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関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

伊豆半島で出会える夏の昆虫たち -アゲハチョウ科編 ②-

2021年08月26日
下田 齋田滉大

みなさん、こんにちは。線香花火の玉を落とさないことに定評のある齋田です。

そんなに集中してじっと動かずにいるのが楽しいのかと聞かれると、それはちょっと答えづらいです。

さて、伊豆半島の長い夏も終盤に差し掛かり、国立公園内では動植物が観察しやすい季節となりました。

山や河川、草原や湿地、どこへ行っても生き物たちと出会うことのできる、自然観察にはもってこいの季節ではありますが、コロナ禍が続くなか泣く泣く外出を自粛している方も多いのではないでしょうか?

そんな生き物好きのみなさんに伊豆半島の夏の雰囲気をお伝えするべく、前回の日記に引き続き、巡視(国立公園を構成する施設の点検や利用状況の把握等を行う業務)の際に見かけた昆虫たちをご紹介します。

まずはこちら、どことなくスポーティな印象を受ける「アオスジアゲハ」です。

【アオスジアゲハ】

名前の由来となった水色の帯が可愛らしいアオスジアゲハ。細かい動きで俊敏に飛ぶため、めったに写真を撮らせてくれません。この日は機嫌が良いのか数秒ほどのシャッターチャンスを貰うことができました。

幼虫はクスノキ科の植物を食べて育つため、都市部のみなさんは公園や街路樹にて見かけることがほとんどかと思いますが、本来の生息地は平地から低山地等の照葉樹林とされています。

雄は吸水性が強く、降雨後に雨水が地面を流れる箇所や温泉水が流れ込む河原周辺にて集団吸水を観察することができます。アゲハチョウ科の雄にとってナトリウム塩の摂取が配偶行動に重要な役割を持つことは有名ですが、吸水行動によって得られたアンモニアを窒素源として筋肉や精子の生産に役立てていることを証明する論文もあるようです。興味のある方は、オープンアクセスの文献等で調べてみると面白いかと思います。

照葉樹林が多く見られる伊豆半島では、低山地を中心に広いエリアにて観察することができます。

続いて、あまりの大きさに画角からはみ出してしまう「モンキアゲハ」です。

【モンキアゲハ】

その名の通り、黄白色の斑紋が特徴的なモンキアゲハ。夏型の雌は特に大きく、日本最大級のチョウと言われています。元々は南方系の種類ですが、最近は関東・北陸地方にも生息域を広げているようです。

千葉県に長く住んでいた私にとって、伊豆半島で暮らし始めるまではあまり馴染みのないチョウでした。その大きさにまだ慣れていないせいか、写真に撮るといつもどこかがはみ出してしまいます。

幼虫はカラスザンショウやミカン類といったミカン科の植物を食べて育ち、成虫はウツギ類やヒガンバナ等を中心に様々な花を訪れます。

成虫の活動期は他のアゲハチョウよりもやや長く、羽化は9月の中旬頃まで断続的に見られます。しかし、どういうわけか夏の終わりに出会うモンキアゲハは写真のようにスレていることが多い印象です。羽化のタイミングによって成虫の発生個体数や生存率等が異なるのでしょうか。羽化直後に見られる傷一つ無い姿も美しいのですが、過酷な野生下を生き抜いた証である痛んだ翅にはそれとは違った美しさを感じますね。

栽培ミカン類が豊富な伊豆半島では、人家や農地を中心に広いエリアにて観察することができます。

今回は、夏の季節に富士箱根伊豆国立公園にて観察できるアゲハチョウ科の昆虫のうち、撮影に協力してくれた「アオスジアゲハ」と「モンキアゲハ」についてご紹介しました。この他にも、カラスアゲハやキアゲハ等が多く見られるのですが、彼らについてはまた別の機会に解説できればと思います。

緊急事態宣言の対象区域が拡大され、地域によっては一層の外出自粛が呼びかけられていますが、この日記を通じて少しでも伊豆半島の夏を感じて頂ければうれしいです。

次回も伊豆半島で出会った昆虫たちを紹介します!虫好きの方もそうでない方もお楽しみに!