アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
ヤドリギの生存戦略とそれに乗るヒレンジャクの素敵な共生関係ヒレンジャクとヤドリギの関係
2024年02月22日
富士五湖
こんにちは。富士五湖管理官事務所の半田です。
山中湖では12月から2月に掛けて山中湖村内でポイントを移動させながら、ダイヤモンド富士を見ることができます。特に湖畔から撮影できる1月下旬から2月にかけては、三脚を抱えた多くのカメラマンを見掛けます。
山中湖では12月から2月に掛けて山中湖村内でポイントを移動させながら、ダイヤモンド富士を見ることができます。特に湖畔から撮影できる1月下旬から2月にかけては、三脚を抱えた多くのカメラマンを見掛けます。
ところが、全員レンズを富士山に向けているのかと思いきや、大口径のレンズを富士山とは全く違う街路樹や湖畔の樹木の枝の方に向けている人が何人かいます。彼らは何を撮ろうとしているのでしょう?
彼らが見つめている目線の先を見てみると、街路樹に緑の玉のような塊が幾つも着いています。ヤドリギです。ヤドリギ(宿り木)は文字通り、自分では地面に根を張らず、他の樹木の枝の上に生育する寄生植物です。そしてよーく目をこらして見ると…。
いました!ヒレンジャクです。丸々とした愛らしい体型にシュッとした冠羽がかっこいい、ハンサムな渡り鳥です。尾羽や羽の先端部が赤いのがヒレンジャク(緋連雀)。赤ではなく黄色いのがキレンジャク(黄連雀)ですが、キレンジャクは富士北麓では珍しく、私はまだ出逢ったことがありません。
ヒレンジャク(緋連雀)
渡り鳥であるヒレンジャクは夏の繁殖期はシベリア東部、アムール川周辺で過ごし、日本や朝鮮半島、中国南部には冬鳥として訪れます。ただ飛来は不規則で、全く飛来しない年もあれば、通過して数日で通り過ぎてしまう年もあれば、かなり長い期間同じ場所にとどまって過してくれる年もあります。彼らは数十羽の群れで行動し、富士北麓には御坂山地を越えて北口本宮富士浅間神社の辺りを通りながら、山中湖周辺に1月下旬から2月中旬頃にやって来ます。
夏には虫などを主に食べますが、冬の間、彼らの胃袋を鷲づかみしているのは、そう、冒頭に紹介したヤドリギの実です。
夏には虫などを主に食べますが、冬の間、彼らの胃袋を鷲づかみしているのは、そう、冒頭に紹介したヤドリギの実です。
ヤドリギの生存戦略
ヤドリギは冬に黄色い実をたくさん付けます。その実はフルーティですが、ねっとりと粘着質でその果肉に種子が包まれています。ヤドリギは寄生植物で、他の樹木の幹や枝に根を食い込ませて成長しますが、一方的に水や養分を奪っているわけではなく自らも葉緑素を持ち光合成をおこなっています。だから、陽当たりの良い樹冠で良く育ちます。
でも、ヤドリギは樹木の枝などの高い所に寄生する植物。風で種子が運ばれるという移動方法では陽当たりの良い樹冠にはそうそう辿り着けません。そこでヤドリギが取った生存戦略は、鳥に実を食べさせ、飛んで行った先の木の上でウンチをしてもらい、ねっとりしたウンチが樹木の枝や幹に付着することでウンチの中のヤドリギの種が発芽し、生息域を拡大していくという方法です。
そして、この戦略に見事はまっているのがヒレンジャク。ヒヨドリも時々ヤドリギの実を食べることはありますが、ヒヨドリは他にも色々な実を食べるので、ヤドリギにとってはあまり効率の良いパートナーとは言えません。それに比べヒレンジャクはとにかくヤドリギが大好物。
でも食べるとねっとりと粘着質なので、水を飲みます。そして高い木の上で自然の営み。ヒレンジャクの出すウンチはヤドリギの粘着質な成分のため糸を引いてねっとりしており、途中の枝や幹に引っ掛かり、そこに留まります。こうしてヤドリギは水辺の近くの陽当たりの良い木の上を陣取ることができるのです。恐るべしヤドリギの生存戦略!
でも食べるとねっとりと粘着質なので、水を飲みます。そして高い木の上で自然の営み。ヒレンジャクの出すウンチはヤドリギの粘着質な成分のため糸を引いてねっとりしており、途中の枝や幹に引っ掛かり、そこに留まります。こうしてヤドリギは水辺の近くの陽当たりの良い木の上を陣取ることができるのです。恐るべしヤドリギの生存戦略!
ヒレンジャクとヤドリギの共生関係
こうやって見ると、ヒレンジャクはヤドリギにいいように操られているように思うかも知れませんが、ヤドリギは結果的にヒレンジャクの渡りのルート沿いに点々と群生を作ることになります。食べ物が少ない冬に渡りをするヒレンジャクにとって、他の鳥にあまり食べられない食糧がルート沿いに確保されているということは彼らにとっても大きなメリットになっているのです。両者にとって相思相愛の素敵な共生関係なのです。
今年は暖冬で渡りをする必要が無いのか、残念ながら私はヒレンジャクと出逢うことはできませんでした。でも誰よりも彼らの飛来を心待ちにしているのは、ヤドリギなのかも知れません。来年、またヒレンジャクの元気な姿が見られるのを楽しみにしたいと思います。
今年は暖冬で渡りをする必要が無いのか、残念ながら私はヒレンジャクと出逢うことはできませんでした。でも誰よりも彼らの飛来を心待ちにしているのは、ヤドリギなのかも知れません。来年、またヒレンジャクの元気な姿が見られるのを楽しみにしたいと思います。
富士五湖は渡り鳥たちにとっての聖域
水鳥なども含め、北の大陸から渡りをして来る渡り鳥たちにとって、富士五湖は羽を休める寝床と水と食糧を提供してくれるとても大切な場所です。特に今回紹介した山中湖や本栖湖は渡り鳥たちの貴重な越冬環境を提供するエリア(集団渡来地)として山梨県指定の鳥獣保護区特別保護地区になっています。
渡りをしてやって来る鳥たちの立場からみたら、私たちはホスト役。彼らに気持ち良くこの地で過ごしてもらい、元気に北の大地に帰って行ってもらう、その「おもてなし」のためにも湖周辺の自然環境を大切に守っていきたいものですね。
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