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関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

トキが飛び立つ前に見せる行動

2020年11月20日
佐渡

皆様、こんにちは。

佐渡自然保護官事務所の近藤です。

私たち佐渡のアクティブ・レンジャーは、佐渡の野生下で暮らすトキのモニタリングを主な業務としています。トキのモニタリングで得たデータは、トキ野生復帰の取組の評価や今後の事業の目標・方針を立てるために活用されます。

トキのモニタリングでは、トキの脚に装着されている足環(あしわ)を確認して個体を識別し、どの個体が、いつ、どこで、何をしていたか、を記録します。こうしたモニタリングによって、トキの生存状況、繁殖結果、トキが好む環境などが分かります。

<全ての放鳥トキと野生下で誕生したトキの一部に個体識別のための足環(左脚に番号リング、右脚にカラーリング)が装着されています。>

<野生下トキの足環の識別表。佐渡市羽茂(はもち)地区で観察していたので、羽茂グループを参照し、写真の個体がB94であると分かりました。>

個体の識別は、モニタリングの基本かつ最重要要素ですが、でこぼこした水田や草の茂みを歩き回るトキの足環を読むのは至難の業です。

<手前の草に脚が隠れてしまっています。>

トキの識別にはスピードが要求されます。観察中、歩行者や車が通過したり、上空を猛禽が飛んだりして、トキが驚き飛んでしまうことがあるからです。トキが飛んでしまっては、足環を読むどころか観察すらできません。

そのため、私たちはトキが飛ぶ前に見せる行動にとても敏感です。

前置きが長くなりましたが、今回はトキが飛び立つ前に見せる行動を紹介します。

通常、モニタリングは車に乗って行います。トキを驚かさないために、観察するトキから150メートル程度(田んぼ約2枚分)離れた安全な場所で停車し、エンジンを切って観察します。エンジンを切った車は生きものとして認識されないのか、そして、車内の人間は確認しにくいのか、車の中からだとトキを警戒させずに自然な行動を観察することができます。

トキの警戒行動は、餌場にいれば、下を向いて餌を捕るのをやめ、頭を高く持ち上げて動きがとまります。水田からあぜに上がってより高い位置からこちらの様子をうかがう個体もいます。木に止まっているのであれば、動きをとめ、頭を高く持ち上げてこちらをじっと見つめます。この場合、150メートル以上離れていても、それ以上近付くと飛んでしまうので、私たちはエンジンをとめてトキを刺激しないよう、そこから観察します。しばらく車の中でじっとしていると、トキたちはまた頭を下げて餌を探し始めたり、羽繕いを始めたりします。このようにトキの警戒が解けると飛翔するリスクは軽減するので、観察を続け、スピーディに識別していきます。

 ですが、トキはいつまでも食べている訳ではありません。おなかがいっぱいになれば飛び立ちます。飛び立つ前になると、餌を捕ることに集中しなくなり、歩いたり、きょろきょろしたり、落ち着きがなくなります。そして、「コッ...コッ...」と短く鳴き始めます。鳴き始めたらほぼ確実に飛ぶので、未識別であればその個体を優先的に識別し、識別済みであれば、飛翔写真を撮影するために、一旦観察を中断し、カメラをかまえます。ファインダーをのぞきながら、トキがフンをするのを確認したら、いよいよいつでも撮影できるように心の準備を整えます。鳥は、飛び立つ前、より身を軽くするためによくフンをするからです。素早く飛び立つトキを綺麗に写真に収めるために、飛び立つ前のこうした行動が、近藤個人的には目安になっています。

 

<鳴いているトキ。のどを膨らませて鳴き声を出しています。飛び立つ前の仕草です。>

<しばらく鳴いたあと、飛び立ちました。>

<飛び立つ前にあらかじめファインダーに入れておいて撮影>

飛び立つ前に鳴くと書きましたが、何かに驚いて慌てて飛ぶ場合はほとんど鳴きません。できるだけ目立たずに危険から離れるための行動かもしれません。

日々同じ生きものを観察していると、さまざまなことが見えてきます。

観察は、言葉を話さない生きものを理解する一番の近道かもしれません。

<オスのキジに近付くトキの幼鳥。どんな会話をしているのでしょう。>