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関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

母島のシマツレサギソウ

2025年02月13日
母島 太田隼人
小笠原固有種のシマツレサギソウは父島・母島列島に分布するラン科植物で、「種の保存法」に基づく国内希少野生動植物種に指定されています。
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シマツレサギソウ
「種の保存法」とは「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」の略称で、国内外の絶滅のおそれのある野生生物の種を保存するため平成5年4月に施行され、稀少な野生生物を保全するために必要な措置を定めています。
また、シマツレサギソウは、環境省レッドリスト絶滅危惧 IB 類(EN)(環境省、2020)、東京都島しょ部レッドデータブック絶滅危惧 IB 類(EN)(東京都、2014)にも選定されています。
 
母島のシマツレサギソウは、父島のシマツレサギソウと比べて個体数・生育地ともに減少している可能性があります。過去の調査では個体の多くで葉や茎に齧られた痕が確認されており、その切り口の形状から「ネズミ類による食害」の影響であることが疑われています。
環境省母島自然保護官事務所では、過去にシマツレサギソウの食害が確認された地点において、保護措置として、殺鼠剤によるネズミ駆除を目的としたベイトステーションの設置を行っています。
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食べつくされた殺鼠剤(ベイトステーション内)
現在のネズミ食害対策は、シマツレサギソウが芽を出して散るまでの初冬から早春に行っています。私は昨年度(食害が確認された翌年)からこのネズミ対策に携わってきましたが、昨年は食害もなく順調に生育していました。しかし残念ながら花は咲きませんでした。今年度はさらに葉も大きく、より力強く成長する姿を見せてくれていました。まだ開花できるほどの発達は見られませんが、その日に向けて徐々に力を蓄えているように見えました。
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シマツレサギソウの芽
しかし先月の点検時、以前のようなシマツレサギソウの元気な姿はなく、付近には無残に食いちぎられた葉が落ちているだけでした。
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食いちぎられたシマツレサギソウ
葉の切り口や殺鼠剤の消費量、周囲の状況(ベイトステーションにつけていたテープもかみ切られていた)などから今回もネズミ食害であることはほぼ間違いないでしょう。さらなる対策として、ネズミから保護するためにシマツレサギソウのまわりに網をかけることを予定しています。
今回の件で稀少植物に限らず小笠原の多くの固有の生物にとって大きな脅威となっているネズミの対策がとても難しいことを身に染みて感じました。
 
前回の食害から徐々に回復し、開花に向けて力を蓄えていたところで今回また後退してしまいましたが、きっと来年も再び芽を出してくれることでしょう。その芽が元気に育つよう、引き続きサポートしていかなければなりません。
何度苦難にあっても再び立ち上がる、その強い生命力は見るものに勇気を与えてくれます。私も人生の教訓として将来へ向けて努力していきたいと思います。いつか美しく咲く日を願って。
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シマツレサギソウの群生(父島列島)