アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
トキの死亡確認
2021年02月10日皆様、こんにちは。
佐渡自然保護官事務所の近藤です。
全国的に雪の多い冬ですが、佐渡もたびたび大雪に見舞われ、野生下のトキたちには厳しい状況が続いています。
この冬、これまでに12月から1月にかけて計3個体の死体が発見されました。このうち2羽は積雪の影響で衰弱死した可能性が示されています。
過去3年間では、2017年度の冬期には13羽、2018年度には26羽、2019年度には32羽のトキが死亡したと推定しています。厳しい冬を乗り越えるのはトキにとって容易なことではないのでしょう。
佐渡の野生下には推定442羽のトキが暮らしています。トキの個体数が増えると、残念ながら、死亡してしまうトキの数も増えてしまいます。
今回は、野生下のトキの死亡確認がどのように行われているのかを解説します。
野生下のトキの死体は、主に「市民からの連絡」によって発見されます。また、一部の放鳥トキには行動を把握するためにGPS発信器が装着されており、トキの位置情報をもとにして発見される場合もあります※。このような時は、私たち職員が現場へ向かい、状況を確認し、死体を回収します。
※トキの位置情報や体温などをパソコンなどの端末から職員が確認することができます。トキは日中餌を探して移動したり林で休んだりしますが、GPSの位置情報が1日以上動かない時や体温が極端に下がっている時は、発信器が何らかの理由で外れたか、発信器を装着したトキが死んでいることが考えられます。
<GPS発信器を装着された放鳥トキ>
■回収現場でわかること
トキの死体や死亡した環境を確認することで、死因を推定できる場合があります。たとえば水田で発見され、死体の頭や胸に穴が開き、大量の出血がある場合、猛禽の爪が刺さってできたと考えられ、採餌中に天敵に襲われたと推定できます。また、死体が見つからなかったとしても、落ちている羽などから個体を特定できる場合があります。トキの死体や死体回収現場には多くの情報が残されています。
<現場に落ちていたトキの羽。死亡確認の現場には、しばしば羽が散乱しています。この羽の先には、赤いマーカーが着色されており、羽の新鮮さや着色されている羽の部位から、2020年9月に放鳥された個体のものだと推定できます。>
<林床に残っていたトキの骨の一部。薄いピンク色をしていることでトキの骨だと分かります。回収後、獣医師に確認いただき、トキの骨と判断しました。細かく砕けていることから、骨を噛み砕くことができるほ乳類にも捕食されたと推定されます。>
■解剖によってわかること
死体を回収できた場合、必要に応じて鳥インフルエンザの検査を実施し陰性を確認した後に、佐渡トキ保護センターの獣医師が検死・解剖を行い、体内外の損傷、病気の有無、胃内容物などを詳しく調べます。
実際の例として、池のほとりで回収された目立った外傷のないトキの死体を解剖した結果、肺に水がたまっていたことが分かり、溺死と判断されました。なかには、解剖したら食道に大きなドジョウが詰まっていて、ドジョウの誤嚥で窒息死したと判断されたトキもいました。
トキの体内に残された餌を調べることで、季節ごとの餌生物の種類、採餌環境等が分かります。トキが何を食べているのかは観察だけでは特定することが非常に難しいため、死体を解剖して得られる情報は大変貴重です。
胃内容物の調査が思わぬ発見をもたらす場合もあります。2018年に死亡したトキのヒナの胃内容物を新潟大学の岸本准教授が分析した結果、佐渡では何十年も前の採取記録しか残されていないアカマダラハナムグリという昆虫が確認されました。アカマダラハナムグリの近年の佐渡での生息が明らかにされた事例です。
モニタリングや胃内容物の調査などにより、トキは100種以上の生物を採餌していることが確認されています。
<2021/1/2に死亡を確認した放鳥トキの胃内容物。吹雪が続く中、タニシやガガンボの幼虫を食べて命をつないでいたようです。>
こうした解剖に加え、捕食者を特定するためのDNA鑑定を行う場合があります。昨年の繁殖期に巣内で死亡したトキのヒナの傷口や体表面から唾液サンプルを採取し、DNA鑑定を行った結果、肉食獣のテンのDNAが検出されました。これにより、テンが野生下のトキのヒナを捕食したことが判明しました。
<トキのヒナの死体から獣医師がサンプルを採取する様子>
トキの死亡確認は、悲しい現実ではありますが、死してなおトキたちが教えてくれる多くの情報を可能な限り拾い集め、今後のトキ野生復帰の取組に活かしていきます。
市民の皆様からご連絡いただいた情報が、多くの発見につながっています。心から御礼申し上げます。
<トキの死体を見つけたら>
環境省佐渡自然保護官事務所へご連絡ください。
電話:0259-22-3372
E-mail:RO-SADO2@env.go.jp