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関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

トキ放鳥の挑戦 ~ その② 仮設ケージからの放鳥 ~

2025年01月09日
佐渡 右田京子
みなさん、こんにちは。
佐渡自然保護官事務所の右田です。

前回の日記に引き続き、今回は、2024年に実施した、第31回トキ放鳥「仮設ケージからのソフトリリース方式による放鳥」について詳しくお伝えします。
仮設ケージからのソフトリリース方式は、通常の順化訓練を2ヵ月半ほど行い、飛翔能力や採餌能力が十分に備わったトキを放鳥地に設置した仮設ケージに移します。この仮設ケージでさらに2週間ほど順化訓練をすることで、放鳥地の環境になれ、放鳥後も放鳥地の周辺に留まることが期待される方法です。
2009年の第2回放鳥でも実施し、効果を確認しています。今回は、15年ぶり2度目の試みでした。
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▲棚田に設置した仮設ケージ
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▲仮設ケージ前での稲刈り

仮設ケージの仲間たち

仮設ケージには7羽のトキを移しました。その中で注目の2羽をご紹介します。
▲保護された時のNo.541
No.541は、実は一度放鳥を経験しているトキです。
第12回トキ放鳥で、No.214として放鳥されました。
ところが、放鳥から4年後に衰弱したところを保護しました。原因は嘴の欠損により餌が食べられなくなったことでした。すぐに獣医による処置を行い、飼育下で元気を取り戻しました。
▲保護された時のNo.E21
No.E21は、野外生まれのトキです。
昨年、餌が上手に採れず、餌を求めて民家に迷い込んでしまい、衰弱していたところを保護しました。
巣立ち後間もない幼鳥でした。その後、飼育下で他の幼鳥と一緒に大きくなりました。
2羽とも野外生活、再チャレンジのトキです!

仮設ケージ 

仮設ケージは2週間だけとはいえ、大切なトキが過ごす施設です。厳重な設備や体制を整えました。
トキが快適に過ごすための止り木や給餌池の設置はもちろんのこと、怪我防止のために、ケージ内側には衝突防止ネットを張り巡らし、放鳥口の柱には緩衝材を巻きました。
天敵対策としては、ケージ周囲に「電気柵」と「波板」を設置しました。さらに外側の柱には天敵がよじ登らないように通称「テン返し」を設置しました。また、地域の方から「漁網」を周囲に置いておくとテンは嫌がって近づかないと教えていただいたので、「漁網」を周囲に敷きしました。
監視体制としては、ケージ内の様子を遠隔地から確認することができるカメラ1台、ケージ周辺を撮影するトレイルカメラ4台を設置しました。もちろん日中は職員が現地に向かい、トキにストレスを与えない距離を保って随時観察しました。
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▲衝突防止ネットと緩衝材
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▲天敵対策
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▲トレイルカメラ
9月5日から2週間、万全の体制で、トキの仮設ケージでの順化訓練を開始しました。

トキへの給餌や確認作業

仮設ケージでトキを飼育する2週間は、トキの飼育を担当している新潟県職員の方々だけでなく、佐渡自然保護官事務所の職員もトキの給餌を行いました。
トキのために、毎日片道1時間以上かけて仮設ケージまで新鮮なドジョウを運びました。現地では、最新の注意を払いながら、トキの状態確認、給餌、設備やカメラのチェックなどの作業を行いました。トキはもともと臆病な性格である上に、狭いケージ内での作業となるため、トキに影響がないよう、低い姿勢でソロリソロリと作業をしました。
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▲仮設ケージに向かう職員
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▲給餌用ドジョウ
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▲止り木で作業を見守るトキ
想定外の事件もありました。
給餌用の池の水位調整が上手くいかなかったことや、ドジョウの活きが良かったことから、ドジョウが池から飛び出してしまいました。中にはケージの外まで脱走する強者が現れる事態となってしまいました。脱走ドジョウを放置しておくと、天敵を誘引しかねないため、脱走ドジョウは全て拾い集めました。

そして、もう一つの大事件。
電気柵は正常に稼働していたのでトキの飼育に問題はありませんでしたが、電気柵のアース線が切られていたのです。切断面には謎の噛み跡が。まさかトキをねらって、天敵のテンが来ているのでは?と戦慄が走りました。 
夜間に撮影されたトレイルカメラの画像を確認すると、そこに映し出されたのは?!
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▲カメラに写り込む犯人A
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▲アース線を引っ張る犯行映像
​犯人は、2匹のタヌキでした。アース線の噛み心地がよかったのか、何度もひっぱったり、噛んだりしていました。アース線の断線は、発見後すぐに直し、漁網で覆って噛めないように処置しました。
その後も、夜な夜な何度も2匹のタヌキは現れましたが、トキはというと、驚いたりパニック飛翔したりすることもなく、里山の住人として受け入れているようでした。
こうして、仮設ケージでの短いようで長い2週間の順化訓練は忙しく終わりました。

仮設ケージからの放鳥の様子

待ちに待った仮設ケージからの放鳥は、9月23日のハードリリース方式での放鳥後に行いました。
地域の代表2名に仮設ケージの放鳥口を開けていただき、放鳥口からトキが出て行くのを待ちます。1日目は2羽、2日目は5羽が旅立ち、放鳥口を開けてから2日で無事に放鳥が終了しました。
仮設ケージで周りの環境に十分慣れたおかげか、7羽のうち2羽がそれぞれのタイミングで歩いてゆっくり放鳥口から出るという珍しい光景も見られました。
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▲放鳥口から飛び立つトキ
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▲放鳥口歩いて出たトキ
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▲仮設ケージから出て外の世界を伺うトキ

放鳥トキのその後の様子 

放鳥後も放鳥場所に留まっている放鳥トキが見られています。注目トキとして紹介したNo.541とE21も、元気に2度目の野外生活を頑張っているようです。
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▲木にとまるNo.541 
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▲草地で探餌するNo.E21
また、第30回トキ放鳥で放鳥したトキと第31回トキ放鳥で放鳥したトキ、そして野生生まれのトキが合流し、群れを形成して、餌を採ったり、木で休憩したりと、仲良く過ごしている姿も確認しました。
とても気が早いですが、この群れからペアが誕生し、ヒナが巣立てばいいなと、期待せずにはいられません!
2025年も、皆さんにとって、そしてトキにとって、良い一年になりますように。
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▲仲良く過ごす放鳥トキと野生生まれのトキ