アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
南アルプス最古の防鹿柵
2016年08月23日みなさん、こんにちは。
自然保護官事務所のある芦安は、朝晩爽やかな風が吹くようになってきました。
しかし、日中はまだまだ天井(屋上)からジワジワ攻めてくる熱気が(私には)
脅威となっています。みなさん、引き続き熱中症には気をつけましょう。
さて、7月の3連休の話になりますが、南アルプス聖岳の南側に広がる「聖平
(ひじりだいら)」で行われた植生復元活動に行ってきました。
(聖平。小聖岳付近から2014年8月22日に撮影したもの。)
聖平は標高2,300m付近にあり、「平」という名の通りなだらかな場所が広がって
います。この場所では、かつてニッコウキスゲが多く見られたそうです。
しかし、1990年頃から南アルプス稜線部にニホンジカが現れるようになると
採食などの影響でニッコウキスゲが姿を消し、ニホンジカが好まないキオンや
ノガリヤスの仲間などの植物が増加し、景観が変化しました。
(かつてお花畑だった聖平。今は... 7月16日撮影)
この変化に危機感を抱いた南アルプスの自然保護に関わる人たち(後の南アルプス
高山植物保護ボランティアネットワーク)や自治体(静岡県)が、高山植物の分布や
ニホンジカの影響を調査し、2002(平成14)年に南アルプスで最初の防鹿柵を設置
しました。
設置から15年が経過した今、ニッコウキスゲをはじめ、さまざまな植物が防鹿柵 の
中で花をつけています!
(南アルプス最古の防鹿柵内の様子。黄色い花がニッコウキスゲ。
奥に見えるのは防鹿柵修繕作業中の皆さん。 7月16日撮影)
現在、聖平には通年設置の防鹿柵が5基、小型の防鹿柵(植物を株単位で守るもの)が
20基設置されており、毎年実施されている植生復元活動では、防鹿柵の修繕や裸地化
した斜面への伏工(土壌流出防止用)などが実施されています。
*資材の工夫
現地での作業を担っている南アルプス高山植物保護ボランティアネットワークは、資材を
通じて南アルプスに他地域の生物を持ち込んでしまうことを予防するため、使用する資材
に工夫を凝らしています。
土壌流出防止に使用する繊維マットは高温滅菌処理をし、細菌や種子を除去したものを使用
しています。また、土留め工などで使う木材は南アルプス山麓域(井川)産を使用しています。
山岳で使用する資材には様々な制約がかかるため、全ての現場、全ての資材について、滅菌
処理したものや地元産のもので賄うのは困難です。しかし、南アルプスの自然のために
「目に見えない部分の努力や工夫」を追求する姿勢には頭が下がります。
山への深い理解と行動力のある多くの方によって南アルプスは支えられています。