アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
尾瀬国立公園とニホンジカの今 その1
2020年01月10日事務所付近では、年末なかなか雪が積もらず、年が明けてやっと20㎝程度積もりました。
尾瀬では、これから数メートルもの雪が積もり、長い冬を迎えます。
▲冬の尾瀬(至仏山から尾瀬ヶ原)
今回は尾瀬のシーズンも終わり、落ち着いたところで尾瀬国立公園とニホンジカについて少し書きたいと思います。
近年、シカは全国的に生息数が増加しており、国立公園においても様々な被害が報告されています。尾瀬地域は、元来シカによる影響を受けずに成立した生態系であると言われていますが、1990年代半ば頃から本格的な調査により、シカによる被害が確認されています。
本州最大の高層湿原である尾瀬では主に2つの被害があります。
【被害1】植物の採食
・シカが湿原や林内の植物を食べてしまうことによって、希少な植物を含む植生の生育に影響が出てしまいます。
▲シカの食害を受けたニッコウキスゲ
【被害2】裸地化
・シカが土壌を掘り返して泥浴びをしたり、踏み荒らしたりしてしまうことで湿原が露出してしまいます。
また、ミツガシワという植物をシカが根を掘り起こして食べてしまうことも裸地化の一因になります。
そこで、尾瀬では被害軽減に向けた様々な取組を行っているのですが、シカと植物の調査をもとに、対策を実施しています。どんな調査を行っているかというと、大きく3つの調査を行っています。
【調査1】シカの生息数の傾向を知る
・ライトセンサス調査
(夜間、湿原に出没するシカをライトで照らし、シカの数をカウントします)
・カメラトラップ調査
(林内に設置した自動撮影カメラに写ったシカの撮影頻度から生息数を把握します)
【調査2】シカの行動を知る
・GPS首輪
(シカの行動を知るために捕獲したシカにGPS首輪を装着して移動経路を追跡します)
▲GPS首輪を付けたシカと遭遇
【調査3】植物への影響を知る
・植生被害調査
(シカに食べられた植物を数えて被害状況を把握します)
・裸地面積の把握
(ドローンで湿原を空撮し、裸地面積の増減を把握します)
こうした調査の結果をもとに、大きく2つの対策を実施しています。
【対策1】捕獲
・くくりわなや銃器による捕獲を行い、シカの個体数調整を実施しています。
【対策2】柵設置
・調査の結果等から優先防護エリア(優先的に守るエリア)関係者で決め、
各機関で分担しながら防護柵の設置をすすめています。
尾瀬国立公園の貴重な生態系を未来に残すため様々な関係者が連携、協力をして取組を行っています。
次回は、春と晩秋に尾瀬と日光を移動するシカについて更新したいと思います。