アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
関東地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。アクティブ・レンジャーとは、自然保護官の補佐役として、国立公園等のパトロール、調査、利用者指導、自然解説などの業務を担う環境省の職員です。管内には、日光、尾瀬、秩父多摩甲斐、小笠原、富士箱根伊豆、南アルプス国立公園があります。
【小笠原】飛ぶ宝石
2022年06月10日
小笠原国立公園
関東地方環境事務所
こんにちは。小笠原国立公園の神之田です。
早いもので、私が小笠原に来て2ヶ月がたちました。
最初に小笠原に来たとき、その海の美しさに驚きましたが、2ヶ月がたった今でも小笠原で美しいものといえば、やはり海が最初に思い浮かびます。小笠原の海は青が美しいことで有名で、みなさんも写真などで一度は見たことがあるのではないでしょうか。
その他にも小笠原には美しいものがたくさんありますが、今回は私が小笠原で見つけた美しい宝石を紹介したいと思います。
△兄島から見た小笠原の海
その宝石を見つけたのは柵の管理業務で兄島を訪れていたときのこと。
△アノール柵の補修作業中
兄島にはグリーンアノールの生息域拡大防止のためのグリーンアノール防除柵(通称:アノール柵)が設置されています。
小笠原では今年の4月に台風1号が通過しましたが、兄島のアノール柵も台風の被害があり、今回はその柵補修作業を行いました。
照りつける日差しの中、汗だくになりながら作業を進め、予定していた作業はお昼過ぎには終わらせることができました。
作業が終わった後は、帰りの船に乗るために海岸まで下山します。
その日の作業を振り返るように柵沿いを歩いて下山していたそのとき、宝石は飛んで来ました。
それがこちらです。
体長3cm弱で緑と黄色の輝きが美しい、小笠原固有種のツマベニタマムシです。
山の方から"ブーン"と音を立てながら飛んできて、私の近くに着地しました。
突然目の前に現れたツマベニタマムシを見たとき、私は思わず「おぉっ!」と声が出てしまいました。
実は私、根っからの昆虫好きで、こういうのを見るとつい興奮してしまいます。
エメラルドのように輝く深い緑の上に、蝶の鱗粉のような黄色い粉がちりばめられた翅は実に見事です。
今回は時間の都合もあり写真を撮ってすぐに下山してしまいましたが、仕事中でなければもうしばらく眺めていたいところでした。
ところで、このような美しい宝石を見ることができる兄島ですが、外来生物のグリーンアノールが今問題になっています。
グリーンアノールは全長が最大で15cmほどの肉食性のトカゲの仲間で、主に昆虫を食べて生活しています。そのためグリーンアノールが入り込んでしまった地域では次々と昆虫類が捕食され、生態系のバランスが崩れてしまいます。
△グリーンアノール
残念ながら、2013年に兄島の南部でグリーンアノールの侵入が確認されました。それ以来様々な対策を行ってきましたが、その対策の一つが今回補修を行ったアノール柵です。
この柵は兄島の東から西へ横断するように設置され、その長さは3kmにも及びます。現在この柵は兄島北部へと分布を広げつつあるグリーンアノールを抑制する重要な役割を担っています。
△兄島のアノール柵
それにしても、これほどのアノール柵を築くのはとても大変だったでしょう。
山肌に沿って設置された柵はまるで万里の長城のようです。
私は今回の兄島での勤務を通して、自然の美しさと人間が環境へ与える影響の大きさをあらためて実感しました。