同じ年の同じ月(5月)に撮影されました。
![](/content/000220630.jpg)
![](/content/000220631.jpg)
母グマの体型はかなり異なります。
また上の写真の子グマはこの春に生まれたと考えられますが、
下の写真の子グマは2年目の子と考えられます。
(クマは冬眠中に出産し、次の冬も子と同じ巣穴で冬眠します)
この森では2家族の親子が同時に出産・子育てしているのです。
さらに、
これは次の年に撮影されました。
![](/content/000220632.jpg)
10月の写真で、この年に子が生まれた親子のようです。
母グマは前出の下の写真の個体かもしれませんが、違うかもしれません。
しかしいずれにしろ、この森では3年連続で子グマが産まれています。
昨秋は全国でクマと人の接触が多くありましたが、那須でも同様でした。
那須地域ではツキノワグマの個体数が増加している可能性があります。
若いクマと思われる個体もしばしばセンサーカメラに捉えられているので、
この森にとどまっている子グマ達も居るのかもしれません。
さてこの日記をお読み頂いている皆さんのなかでは、
「あれについてはどうなんだ?」と思われている方も多いでしょう。
そう、それは表の中で最も際立った数値の変化は、
イノシシとシカ。
イノシシとシカが急増しています。
これは全国的な問題と同様です。
平成27年に比べると、イノシシはおよそ3.5倍、シカにいたってはおよそ9倍。
![](/content/000220633.jpg)
イノシシ
イノシシの増減では大きな特徴が見られます。
平成27年から順調に増加していますが、令和3年に激減しています。
令和3年前後では「豚熱」が養豚や野生のイノシシに流行しましたが、
野生のイノシシではこれほどの影響が出ることを示しているようです。
これにはびっくりなのですが、
その後のイノシシの回復力の大きさにも驚かされます。
ニホンジカですが、まさに急増を続けている様子がうかがえます。
シカによる植生の被害が各地で報告されていますが、
近隣の地域では既に森林が変容し、林床にほとんど植生がない地域が広がっています。
![](/content/000220634.jpg)
ニホンジカ 雄同士の角突き(若い雄も参加しているようです)
那須地域ではまだはっきりとした植生の衰退は見られていませんが、
シカによる樹木の樹皮剥ぎは多くなってきています。
前回のAR日記「オオハンゴンソウに異変有り」では、
シカによる食圧の強さを紹介しました。
早い対策が必要な状況です。
※ https://kanto.env.go.jp/blog/page_00178.html
那須平成の森では、森が御用邸の敷地に組み込まれて以来、
植生の回復が進んでいます。
そしてそれは野生動物にとっても豊かな環境になって来ているということです。
動物の増加や行動の変化は、時として人との摩擦を生じますが、
自然の回復が進んでいることは重要なことだと思います。
改めて人のあり方が問われてくるのかもしれません。
日光国立公園 那須管理官事務所の善養寺聡彦です。
今回は那須平成の森に棲む野生動物の様子を紹介します。
以前「那須にリラック〇を見た」と題して、
那須平成の森に暮らすユーモラスな子熊を紹介しました。
※ https://kanto.env.go.jp/blog/2022/02/10/
その後那須平成の森には多くのツキノワグマが暮らしていることや、
他の動物にもいろいろな変化があることがわかってきました。
今回はその一端を紹介します。
那須高原には那須御用邸があり、平成20年3月、
そのうちの一部が宮内庁から環境省に移管されて、「那須平成の森」と命名されました。
那須平成の森の拠点施設として「那須平成の森フィールドセンター」があり、
ガイドウォークをはじめとする様々なプログラムを実施しています。
※ 那須平成の森 https://nasuheisei-f.jp/
那須平成の森の敷地は御用邸用地となる以前から、放牧地や薪炭林として利用されていました。
御用邸となってからは敷地の多くの部分は人の手を加えず、
古いところでは、およそ100年間自然の回復に任されています。
したがって那須平成の森は基本的に二次林であり、原生林ではありません。
そして那須平成の森は、那須地域の本来の植生に向かって遷移している過程にあります。
那須平成の森は、こうした自然を保護するとともに、
国民が自然にふれあえる場として設立されました。
那須平成の森では、この豊かな自然変化を守るために各種のモニタリング調査を行なっています。
中・大型動物の調査もその一つです。
環境省では那須平成の森内15カ所にセンサーカメラ(自動感知撮影)を設置し、
年間を通して稼働しています。
既に10年を超えるデータが蓄積されています。
令和5年までのデータの一部を示します。
![](/content/000220542.jpg)
表中の数値は、カメラが100日間稼働したときの撮影回数として算出されています。
全体としては動物の姿が多く捕らえられるようになってきたと言えるでしょう。
しかし動物の種類によって事情は様々です。
ニホンザルやイタチはもっと標高の低い場所を好んでいるようです。
(那須平成の森は茶臼岳の山麓にありますが、標高の高い所から低い方へ長く伸びていて、
標高は1410m~620mと相当な差があります。)
タヌキはこの3年くらいでだいぶ増えているようです。
![](/content/000220574.jpg)
タヌキ ふわふわの冬毛をまとっています。
テンも増加しているようで、冬の雪上の足跡をよく見かけます。
![](/content/000220577.jpg)
テン 冬毛は、こんな色をしています!!
意外なのはウサギがあまり撮影されないことです。
センサーカメラのデータは、そのまま個体数を反映するものではないと考えられますが、
那須では雪上のウサギの足跡も少ないのです。
ただ、昨年からウサギの足跡も少し増えてきましたので、
センサーカメラのデータとも合致しているのかもしれません。
![](/content/000220578.jpg)
ニホンノウサギ
那須の冬では、茶色のウサギと白のウサギが見られます。
次はハクビシン!
![](/content/000220583.jpg)
ハクビシン
タヌキやアナグマと見分けが難しいですが、顔が写っていれば分かります。
外来種ですが日本で増加し、
タヌキなど在来の動物や人の生活に害を与えるとして問題になっています。
那須平成の森でも増加する予感があります。
しかし、前述の在来種であるタヌキの増加は、何やら頼もしさを感じます。
増加して問題になっている外来種の動物と言えば、
‘アライグマ’。
那須平成の森ではまだ撮影されていません。
しかし那須平成の森に近い ‘名勝 殺生石’。
ここではしばしば動物の遺体が見つかりますが、
アライグマも死んでいたことがあります。
既に標高の高い那須地域にも進出しています。
さて次はツキノワグマ。
豊かな自然の証とも言えるこの動物。
この3年ほど増加傾向にあるようです。
次の写真は同じカメラで、同じ年の同じ月(5月)に撮影されました。
![](/content/000220630.jpg)
![](/content/000220631.jpg)
母グマの体型はかなり異なります。
また上の写真の子グマはこの春に生まれたと考えられますが、
下の写真の子グマは2年目の子と考えられます。
(クマは冬眠中に出産し、次の冬も子と同じ巣穴で冬眠します)
この森では2家族の親子が同時に出産・子育てしているのです。
さらに、
これは次の年に撮影されました。
![](/content/000220632.jpg)
10月の写真で、この年に子が生まれた親子のようです。
母グマは前出の下の写真の個体かもしれませんが、違うかもしれません。
しかしいずれにしろ、この森では3年連続で子グマが産まれています。
昨秋は全国でクマと人の接触が多くありましたが、那須でも同様でした。
那須地域ではツキノワグマの個体数が増加している可能性があります。
若いクマと思われる個体もしばしばセンサーカメラに捉えられているので、
この森にとどまっている子グマ達も居るのかもしれません。
さてこの日記をお読み頂いている皆さんのなかでは、
「あれについてはどうなんだ?」と思われている方も多いでしょう。
そう、それは表の中で最も際立った数値の変化は、
イノシシとシカ。
イノシシとシカが急増しています。
これは全国的な問題と同様です。
平成27年に比べると、イノシシはおよそ3.5倍、シカにいたってはおよそ9倍。
![](/content/000220633.jpg)
イノシシ
イノシシの増減では大きな特徴が見られます。
平成27年から順調に増加していますが、令和3年に激減しています。
令和3年前後では「豚熱」が養豚や野生のイノシシに流行しましたが、
野生のイノシシではこれほどの影響が出ることを示しているようです。
これにはびっくりなのですが、
その後のイノシシの回復力の大きさにも驚かされます。
ニホンジカですが、まさに急増を続けている様子がうかがえます。
シカによる植生の被害が各地で報告されていますが、
近隣の地域では既に森林が変容し、林床にほとんど植生がない地域が広がっています。
![](/content/000220634.jpg)
ニホンジカ 雄同士の角突き(若い雄も参加しているようです)
那須地域ではまだはっきりとした植生の衰退は見られていませんが、
シカによる樹木の樹皮剥ぎは多くなってきています。
前回のAR日記「オオハンゴンソウに異変有り」では、
シカによる食圧の強さを紹介しました。
早い対策が必要な状況です。
※ https://kanto.env.go.jp/blog/page_00178.html
那須平成の森では、森が御用邸の敷地に組み込まれて以来、
植生の回復が進んでいます。
そしてそれは野生動物にとっても豊かな環境になって来ているということです。
動物の増加や行動の変化は、時として人との摩擦を生じますが、
自然の回復が進んでいることは重要なことだと思います。
改めて人のあり方が問われてくるのかもしれません。