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関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

トキは何を食べているの?

2024年03月06日
佐渡 右田京子
皆さん、こんにちは。
佐渡自然保護官事務所の右田です。

寒暖差が激しい今日この頃ですが、佐渡にも少しずつ春が来ているようで、トキの繁殖行動が見られるようになってきました。
仲良く田んぼで採餌するペアも見られています。
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▲田んぼで餌を食べるトキのペア

トキの胃から出てきたもの

少し前ですがトキの餌について驚くことがあったので、今回はその餌の話題です。
 
昨年末、残念なことに野生のトキの遺体が見つかり、獣医師による解剖が行われました。解剖では、死亡の原因を探るとともに、病気や怪我、健康状態など様々な情報を得るため、体の外側から内側、臓器の一つ一つまで丁寧に診ていきます。
そして、今回死亡した個体から摘出された胃は、驚くほどたっぷり中身が詰まっていて丸々としていました。通常、食べたものの大半が消化されていることがほとんどですが、今回は採餌直後に天敵に襲われた可能性が考えられました。
 
トキがどんなものを食べているのか専門員と一緒に胃の内容物について調べてみました。丁寧にバットに移して洗浄し分類すると、2~3cmほどの細長い幼虫が次から次に出てくるではありませんか。並べてみると、ほとんどがガガンボの幼虫、その数なんと265匹!
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▲胃の内容物(赤枠内:ガガンボの幼虫)
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▲胃の内容物の拡大写真
ガガンボは双翅目ガガンボ科の昆虫で年に2回発生します。水田などの水中や畦畔などの湿地に卵を産み、幼虫は通年を通して水のある「江」と呼ばれる水辺や、土の中の特に柔らかい表層の部分で生活しています。(新潟大学調査結果より)
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▲田んぼの畔で交尾するガガンボ(昨年の春撮影)
トキにとってガガンボの幼虫は重要な栄養源になっているようです。

ガガンボを探せ!

実際に、どんなところにガガンボの幼虫がいるのか田んぼに探しに行ってみました。

田んぼの所有者の方に許可をいただき、以下の場所で調査を行いました。
【調査地点】
・田んぼに残っている稲株の中・間・根っこ周辺
・田んぼの中の水たまりの泥
・田んぼに敷かれた藁の中
・田んぼの脇に作られた江といわれる水辺の中
・水路に堆積した泥の中
(畦は崩れると困るので除外しました) 
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▲トキの足跡が残る田んぼ
【調査方法】
・稲株の間や稲藁の中、水中などは目視確認
・泥は網に入れ水の中で洗って確認
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調査した泥など
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泥を洗う様子
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見つかった生き物(アブの幼虫・イトミミズ・ヤゴ・ミズムシ)
寒空の下かなり頑張ったのですが、今回ガガンボの幼虫は一匹も見つけることができませんでした。
あんなに沢山食べていたので、すぐに見つかるだろうと思ったのが甘かったようです。田んぼの中で作業をしている間に、どこか別の場所に逃げ込んでしまったのかもしれません。

トキはどうやって餌を探しているのかというと、くちばしの先に神経が集中していて、くちばしの感覚で餌を探すことができると言われています。泥の中など目視で確認できないような場所でも餌を見つけることができる能力を備えているんですね。
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▲トキの骨格標本
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▲先端はスポンジのような無数の穴が開いている

生きものを育む佐渡の里地

今回死亡したトキは、ガガンボの幼虫ばかりを食べていましたが、過去の調査では、トキは100種類以上の生き物を食べていることがわかっています。健康な体の維持はもちろん、寒い冬を乗り切り、繁殖してしっかり子育てをするためには、たくさんの量、たくさんの種類の餌が必要です。
 
佐渡では、「トキが安心して餌をとれるように」という農家の方々の思いから始まった「生き物を育む農法」という生態系を守り生物多様性を維持するための取り組みを進めています。
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▲パクッとザリガニを捕まえたトキ
佐渡の豊かな里地にはガガンボの幼虫もたくさんいるはず!また今度リベンジして探したいと思います。

それにしても、今回はトキの餌を見つける能力の高さを痛感しました。
トキってすごい!!