アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
南アルプスの隠れた魅力
2018年02月28日みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
日本アルプス最南端に位置する南アルプスでは、氷期に南下し、その後の温暖化で取り残されたライチョウのような氷期遺存種や、固有種(南アルプスでしか見ることができない種)をはじめ、多様な生物がみられます。そんな南アルプスの、山そのものの大きな魅力はご存じでしょうか?
南アルプスは、はるか昔海底にあった堆積物がプレートの動きによって大陸に付加され、伊豆―小笠原弧の衝突によって急速に隆起したことによって生じた、非火山性の構造山地です。南アルプスは北アルプスに比べ、なだらかな山容をしていますが、それは南アルプスができたのが比較的新しく、浸食がすすんでいないことによるものです。南アルプスでは現在でも隆起が続いており、その速度は年間約4mmと日本最速で、世界でもトップレベルです!!
(小赤石岳付近から見る赤石岳山頂)
平成26年4月、国土地理院が衛星測位システムによる測量成果に基づいて日本の山岳標高を改定しましたが、このときに間ノ岳は3189mから3190mとなり、奥穂高岳と並んで日本で3番目の標高になりました。このほか、赤石岳(3120mから3121m)、光岳(2591mから2592m)など、赤石山系の15の山が1m高くなりました。南アルプスは急速に隆起を続けているので、将来的には間ノ岳ももっと高くなるかもしれませんね。
(参考)
日本の主な山岳標高の改定(国土交通省 国土地理院)
(http://www.gsi.go.jp/kihonjohochousa/kihonjohochousa60009.html)
山地が急激に隆起すると、稜線部や山腹斜面などが崩壊しやすくなります。また、湿潤で雨の多い南アルプスの気候の影響を受けて、谷は深く浸食されます。
(大聖寺平下方のV字谷)
その結果、このようなV字谷や線状凹地、崩壊地などが多く形成されます。
荒川岳稜線で、とても目立つ赤い石を見つけました。この赤い石の正体は「チャート」といい、赤石岳や赤石山脈の由来になっています。チャートは、海中のプランクトンが堆積してできるといわれています。これは、南アルプスがもともと海の底にあり、プレートの動きによって移動し、持ち上げられて形成されたことを示しています。場所によって石の模様が異なるので、いろいろ比較してみるのも面白いでしょう。このほかにも、北岳山頂、光岩などが代表的ですが、有孔虫、サンゴ等が堆積してできた「石灰岩」などの岩石がその起源を物語っています。
(悪沢岳の赤色チャート)
南アルプスは、氷河が存在した痕跡がある日本で最も南の場所でもあります。南アルプスの高山帯には、約2万年前に形成された氷河地形・周氷河地形が現存しています。
(荒川中岳西カール)
仙丈ヶ岳や荒川三山などでみられるカール(圏谷)もそのひとつです。氷河によってえぐり取られたカールには遅くまで雪が残ります。また、微地形に応じて多様な植生が成立しています。
今回は地形・地質にフォーカスして南アルプスの魅力をご紹介しましたが、おすすめスポットはまだまだたくさんあります。地形・地質から、途方もなく長い時間軸で変化する地球の動きにも思いを馳せながら、移ろいゆく自然の美しさも楽しめる南アルプス。実際に山に登って、目で見て、肌で感じてみてはいかがでしょうか?