ACTIVE RANGER

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

関東地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

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佐渡

141件の記事があります。

2018年10月10日トキからのおくりもの

佐渡 原奈緒子

みなさんこんにちは、佐渡自然保護官事務所の原です。

佐渡では稲刈りが終盤をむかえて、刈田が目立つようになりました。秋ならではの茶色い風景ばかりかと思えば、畑には橙色に色づいてきたおけさ柿が収穫の季節真っ盛りです。

▲柿畑で採餌するトキ(2018/9/28撮影)

佐渡にいればどの季節でもトキを見ることはできますが、一年の内で最も美しい「とき色」を見るなら今がベストです。なぜなら、「とき色」の成分であるカロテノイドは紫外線によって分解されてしまうため、夏から秋にかけて行う換羽が終わったばかりの今が最も鮮やかな色をしているからです。冬になり、繁殖期に入ると2歳以上の個体は首から分泌される物質をこすりつける世界でもトキしか行わない方法で羽色変化を行い繁殖モードにはいります。つまり真っさらなとき色を見ることができる期間は9月末から12月中頃までの3ヶ月程度ということになります。

▲繁殖羽のトキ(2017/02/08 撮影)

▲換羽後のトキ(2017/11/01撮影)

トキといえばどちらの方がイメージしやすいでしょうか。

私は繁殖期の方がより長い時間観察をしていることもあってか、繁殖羽のトキがしっくりきます。繁殖羽は営巣する林の中でカモフラージュの役目もあるようで、刈田にいても背景と同化して見逃しそうになることがあります。一方で今年生まれの幼鳥は冬になっても繁殖羽にはならず、とき色が成鳥に比べると薄いため群れで飛翔していても見分けることができます。

さて、前置きが長くなりましたが、今回はトキからのおくりものについてです。

それはこちら

▲トキの羽

運がよければ田んぼのあぜや道路際に落ちている事があります。休日に神社の参道で羽毛が落ちているのを見つけたこともありました。羽毛はほとんど白色をしていますが、よく見ると羽軸がとき色になっています。トキの羽をみつけたら持ち帰ることは構いません。水道水などで洗って、日陰で乾かして保管しましょう。ただし、トキは希少野生動植物種として「種の保存法」で守られているため他の人に売ることや、タダでもあげる事は法律で禁止されています。おくりものは大切に持っていましょう。

◇環境省ホームページ「希少な野生動植物種の保全について」

https://www.env.go.jp/nature/kisho/index.html

◇放鳥トキ情報 野生下のトキに関する最新情報を毎週更新中!

http://blog.goo.ne.jp/tokimaster

◇公式ツイッター 「佐渡の車窓から」好評連載中!

https://twitter.com/kankyoshosado01?s=09

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2018年09月28日よく見かけるけど、実は「貴重な」生きもの

佐渡 近藤陽子

皆様、こんにちは。

佐渡自然保護官事務所の近藤です。


▲佐渡市畑野の田んぼと夕日

新潟県佐渡市は、雨が降る日が多くなり、肌寒くなりました。

虫の音色が秋の深まりを感じさせます。

 現在、佐渡島の自然界には約350羽のトキが生息しています。何羽ものトキが刈田に下りて採餌している光景も、もう珍しいものではなくなってきました。「トキが増えた」ことは、単にトキの羽数が増えただけでなく、「トキを取り巻く自然環境が豊かになった」とも言えます。


▲佐渡市佐和田地区の刈田で採餌するトキ7羽

 私たちの事務所がある佐渡市新穂(にいぼ)は、トキの野生復帰事業の中心地でもあり、島内最大のトキのねぐらがある地域でもあります。今回は、そんな豊かな自然に囲まれた私たちの事務所周辺で、「よく見かけるけど、実は貴重な生きもの」2選をご紹介します。



1.サドカケス 

 佐渡のカケスは、本州の亜種カケス(学名:Garrulus glandarius japonicus)とは異なり、佐渡島にのみに生息している亜種サドカケス(学名:Garrulus glandarius tokugawae)とされています。サドカケスの方が頭部が白く、くちばしが太いと言われることもありますが、この2亜種の外見的な違いはほとんどありません。

  

 

▲事務所のマツにとまるサドカケス。翼に入る青が美しい。

 そんな佐渡の名を冠するサドカケス。事務所の敷地内でよく目にしますが、どうやら繁殖もしているようです。3月のある日、1羽のサドカケスが事務所へ続く道路沿いの地面から苔を剥いでいました。巣材を集めて、付近の林で営巣することにしたようです。

  

 
▲くちばしいっぱいに苔をくわえるサドカケス

 このあたりには、エサとなる昆虫もドングリもたくさんあります。結局、巣を見つけることはできませんでしたが、事務所で仕事をしていると、毎日鳴き声が聞こえてくるので(この文章を作成している現在も)、きっと子孫を残していることでしょう。いつか巣を見つけてヒナの成長を見守りたいものです。

  

 ちなみに、カケスは英語でJay(ジェイ)。「ジェッ!ジェッ!」という特徴的な鳴き声が、英名の由来になっています。



2.サドガエル

 こちらも佐渡の名を冠した佐渡島固有のカエルで、事務所周辺の田んぼやため池などで確認されています。

サドガエルの特徴は、「黄色い腹」と「鳴き声」。学名Glandirana susurraの「susurra」はラテン語で「ささやく」を意味し、実際にサドガエルの鳴き声は非常に小さく、耳を澄まさないと聞こえないほどです。サドガエルには、鳴嚢(めいのう)というカエルが鳴くときに膨らませている皮膚の膜が発達していないため、アマガエルのような「ケロケロ」と響く鳴き声は出さず、「ジー、ジー」という小さな機械音のような鳴き声を出します。


 

▲サドガエルの背面と黄色の腹面。

 田んぼのあぜを歩くと、ピョンピョンと飛び跳ねて出てくるので、容易に見つけることができます。そんなサドガエル、島内での生息範囲は限られており、数が減っていることが近年の研究で明らかになりました。2018年現在、近い将来絶滅の恐れがある「絶滅危惧IB類」に指定されています。

 


▲サドガエルを捕食するトキ

 サドカケスもサドガエルも、そしてトキも、里地里山の生きもの。人が手間暇かけて管理した水田や里の環境が彼らの命を支えています。現在は、トキが舞うほど自然豊かな佐渡ですが、かつて田んぼでは農薬による影響からか、死んだドジョウが浮いているのをよく目にした、と聞きます。そのような環境のままであったなら、トキだけでなく、トキのエサとなるドジョウまでも姿を消してしまっていたかもしれません。

 

 人間のそばにいる生きものたちは、自然の豊かさと私たち人間の生活の安全性を示す、実は貴重な存在なのかもしれません。守るに十分値するかと思います。

 あなたも身近にいる生きものに目を向けてみてはいかがでしょうか。彼らはきっと多くのことを教えてくれるでしょう。



【特別出演:佐渡の里地里山のみなさん】  


▲農道で、自分の体と同じくらいの長さのイモムシと戦うスズメ。(佐渡市羽茂村山)

巣にはお腹を空かせて待っているヒナでもいるのでしょうか。

何としてでもこのイモムシを持って帰りたいようです。

スズメは、人のいない環境では生息していない、私たちにはもっとも身近な野鳥の1つです。

▲親鳥にエサをねだるセグロセキレイの巣立ちヒナ。(佐渡市大和)

民家脇の電線にとまって、親鳥がエサを持って戻ってくるのを待っていました。

民家の横には、小川が流れ、田んぼや林もあり、子育てするには良い環境だったようです。

▲親鳥からエサをもらうツバメの巣立ちヒナ。(佐渡市沢根)

近年、減少していると考えられているツバメ。農耕地の衰退に伴うエサの減少、西洋風の家屋増加により巣 がかけにくくなったことなどが原因と考えられています。

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2018年09月26日ねぐら出一斉カウント

佐渡 原奈緒子

みなさんこんにちは、佐渡の原です。

すっかり秋めいて刈田や黄金色の絨毯の中に群れるトキを見かけるようになりました。

▲佐渡市畑野地区にて農道やあぜで採餌するトキ3羽

先日、トキが群れる季節恒例の「ねぐら出一斉カウント調査」を行いました。

ねぐら出一斉カウント調査とはその名の通り、複数あるトキのねぐら出にそれぞれ人を配置して、生息している羽数を一斉に数える調査です。

トキのモニタリングは環境省、新潟大学、地域のボランティアの方々が協力して放鳥が始まった2008年からほぼ毎日行われています。通常のモニタリングでも早朝のねぐら出数のカウント調査は行いますが、2015年からは1年に2回佐渡全島内のねぐら出羽数を同時にカウントし、個体数の把握に役立てています。今回の調査では合計19箇所から310羽のねぐら出を確認しました。

▲高台からトキのねぐら出を観察する様子

各ねぐらの近くには担当のスタッフやボランティアが配置されますが、全体の様子を把握するために、高台にも配置します。ねぐら出の無線連絡がはいると望遠鏡を使って羽数カウントの補助やねぐら出したトキがどちらの方向に飛んでいくのかを観察します。

▲佐渡市両津地区にてねぐら出するトキ1羽

トキは群れてねぐらをとる習性があり、多いときは1つの林から100羽以上もねぐら出をした記録があります。臆病な性格でもあり、林の外からは見えない場所にいることが多いですが、ねぐら出するタイミングはまず耳で確認できます。

林の中から「コッココッ」、「ココッ」と話声が聞こえてきます。トキはおしゃべりな鳥で状況によって様々な鳴き声を使い分けますが、この時の声は一緒に出るタイミングを相談している様に聞こえます。その後に「クワーッ、クワーッ」、「クワークワーッ」と猫とニワトリとカラスを混ぜ合わせたような声で鳴きながらねぐら出していきます。臆病なわりにはとっても目立つ行動をする所が面白い鳥だなと思います。

ねぐら出が終わるとえさ場に降りたトキを探して、足環の判読による個体識別を行います。

下の写真のように、高台からねぐら出するトキを追いかけて観察をしていると、トキが降下した田んぼを特定することはできますが、さすがに距離があるため、足環の判読はほとんどできません。

▲ねぐら出した後に近くの田んぼ(江)に降りた様子(赤矢印:トキ、黄色矢印:サギ)

田んぼの場所をモニタリングチームに無線連絡をして、近くにいる人が現場に向かいます。車の中から望遠鏡でのぞくとトキに足環が付いていることがわかります。

▲何色の足環がついているか見えますか?

▲さらにアップにして見てみましょう

モニタリングではトキの足環の一覧表になっている識別表を使って、個体を特定しています。写真の個体の左はピンク・赤・ピンクのNo.223、右は白・赤・白のNo.127とわかります。この足環の判読やねぐら出カウントによるデータの積み重ねにより、現在は353羽(佐渡島内351羽、本州2羽)の生息が確認されています。その内の257羽には足環が装着されています。すごいのは足環のある個体はどこにいるかほぼすべて追えているということです!! 10年前の2008年9月25日に佐渡で放鳥が始まりました。この10年でトキの数は順調に増えており、佐渡における生息場所も範囲を広げています。これからの10年はどんな年になっていくでしょうか。人とトキが共生してける社会の実現のお手伝いが少しでもできるように引き続きモニタリングを通して観察していきたいと思います。

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2018年08月30日親子でトキモニタリング体験!

佐渡 原奈緒子

みなさん、こんにちは。佐渡の原です。

残暑はまだまだ厳しいですが、早生の稲はすっかり黄金色になり、秋はもうすぐそこまで来ているようです。トキたちは稲が生い茂る田んぼよりもあぜや草地を多く利用しています。

▲羽茂地区にてあぜ・草地で採餌するトキ12羽 8/28撮影

今回は8月17日に開催した親子を対象にしたトキの観察会についてご紹介します。

トキの放鳥がこの秋で10周年をむかえることを記念し、夏休み特別企画として「親子でトキモニタリング体験」を行いました。今回は5組12名の小中学生の親子に参加頂きました。トキはとてもおくびょうな性格なため、「トキのみかた」という地域ルールがあり、トキの行動を妨げないように気をつけています。観察会ではこのルールにもなっているトキが逃げない距離感(150~200m)を体感してもらいながら双眼鏡や望遠鏡を使って野生下のトキの観察をしました。観察しながら、トキとサギの見分け方や幼鳥の特徴などモニタリングのポイントを伝授していきました。

▲望遠鏡をのぞいて水浴びするトキの様子を観察します

そしてトキの大切な餌場である田んぼ!

生きものに配慮した農法で米作りをしている佐渡の田んぼは生きものの宝庫です。


観察会ではトキのえさ場である田んぼの生きもの観察も行いました。

▲サドガエルもしくはツチガエルの卵塊を発見!

卵塊がある場所は避けるようにして、生きものを捕まえました。

▲捕まえた生きものを観察しやすいように仕分けます

はじめは網を使ってでしか虫に触れなかったけれど、次第に自分の手で捕まえられるようになる子もいました。参加者からは「こんなに沢山の野生のトキに会えて親子で大喜びでした。子どももとても興味を持っていました。」「トキや田んぼの生きものに興味をもてるようになりました。」「田んぼの生きもの初めてみました。」という声もあり、トキだけでなくトキが生息する佐渡の素晴らしい自然について親子で楽しんで学んでもらえました。

現在、佐渡島内には350羽のトキが生息しています。今の子どもたちにとってトキは普通に見られる鳥になりつつあります。しかし、ここに至るまでに長い歴史と多くの人の努力があったこと、島ぐるみで取り組まれているトキの野生復帰の取組みをこれからの未来を担う子供たちに感じてもらい、繋いでいってもらうきっかけになればと思います。

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2018年08月03日トキのえさって?

佐渡 原奈緒子

みなさん、こんにちは。佐渡の原です。

佐渡の野生下では今期60羽の幼鳥が新たに巣立ちました。

今では、親から離れて幼鳥だけで行動したり、30㎞近く離れた場所に飛来している様子が確認されています。

▲田んぼでエサを探す今年生まれのNo.B52およびB53

トキは動物食で野生下ではドジョウ、カエル、バッタ、サワガニ、ミミズなどの田んぼにいる生きものを好んで食べることが観察されています。

▲佐渡にしかいないサドガエルを食べるトキ

▲ドジョウを食べるトキ

トキが1日に必要なエネルギー(232kcal)をドジョウに換算すると、50匹程度になります。

1羽のトキが150匹のドジョウを食べているとすると、現在佐渡には約350羽のトキが生息しているので、なんと1日で、50(匹)×35017,500匹!!!のドジョウが必要との計算になります。

※野生下のトキは、上述のとおりドジョウだけでなくさまざまな動物を食べており、ここで紹介させて頂いた例はあくまでも全てドジョウに換算した場合の数です。

佐渡の田んぼは私たちにおいしいお米を供給してくれるだけでなく、たくさんの生きものの生活を支えている場所なのです。

では飼育下のトキはどのようなものを食べているのでしょうか。

野生下のトキのように生きたドジョウもあげます。

しかし、それだけでは栄養に偏りがでるため、トキのために考えられた馬肉飼料をあげています。佐渡トキ保護センターの馬肉飼料作りをご紹介させていただきます。

▲馬の肉を使ったトキ専用の特別なエサ(馬肉飼料)

栄養バランスのとれた馬肉飼料は月に12回飼育員さんたちが手作りします。原材料は馬肉、にんじん、たまご、魚粉やトウモロコシなどを合わせたトキ専用の粉末飼料です。にんじんはヘタをとり、ゆでてつぶします。たまごは鳥インフルエンザの懸念から生卵ではなくゆで卵にしたものを購入し、殻ごとつぶします。

▲馬肉を入れる前の材料

材料を混ぜたものをミンチ機にかけて、粗挽きのひき肉になったら完成です。

▲馬肉を混ぜてミンチにする様子

飼育下では1日にドジョウ50(40kcal)、ペレット30g(122kcal)とこの馬肉飼料50(90kcal)を与えています(ペレットとは魚粉を主にした乾燥飼料です)。

今の時期は育ち盛りの幼鳥がいるため給餌量は少し多くなっています。

エサを盛り付ける時も、馬肉飼料のこのひき肉状の形がくずれると食いつきが悪くなるため、つぶさないように扱います。

このまま焼いたらおいしいかも、、、と思わず考えてしまいました。

この馬肉飼料のレシピはもともとスイスの動物園でトキの近縁種を対象に考案されたものを参考に、トキの獣医さんがトキの栄養面を考慮し、試行錯誤して考え出したものなのです。

「飼育はエサが命。どんなに良いケージにいてもエサが良くなければ健康なトキは育たない」とエサの重要さについて佐渡トキ保護センターの山本飼育員に教えて頂きました。

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2018年07月27日孤高のメストキ

佐渡 近藤陽子

 皆様、こんにちは。


▲佐渡市羽茂大崎

 全国的に猛暑が続いていますが、新潟県佐渡市も、本州より涼しいとはいえ、日中30℃を越える日が続いています。

 本格的な夏を迎え、佐渡のトキたちの間では繁殖期が終わり、ペアでの行動から群れの行動へと変わりつつあります。


▲群れで採餌するトキたち(佐渡市金井地区)


 多くのトキが群れを形成し始めている中、単独行動を貫く5歳のメスのトキがいます。

彼女の名前は、個体番号264。(※職員は「にーろくよん」と呼んでいます)

今月、264はなんと、佐渡島から直線距離にして約200㎞も離れた長野県安曇野市で確認されました。


▲2016年12月4日 佐渡市で撮影された264。関節上のカラーリング「オレンジ・青」が見えます。


 264は、佐渡で暮らしている時から、変わった行動をすることで(職員の間で)有名なトキでした。

彼女は、基本的に単独行動。

トキの群れがいない地域で自由気ままに生活していました。

佐渡にいるトキは、屋根や電柱・電線など、人工物にとまることはほとんどありません。

でも、264の定位置は電柱でした。

ねぐらも佐渡の集落内の電柱でとっていたこともあります。


▲電線にとまり羽繕いする264

 1羽で行動しているトキは、群れで行動しているトキよりも警戒心が強く、人や車が近付けば、すぐに飛び立ってしまいます。しかし、264は道路沿いの電柱にとまり、車が下を通過するのも気にせず羽繕いをしていることもありました。

 思えば、264は、多くのトキが生息する佐渡島中央の平野部ではなく、海岸線沿いを転々と移動しながら生活していました。本州へ飛び立つ日を見計らっていたのかもしれません。


▲海の見える水田で採餌するNo.264とB07。264が珍しくトキと一緒にいます。

 264が佐渡を飛び立ち、本州で確認されたのは実は、2018年3月のこと。初めは石川県珠洲市で確認されていましたが、珠洲市から徐々に南下して行き、石川県白石市(4月)、長野県塩尻市(5・6月)、そして今月に入って、長野県安曇野市で確認されました。安曇野市でトキが確認されたのは、今回が初めてです。

 トキだけに限らず多くの鳥類で、メスや若い個体は広範囲を移動することが知られています。本州で過去に確認された識別可能なトキ(足環が装着されているトキ)19羽中、17羽がメス、2羽が1歳未満の若いオスでした。メスに関しては、より良いオスを求めて繁殖期に広く移動すると考えられています。

 今後もいろいろと初記録を出していくのか。264が放鳥された日から見守る佐渡のトキ関係者は、本州へ渡り、1羽で生活している264を心配しつつも、彼女が今後どういう動きをするのか、期待を込めて注目しています。

 もし、本州でトキを見かけたら。

ゆっくり安心してエサを取り、ねぐらでしっかり休息できるように。

離れた場所から静かに見守ってあげてください。

孤高のメストキ、264。どうか無事で。

本州の皆様、264をよろしくお願いします。

トキ観察ガイドライン「トキのみかた」

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2018年07月23日「親子でトキモニタリング体験!」開催のお知らせ

佐渡 原奈緒子

みなさん、こんにちは。佐渡の原です。

さて、佐渡自然保護官事務所では、トキの放鳥10周年を記念した夏休みの特別企画として、「親子でトキモニタリング体験!」を開催します。

本イベントでは、双眼鏡・望遠鏡の使い方といった基本から学べるトキのモニタリング体験のほか、トキが利用している田んぼのえさ場で生きもの調査も行います。放鳥から10周年をむかえ、佐渡の野生下で約360羽にまで増えたトキ。トキを守っていくことがなぜ大事なのか、今後、どういう距離感でトキと付き合っていくべきか、野生で生きるトキの様子やトキが暮らせる環境について私たちと一緒に観察しながら考えてみませんか。

佐渡島外からの参加も可能です。興味のある方は下記の詳細をご覧下さい。

<トキ放鳥10周年 夏休み特別企画>「親子でトキモニタリング体験!」

日  時:平成30年8月17日(金) 14:00~17:00 

集合場所:トキ交流会館 2階会議室 (佐渡市新穂潟上1101-1)

募集対象:小学生以上の親子  定員5組10名程度(先着順)

参 加 費:1人 100円(保険代として) 

※集合場所までの交通費は自己負担となります

服  装:動きやすい格好、長靴、帽子

持 ち 物:飲み物、観察機材(持っていれば)

申込方法

  ○申込先 佐渡自然保護官事務所

・TEL 0259-22-3372(平日9時~17時)

・FAX 0259-22-3379(24時間受付)

*上記のいずれかに参加希望者の人数、氏名、年齢、緊急連絡先、観察機材の有無を連絡し、申込む。

○申込み〆切り:定員に達し次第終了

当日のスケジュール

14:00 集合

14:05 レクチャー

14:30 モニタリング体験

15:00 野生下トキ観察

15:50 田んぼの生きもの観察

16:40 まとめ

17:00 解散

お問い合わせ

 環境省 佐渡自然保護官事務所

電話:0259-22-3372 (平日9時~17時)

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2018年06月28日トキ放鳥(ほうちょう)までの道のり

佐渡 原奈緒子

こんにちは、佐渡事務所の原です。

突然ですが、みなさんは放鳥と聞くとどんなイメージを持ちますか?

佐渡では、6月8日(金)に第18回のトキ放鳥を行いました。

▲ケージから飛翔し放鳥された19羽のトキ

放鳥とは、簡単にいうと飼育下で増やした個体を野外に放すことです。

トキたちは厳しい自然界で生き抜いていくために、放鳥をむかえるまでに3ヶ月かけて様々な準備をしています。6月21日(木)には第19回放鳥のための訓練が開始しました。

【放鳥までの道のり】

道のり 其の一 健康診断

▲足環の装着

野外でも個体の識別ができるように足環を付けます。左足には写真のような個体

番号の入ったナンバーリングを装着します。写真の個体はNo.324で放鳥後も新穂地区で確認されています。他にも飛翔したときに識別しやすいようにアニマルマーカーを塗布したり、体重測定なども行います。

道のり 其の二 訓練開始!

▲順化ケージに放されるトキ

道のり 其の三 順化ケージ内での生活

▲順化ケージの中の様子。山の傾斜を利用して水田もつくられています。

順化ケージの広さは4,000㎡あり、サッカーコートより2まわり小さいくらいで、高さが15mある放鳥個体の訓練専用のケージです。ここで3ヶ月生活をして、野外で生活するために必要な飛ぶ力・エサを捕る力・社会性を身につけていきます。訓練を無事に終えると、いよいよ放鳥です。

道のり 其の四 放鳥

▲(左)ハードリリースと(右)ソフトリリース

上の写真はどちらもトキの放鳥の写真です。

左は第1回放鳥の様子で1羽ずつ箱に入れ、一斉に蓋をあけるハードリリース方式です。右は第2回放鳥以降の方法で順化ケージの扉を開放して自然に飛び立つのを待つソフトリリースの様子です。

佐渡では2008年からトキの野生復帰の取り組みとして再び佐渡の空にトキを戻す放鳥を行っており今回までの18回で、のべ308羽のトキを放鳥しています。

放鳥日は朝6時にケージの扉が開放され、私たちはケージから野外に飛翔したトキがどこへ行くのか、落下などの事故が起きないかを少し離れた場所から観察します。いつトキが飛翔するのかはトキ次第。この方法を始めてからの記録では最長で6日間、最短で半日で放鳥されています(15時には扉を閉じ、翌日の6時に再び扉を開放します)。

▲放鳥モニタリングの様子。モニタリングボランティアさんたちと行います。

▲離れた場所から、どこへ飛んでいくかを追いかけます

今回は全19羽が無事に1日で全羽放鳥されました。放鳥が終わって、2週間経ち半分以上の個体が既存個体に合流してねぐらをとったり、とまり木にいる様子が確認されています。短い日数で放鳥された方が、その後の生存率がよくなる傾向が確認されているため今後の動きにも期待し、モニタリングを続けていきたいと思います。

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2018年06月25日平成30年度「アクティブ・レンジャー写真展」開催中

佐渡 近藤陽子

 皆様、こんにちは。

<新潟県佐渡市金井 6/22撮影>


 平成30年度「アクティブ・レンジャー写真展」のご案内です。

 関東地方環境事務所では、平成22年度から、管内のアクティブ・レンジャーが撮影した動植物や風景の写真を多くの人々に紹介し、自然の素晴らしさ、大切さを伝え、自然保護や国立公園について普及啓発を行うことを目的とする巡回写真展「アクティブ・レンジャー写真展 国立公園・野生生物フォトコレクション」を開催しています。 




 展示する写真は、関東地方環境事務所管内の13の自然保護官事務所に勤務する19名のアクティブ・レンジャーが撮影した計28点の作品となり、国立公園や国指定鳥獣保護区といった日本を代表する雄大な自然風景やそこに生きる貴重な動植物の活き活きとした姿をご紹介します。



 佐渡自然保護官事務所からは、2名のアクティブ・レンジャーが撮影したトキ等の写真2点を出品します。佐渡会場では、飼育トキの誕生から放鳥までの貴重な写真も特別に展示いたします。

 両津港へお越しの際は、写真展へも足を運んでみてはいかがでしょうか。


<両津港ターミナル周辺図>

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2018年06月18日足環装着って何?

佐渡 近藤陽子

 皆様、こんにちは。

 新潟県佐渡市では、日中25℃を越える日が増え始め、夏の気配を感じるようになりました。

<佐渡市羽茂亀脇>

 この時期、自然界のトキたちの間では、ヒナの巣立ちが続々と確認されています。

<巣立ちしたトキの幼鳥>

上の巣立ちしたトキの写真を見て、何か気になることはありませんか?

自然界で巣立ったトキなのに、カラフルな足環(あしわ)が付いているんです。

この足環、いったいどうやって付いたのか。

今回は足環装着についてお話ししたいと思います。

そもそも足環は何のため?

 足環を装着すると、個々のトキを識別できるようになり、自然界のトキたちの動向や生存率が分かります。放鳥するトキ全てと、自然界で誕生したトキの一部(30羽程度)に足環を装着しています。

放鳥するトキは、放鳥前の飼育されている時期に捕獲され、足環を装着されます。

では、自然界の巣にいるヒナたちには、どうやって足環を装着しているのでしょうか。

答えは、「トキの巣がある木に登って、巣にいるヒナを捕獲し、足環を装着している」です。

~足環装着作業の流れ~

①樹上作業者がトキの巣がある木に登り、ヒナを捕獲します。

 捕獲したヒナは、専用のケースに入れられ、地上へ下ろされます。

<トキの巣がある木に登り、ヒナを捕獲する作業者>

<ヒナを捕獲する作業者 クロースアップ>

②地上にて、獣医師を含む作業者がヒナの身体測定と足環の装着等を行います。

 樹上作業者は、ヒナがいない間、巣の計測等を行います。

<捕獲され、地上におろされたヒナ3羽>    



<足環装着されるヒナ>


<雌雄判定のための羽毛採取>



<巣の計測>


<足環装着作業中、心配そうに巣上空を飛ぶ親鳥2羽>

③作業後、ヒナを巣に戻し、作業者は巣から離れます。

 モニタリング担当の職員が巣から離れた場所で観察を行い、親鳥が巣へ戻ったのを確認して足環装着作業の工程すべてが終了します。

<巣にもどされたヒナ>


<作業者が巣から離れたのを確認してから戻って来た親鳥>

※足環装着作業の際、親鳥は一時的に巣を離れることとなりますが、必ず巣に戻り育雛放棄することはありません。

※天敵となるカラスやテンなどが多い場所での足環装着は行わないなど、足環装着作業を行うことで生じるリスクを最小限にする様々な配慮や対策を講じたうえで実施しています。

 環境省は、トキのヒナの両脚が巣から出た時点を「巣立ち」と定義しており、巣立ったトキは、「ヒナ」から「幼鳥(ようちょう)」と呼び名が変わります。幼鳥は自由に飛べるようになると、島内を広く移動します。足環が付いていれば、どこで誕生し、何歳のオス/メスで、親は誰なのか等が分かります。

 このようにトキの動きを追跡することで、現在進められているトキの野生復帰事業を評価することができます。

 6月8日(金)には、第18回目となるトキの放鳥が行われ、日本の自然界に生きるトキはちょうど300羽となりました。この羽数も、足環によって個体の追跡ができているから出せる数字です。

<佐渡の自然界へ飛び立つ第18回放鳥トキ>

 いずれこうした追跡を行う必要がないほどにトキが増え、トキを支えることができる佐渡の豊かな自然がこれからもずっと続くことを願っています。

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