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関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

ここでしか見られない景色を見に!大島の小学校の野外学習 (伊豆諸島地域)

2023年11月07日
伊豆諸島 小野可蓮
こんにちは。
鳥と花が好きな小野可蓮です。
秋と言えば?
芸術の秋、読書の秋、運動の秋、食欲の秋、、、
わたしは欲張りなので全部と言いたいところです(笑)
みなさんはどんな秋をお過ごしになられていますか?
 
秋と言えば遠足!
今年も10月、大島南部にある「つつじ小学校」の校外学習に同行させていただきました!(昨年度の様子
地域の子ども達と一緒に自然について考えられる貴重な体験でした。
その時の様子をご紹介します。

まずは三原山へ

 
今回は普段あまり行かない所に行くという一味違ったコースでした。
行きは歩きやすい三原山遊歩道から登り、火口西展望所から三原山の火口を覗きました。
途中途中で三原山の成り立ちや、ハチジョウススキなどの先駆植物についてお話しをしました。
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△ 火口西展望所へ向かう道 ハチジョウススキがきらきらと輝く
秋の三原山では「先駆植物(パイオニア植物)」であるハチジョウススキが見頃を迎えます。
先駆植物とは、植物の生育にとって厳しい環境である裸地へ最初に侵入して定着する植物のことです。

大島の場合は噴火が起きた後、溶岩や火山灰に覆われた何もない状態の裸地で、ハチジョウイタドリやハチジョウススキが順番に生えていきます。
どちらの種も、種は風で遠くまで飛ばせるよう、軽くて羽根のような形をしています。
地面に根付いた後は、深い根や広い地下茎で風に飛ばされないようにしています。
一つの植物が風を活かす方法と風に耐える対策の両方を備えているのはおもしろいですね。

植物が生え始めることで「砂漠」は少しずつ「草原」へと変化していきます。
このように裸地が森林に変わっていくことを「植生の遷移」と言います。

 
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△ 火口の中を眺める子ども達
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△ 目前に広がるカルデラ 山頂からも伊豆半島や富士山が見える
三原山は、1700年ほど前の噴火後にできた山頂カルデラの中に、250年ほど前の安永の大噴火の際にできた小さな火山です。
そのような火山は「中央火口丘」と呼ばれています。
安永の大噴火ではカルデラの外にも溶岩が溢れ、大島の東海岸まで到達しました。
北東部にある動物園の中では、その溶岩流の一部が動物の展示に活かされています。
 
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△ アシタバの花(真ん中下)
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△ センブリの花 絶滅危惧Ⅱ類(VU)(伊豆諸島地域)
途中途中で季節の植物に遭遇します。
身近な植物のアシタバですが、花を見るのは初めてという子も!
他には胃腸に効くとされる、センブリも見られました。
例年であれば、ハチジョウアキノキリンソウもこの時期に見られますが、今回は見つけられませんでした。
 

そして裏砂漠へ

次の目的地である「西の谷」に到着。
初めて見る光景におおはしゃぎな子ども達でした。
穴に手を入れると、、、熱い!
地下の溶岩に温められた雨水が蒸気として出ています。
 
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△ 西の谷到着
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△ 穴の中に手を入れると「地球の息」が感じられる
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剥き出しの地層からは、噴火の際に積もっていった大島の歴史の一部を辿ることができます。
ここでは安永の大噴火の火砕流の跡も見られるそうです。
西の谷の正式名はないようで、三原山と裏砂漠の間にありますが、迷いやすい+崩れやすいエリアなので、行かれる場合はガイドを付けることをおすすめします!
 
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△ 剥き出しになった地層 大島はいつまで見られるか分からない景色だらけ
周辺の地層は崩れやすく、雨風に浸食され続けていることに加え、噴火も近付いていると言われているので、この景色もいつまで見られるか分かりません。
5年後、10年後はどう変わっていくのか分からないため、次はどんな景色に変わっていくのか想像するとわくわくします。
そして今しか見られないかもしれない貴重な景色と意識するだけで、見る目も変わってくるのではないでしょうか。
 
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△ 色んな色に反射する溶岩にも興味津々
最後は裏砂漠を抜けていきます。
大島は特に冬の間にかけて強い西風が吹くことが多く、そのため噴火の際に噴出した溶岩や火山灰が風に乗って、噴火口の南西に運ばれます。
1986年の噴火の時にスコリアが降り積もり、今の景色になりました。
噴火までは火山灰に覆われていたようです。
裏砂漠は何もないように見えるかもしれませんが、実は希少な植物が生えていたり、動物がわざわざ冬を過ごしに来たりしています。
大島の場合は、裸地から森林へと遷移する手つかずの自然をそのままにしておくことこそが、多様性を生み豊かな環境を作っています。
 
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△ 裏砂漠の様子
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最後に、子ども達には、自然を守るとはどういうことか、なぜ自然を守りたいのか、大島の自然を守るためにできることは何か、などを一緒に考えてもらいました。
 
自然を守ることとは:
(大島の場合)豊かな自然をそのままにしておくこと
裸地が森林になるのを見守ること
植生の遷移の途中の草原なども大事にすること 
 
なぜ自然を守るのか:
わたしたちの生活は自然の上に成り立っている
きれいな空気・水・食料があることは決して当たり前ではない
災害から守ってくれる
→ 自然を守ることで私たちの健康・安全・幸せも守られる
 
大島の自然を守るためには:
ごみを捨てない
外来種を入れない
生き物(在来種)をむやみやたらに採らない・捕まえない
知らないことは調べる
周りの人と大島の自然の貴重さについて話し合う
 
 
様々な環境が様々な場所にあることが、生き物の多様性を守ることに繋がります。
そのような豊かな環境は、わたしたちの生活も豊かにしてくれます。
「生態系サービス」という、自然からの恩恵を日々受けることで、人の活動も成り立っているのです。
わたしたちの未来を守るためにも、自然を大事にする必要があります。
 
大島の場合、活火山であることもあり、常に環境が変化しています。
植生の遷移が見られることや、噴火の度に景色が変わることは、どこでも体験できるものではありません。
自然の影響が大きい分、大変な時もありますが、豊かだなと感じられることも沢山あります。
 
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個人的には大島に来てから植物を見る機会が増え、いかにわたしたちの暮らしが植物に支えられているか考えることも増えました。
大島は新しい火山で、まだ噴火活動も活発ですが、噴火後の裸地に先駆植物が生えることで、土ができ、森が育ち、わたしたちを含めた生き物が暮らせる環境になっています。
そんな「当たり前」が「当たり前でない」と気付いた時、自分の中の豊かさが確実に増した気がしました。
 
 
伊豆諸島では本土のような紅葉はありませんが、島でも四季はたっぷり感じられます。
これからも、変わりゆくであろう大島の自然を、地域の方々と共に見守っていきたいです。

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