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関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

ハハジマメグロの殺鼠剤プラセボ喫食試験

2024年05月13日
母島 太田隼人
現在母島自然保護官事務所では、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定されているオガサワラカワラヒワ(以下、オガヒワ)を保全するため、オガヒワの繁殖地である母島属島での殺鼠剤を用いたネズミ駆除事業を行っています。このネズミ駆除に関連して、非標的種であるハハジマメグロが殺鼠剤を誤って食べてしまうことがないかどうかの試験を行いました。
 
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オガサワラカワラヒワ
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ハハジマメグロ
オガヒワについてはすでに飼育個体を用いて試験が行われ、殺鼠剤プラセボ粒剤を食べてしまうことが確認されているため、殺鼠剤散布時には喫食のリスクを防ぐための対策がされています。オガヒワと同じく希少種に指定されているハハジマメグロについてはは、殺鼠剤を誤って食べる習性があるのかどうか、まだデータがないことから、今回の試験を実施することになりました。
 
試験内容は単純明快でハハジマメグロが来そうな場所に餌台を設置し、殺鼠剤のプラセボ粒剤(有効成分無添加で毒性がないもの)を置き、行動をセンサーカメラで記録するというものです。
 
とはいうものの、実際やってみると最初はネズミしか来ず、こんなゲストも。
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チョウゲンボウ
これではハハジマメグロも怖がってしまい試験どころではないですね。
その後は、ネズミを避けるため日没前に餌を回収するようスケジュールを変更したり、餌台の場所を変えたり、誘引用のパパイヤを置いたりして鳥たちの誘引には成功しましたが、お目当てのハハジマメグロはなかなか来てくれません。
でもパパイヤのおかげで餌台はずいぶんと賑やかになりました。
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オガサワラヒヨドリとメジロ
そして試験17日目、ついにハハジマメグロが餌台でパパイヤを食べました。
それまでにも何回か餌台を覗きに来ていましたが、他の鳥(メジロ、ヒヨドリ)と違い、なかなか口を使わず警戒心の強い様子が感じられました。
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誘引用のパパイヤを喫食するハハジマメグロ
その後10日ほど、プラセボ粒剤と誘引用パパイヤの比率を変えたりして試験を続けましたが、ハハジマメグロがプラセボ粒剤を口にすることはありませんでした。
 
今回の試験期間・条件においてはハハジマメグロが殺鼠剤プラセボを口にする様子は見られず一安心でした。今回の試験結果だけでは、ハハジマメグロが確実に殺鼠剤を食べない、とまでは言い切れませんが、殺鼠剤など毒性のある駆除剤を用いての外来種対策は非標的種、特に固有の在来種への影響を最小限にとどめなければならず、環境への人為的な介入が及ぼす影響について考えさせられました。このことを心に留めながら今後もARとしてこの島での活動を続けていきたいと思います。