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関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

仙石原湿原「ヨシ刈り後の開花調査」とモウセンゴケの花 (箱根地域)

2021年07月27日
富士箱根伊豆国立公園 山口光子

皆さん、こんにちは。

富士箱根伊豆国立公園管理事務所の山口です。

梅雨も明け、本格的な夏がやってきそうな箱根です。

夏の花たちが咲き始めるこの時期、箱根町では仙石原湿原で咲いている花数を数える「ヨシ刈り後の開花調査」が行われました。この調査は、先行して約1ヶ月前に今年で13回目となる「ヨシ刈り」が実施され、これによって適度な日照を得られた湿地性植物が、ヨシ刈りをしなかった場所と比較して勢力がどう変化するかを、花数によって確認する調査です。この結果は、ヨシ刈りを今後の仙石原湿原の保全にどう活用するべきか検討する材料にもなっていきます。

【今年のヨシ刈り風景  背景には天然記念物の石碑とススキ草原が見えます】

(ヨシ刈りについてはこちらを確認下さい⇒昨年の「ヨシ刈り」作業について

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]_「箱根仙石原湿原植物群落」保全活動(箱根地域) (env.go.jp)

開花調査当日は、コロナ禍、および神奈川県では蔓延防止重点等措置が発令されている中でしたので、マスク着用、そして対象地域外の少数人員で作業を実施し、この作業にアクティブ・レンジャーも同行しました。少人数での調査になったため、調査対象はこの時期開花を迎える3種「ノハナショウブ」「カキラン」「ミズチドリ」に絞り実施しています。

【開花調査前 草丈の短い部分がヨシ刈りをした場所です】

ヨシ刈り実施箇所の方形区ではヨシが育ち始めていましたが、方形区の4角形がはっきりと目視確認できます。この方形区の横に、ヨシ刈りをする前の状態と同じ環境、同じ広さの方形区(対照区)をそれぞれ新たに作り、この2か所内の花数を比較します。汗だくになって作業を実施した皆さんは、パークボランティア関係者や箱根湿生花園の方々です。この皆さんは植物調査の経験が豊富なので、少人数でしたが手早く調査が実施出来ました。蒸し暑い最中、本当に頭が下がります。

調査に参加した感想は、日当たりが良い場所ではしっかりと「ノハナショウブ」の開花数が増え、「カキラン」は日向でも日陰部でも咲いているといった印象でした。広くはない湿原の中で、植物たちは自らに適した環境を求めて生育している様子に驚きます。

【カキランとノハナショウブ(どちらも神奈川県絶滅危惧ⅠB類)】

「ミズチドリ」は至る所で咲いており、少しヨシが伸びている場所でも元気に咲くようでした。

【ミズチドリ(神奈川県絶滅危惧ⅠB類)】

更に今回は、調査対象種以外の植物ではありますが、ヨシ刈りの効果で元気に咲く湿地性植物を目にすることが出来ました。「モウセンゴケ」の花です!

【モウセンゴケ(神奈川県絶滅危惧ⅠB類)とその花 】

「モウセンゴケ」に、このように可愛らしい花が咲くのは意外でした。ヨシ刈り後の方形区内は一部ではありますがモウセンゴケのお花畑となっていました。太陽の光が好きな植物であり、ヨシ刈りによって好環境がそろった結果と思われます。

今回紹介した植物たちは、全国的には一般的に観察できる植物ですが、神奈川県では希少種のカテゴリー「絶滅危惧ⅠB類」に指定されています。

【希少種って何?と思われた方は以下サイトを確認下さい。希少種カテゴリーを調べるのにも便利です。】

★生物情報収集・提供システム・生きものログ⇒https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/

仙石原湿原は、「ヨシ刈り」という人の手による管理で、湿地性植物を維持していた歴史があります。その昔は、馬を放牧して下草を食べさせ、また民家の屋根の材料としてヨシが刈られることを繰り返して、仙石原湿原にはノハナショウブが咲き誇ったとも言われています。このサイクルが残念ながら失われている今、現存する生物多様性を守る為にも、「ヨシ刈り」が保全活動に有用であろうことは、今回の「開花調査」への同行で実感できました。「開花調査」の結果自体は、その年の天候によっても変化があるので、今後も継続して観察していくことが重要です。何もしなければ、乾燥が進んで湿地は消えてしまいますので、アクティブ・レンジャーとしては、仙石原湿原の保全活動3本柱「火入れ」「ヨシ刈り」「開花調査」の繰り返しを、今後も協力、応援できればと考えています。

【おまけ】

仙石原湿原では、湿地性植物以外にも、箱根の山で観察できるユニークな植物に出会えました。

「オオナンバンギセル」です。こちらは全国で、一般的に観察しやすい植物です。

【オオナンバンギセル】

ススキの根元に出る寄生植物ですので、ハイキング中にススキを見かけたときには、

是非探してみてください。