アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
【小笠原】オガサワラオカモノアラガイの世界
2022年02月25日皆様こんにちは。
小笠原自然保護官事務所 母島事務室の伊藤です。
突然ですが、皆様は透明感のあるものといえば何を想像しますか?
水、宝石、ガラス、ゼリーなど...美しいものばかりですね。
綺麗な人に対して「透明感がある」といえば関西の人が話す「シュッとしてる」に近いニュアンスの誉め言葉になります。(ならないかもしれません)
透明感とは、上品な美しさを求める現代人にあと一歩をくれる重要なファクターです。
そこで今回は、小笠原で随一の透明感を誇る美しい陸貝「オガサワラオカモノアラガイ」のご紹介をします。
オガサワラオカモノアラガイは他の近い種類のなかまと比べても殻が小さいのが特徴です。
小さな殻から溢れんばかりのみずみずしく水分をたたえる麗しい姿で一定の層から熱い支持を集めており、名前の通り小笠原諸島の固有種です。
△抜群の透明感を遺憾なく発揮するオガサワラオカモノアラガイ(飼育ケース内で撮影)
殻の模様のように見える部分は内蔵です。
とても殻が薄いため、このように中身が透けて見えます。大胆ですね。
そんなオガサワラオカモノアラガイは、環境省レッドリスト2020で絶滅危惧I類(CR+EN)に指定されています。
そのため、オガサワラオカモノアラガイの生息域外保全(絶滅のおそれのある生き物を安全な施設で保護、増殖すること)を小笠原環境計画研究所(通称「おかん研」)の人たちと協力して行っています。
ここからは、私たちがどのようにしてオガサワラオカモノアラガイを飼育しているかをご紹介します。
オガサワラオカモノアラガイは葉の表面に付着するカビなどを食べるので、野外で採取してきた葉を用意して飼育ケースに入れます。
彼らは高い湿度を好むため、飼育ケースは加湿器を繋げられるように改造した特別製です。
△オガサワラオカモノアラガイのために用意された新鮮な葉が入った特製のケース
一週間ごとに新しい葉が入ったケースを用意し、オガサワラオカモノアラガイを移し替えることで常に新鮮なカビを食べられるようにしています。
引っ越しの際にはオガサワラオカモノアラガイの数を一匹ずつ数え、先週から何匹死んでしまったか、産卵はあったか、どれぐらい成長したか......など、様々なことを記録します。
オガサワラオカモノアラガイの飼育は過去に例がないため、どんな情報が後から役に立つかわかりません。なので、気が付いたことはできる限り記録に残しておきます。
△引っ越し前の特製ケース(左)と引っ越し先の特製ケース(右)
このオガサワラオカモノアラガイのためだけに用意された特別な空間は、透明なケースの外側を知らない彼らにとって世界の全てでもあります。
せめて彼らの世界が穏やかであることを願いながら、毎週の作業を行っております。
△生まれたてのオガサワラオカモノアラガイ(かわいいですね)
かつては父島でも見られたオガサワラオカモノアラガイですが、ニューギニアヤリガタリクウズムシという貝食性のプラナリアによって絶滅したと考えられています。
母島ではまだニューギニアヤリガタリクウズムシの侵入は確認されていないので、母島を訪れる際は荷物や靴などに付いた土と一緒に持ち込んでしまわないよう、注意しましょう。
オガサワラオカモノアラガイの健やかな未来のために。
△野生のオガサワラオカモノアラガイ(母島・石門山で撮影)