アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
伊豆半島で出会える秋の昆虫たち -トンボ科編 ①-
2021年09月30日みなさん、こんにちは。足早に進んでいく季節の移ろいに消化器系がまったく追いつかない齋田です。
急激な気温の低下による体調不良というわけではなく、目まぐるしく変化する旬の食べものを最も美味しいタイミングでお腹いっぱい味わっておかないと、といった具合なので至って元気です。
さて、前回の日記に引き続き、晩夏に見られる生き物をご紹介しようと考えていたのですが、撮影日和を待つうちに伊豆半島の長い夏は終わりを迎えたようで、夕暮れ時には秋の声が静かに響き始めました。
今回からは、不要不急の外出を自粛している生き物好きのみなさんのために、巡視(国立公園を構成する施設の点検や利用状況の把握等を行う業務)の際に見かけた"秋の"昆虫たちをタイムリーにご紹介します。
まずはこちら、げじげじ眉毛やちょび髭のように見える黒班が特徴的な「マユタテアカネ」です。
【マユタテアカネ】
そのビジュアルに親近感を覚えざるを得ないマユタテアカネ。撮影時にはアキアカネやミヤマアカネが周囲を飛び回っていましたが、吸い寄せられるようにマユタテアカネだけにカメラを向けていました。
下田管理官事務所が管轄する伊豆半島地域でこそ普通種ですが、他のアカネ属と同様に湿地環境の悪化に極端に弱く、富士箱根伊豆国立公園の箱根地域(神奈川県)ではレッドリストの指定を受けるほど個体密度が低下しています。
そのため、最近ではマユタテアカネやアキアカネ等の止水性種の生息環境を保全するための試みが全国的に広がりを見せており、一部の地域ではそれらの個体数がやや回復傾向にあるようです。
ちなみに、「富士山がある風景100選」に選定された伊豆半島地域の「石部棚田」も例に漏れず、水田を利用する生物の保全に力を入れています。とても興味深い取り組みですが、それらの事例についてはまた別の機会にゆっくりとご説明できればと思います。
伊豆半島では、水田や湿地、池沼等を中心に11月下旬頃まで観察することができます。
続いて、なんだか白いごはんが食べたくなる名前の「シオカラトンボ」です。
【シオカラトンボ】
雄は成熟すると腹部に厚く白粉を吹くことからその名が付いたシオカラトンボ。トンボといえば真っ先に本種が連想されるほど、みなさんにとって馴染みの深いトンボではないでしょうか。
さて、「夏によく見るけれど、秋の昆虫として紹介するの?」と疑問を感じた方も多いと思います。しかし、名前の由来となった青白く成熟した個体が最も多く観察できるのはこの季節なのです。意外に思われるかもしれませんが、未成熟の雄の体色は雌と同じく黄褐色です(希に成熟した雄のような体色をもつ雄型雌も見られます。そのような個体では副性器の有無や尾部付属器の形態等による雌雄の判別が可能です)。
ちなみに、よく似た種類にコフキトンボやオオシオカラトンボ、シオヤトンボ等がいます。私は静止した状態でないと同定(生き物の種類を特定すること)ができませんが、陸上昆虫類等の調査に従事されているトンボ屋さんの多くは、周囲の環境や飛び方、草木へのとまりかた等の特徴から遠目でもある程度の判断が付くとのことです。
伊豆半島では、河川のワンドや池沼等の止水域を中心に12月中旬頃まで観察することができます。
今回は、秋の季節に富士箱根伊豆国立公園伊豆半島地域にて観察できるトンボ科の昆虫のうち、最も普通に見られる「マユタテアカネ」と「シオカラトンボ」についてご紹介しました。
この日記を通じて伊豆半島の秋や生き物たちの魅力を感じて頂ければうれしく思います。
次回も伊豆半島で出会った昆虫たちを紹介します!塩辛にはごはん派の方も日本酒派の方もお楽しみに!