アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
野生復帰を支えたトキたち
2019年12月24日皆様、こんにちは。
佐渡自然保護官事務所の近藤です。
ここ数年、佐渡の野生下では、多くのヒナを誕生させてきたトキたちが、1羽また1羽と姿を消していっています。少しずつ世代交代が始まっているのかもしれません。
トキには個体識別用の足環が装着されていて、日々のモニタリングによって1羽1羽の動向が記録されています。そのため、どのトキが姿を消しているのかが分かります。
「トキが姿を消す」=「生存扱いから外れる」には、2パターンあります。1つは、死体が確認されたとき。もう1つは、モニタリングで1年以上観察されなくなったときです。
今日は、野生復帰を支えたメスのトキ3羽についてお話します。
【No.78】
<左からNo.68、巣立たせた幼鳥、No.78 2015/6/1撮影>
出生:2010年、野生復帰ステーション生まれ・メス
放鳥回:第4回放鳥(2011年3月11日放鳥)
最終確認日:2018年8月29日
子育て上手な大ベテランペア、No.68(オス)とNo.78(メス)は、モニタリングチームでは「ろくはちななはち」と呼ばれ、雌雄セットで親しまれていました。毎年3羽以上のヒナを巣立たせる子だくさんペアとして有名で、2014年から2017年の間に合計13羽のヒナを巣立たせました。2018年の夏を最後に、No.78の確認はなく、残されたNo.68は、足環のないメスを新たな相手として迎え、現在も佐渡の野生下で暮らしています。
【No.80】
<左からNo.80、No.67 2015/10/9撮影>
出生:2010年、トキ保護センター生まれ・メス
放鳥回:第4回放鳥(2011年3月12日放鳥)
最終確認日:2015年12月26日
2012年、36年ぶりに野生下でトキのヒナが誕生しました。この時、No.67(オス)No.80(メス)「ろくななはちぜろ」ペアも、みごと3羽のヒナを巣立たせました。この年に野生下で誕生したヒナは全部で8羽。この8羽には、佐渡市が全国から募集した愛称、「みらい」「きぼう」「ゆめ」など8つが付けられ、佐渡市に出生届も提出されました。67/80(ろくななはちぜろ)ペアは、2012年から2015年の間に計11羽のヒナを巣立たせました。毎年同じ集落のスギ林で営巣し、地域の方々に愛されたペアでした。残されたオスのNo.67はNo.95という新たなメスを迎え、現在もNo.80と過ごしていた地域で暮らしています。
【No.127】
<水田で採餌するNo.127 2018/5/7撮影>
出生:2011年、出雲市トキ分散飼育センター生まれ・メス
放鳥回:第9回放鳥(2013年9月29日放鳥)
最終確認日:2018年8月27日
孵卵器内でふ化し(人工ふ化)、人によって育てられた(人工育雛)トキは、野外での繁殖成功率が低いことが分かっています。人工ふ化・人工育雛のトキを、モニタリングチームでは、人人(じんじん)と呼んでいます。No.127は人人ですが、2014年から2017年の間に8羽のヒナを巣立たせました。多くの人人個体が繁殖に失敗する中、これは驚異的な数字です。No.127は人人トキの中でも際立って優秀なメスでした。2018年の夏を最後にNo.127の確認はありません。
※近年の放鳥個体の多くは、トキのもとでふ化し(自然ふ化)、トキに育てられた(自然育雛)個体です。
私たち佐渡のアクティブ・レンジャーは、日々野生下に生きるトキの動向を追跡・記録しています。モニタリングの経験から、どの地域に何番のトキがいるのか、何番のトキがどこの餌場を好むのかなど、個体ごとの特性を把握しているため、長く観察している個体ほど愛着がわいてきます。そうした個体が見られなくなったり、死体で発見されたりすると、「よく頑張った。ありがとう。」という気持ちになります。野生下を逞しく生き抜き、人知れず消えていくトキたち。私たちは君たちの活躍を忘れない。
日々トキたちの姿を見守る者として、佐渡のトキ野生復帰に大きく貢献したメスたちをご紹介させていただきました。
<No.127の娘、No.A11とA11が誕生させたヒナ 2018/5/25撮影>