関東地域のアイコン

関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

人による希少な動植物への被害

2020年03月18日
南アルプス

みなさん、こんにちは。

南アルプス自然保護官事務所の本堂です。

南アルプス山域には数多くの動植物が生息・生育しており、南アルプスでしか見ることができない希少なものもあります。その動植物の生息・生育地において、人による盗掘や踏み荒らしがされている場所が見られます。ほんの一例ですが、被害の状況をお伝えしたいと思います。

■盗掘による被害

昨年、南アルプス山域を歩いていてひっそりと咲くカモメランを見つけました。

カモメランは深山の森の中に生育しています。条件が良いと咲き、まれに群落を作ります。茎は細く、短いため、よく目をこらさないと見つけられません。

このカモメラン、環境省レッドデータブックでは準絶滅危惧(現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種)に指定されています。沖縄を除き日本全国で生育していますが、近年、数が減っています。原因はニホンジカによる食害ではなく、人間による盗掘です。

△南アルプスの山小屋スタッフより提供(撮影日:2019.6.19

根を掘り起こし、抜き取られた跡が丁寧に残されています。シカはこんなに丁寧に食べません。盗掘の被害はカモメランだけでなく、アツモリソウやホテイラン、キタダケソウも同じです。人間が人目を盗んで土を掘り返して植物を採る、非常に悲しいことです。カモメランは山梨県の指定および特定希少野生動植物種に指定されていること、また、南アルプス国立公園の指定植物なので、採取した場合は罰則があります。

■踏み荒らしによる被害

キタダケソウの生育地ではロープを設置しています。キタダケソウを見たことがある方はご存じかと思います。きれいな花や珍しい花を目の前にして、「ロープがあるけど近くで接写したいから乗り越えちゃえ!!」・・・なんのためにロープが張ってあるのでしょう。「乗り越えたい!」と思った時、考えてみてください。

踏み込まれた部分は植物がなくなり、土が流れ出しています。また、踏み込みのいちばん上では、土が流れ出したために、キタダケソウの株ごと土壌が落下してしまう恐れがあります。乗り越えたい気持ちをぐっと抑えて登山道から外れずに愛でていただけると幸いです。

南アルプスだけに限らず、全国に生息・生育するライチョウ、タカネキマダラセセリ、キタダケソウやホテイラン、ホテイアツモリなど293種(平成312月時点)が環境省が指定する「種の保存法」に基づき、採取、損傷、譲渡等が禁止されています。また、南アルプス国立公園の指定植物になっている植物の採取および損傷も禁止です。違反した場合、どちらも懲役または罰金が科されます。

希少種にかかる規制を行っているのは国だけではありません。カモメランの例にも記載しましたが、各都道府県においても希少野生動植物の保護に関する条例が定められています。長野県、静岡県、山梨県で指定されている動植物や罰則が異なります。このほかにも文化財保護条例等による規制があります。

なぜその場所に生息・生育しているのか。その個体に合う場所だからです。わざわざ人間が移動させてあげる必要はないのです。踏み荒らしてまで撮影したいですか?その個体が咲いたその場所で、自然体を楽しんでください。多くの皆さんがマナーを守って登山されています。南アルプスの素晴らしい自然を守るためにはみなさんのご理解とご協力が必要です。みなさんでマナーを守って美しい自然を守っていきましょう。