南アルプス国立公園 南アルプス
189件の記事があります。
2020年10月08日三伏峠・塩見岳の巡視に行ってきました。【塩見岳編】
南アルプス国立公園 南アルプス 本堂舞華
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
前回の三伏峠・塩見岳の巡視に行ってきました。【三伏峠編】に続き、今回は塩見岳編をお伝えします。
塩見岳の山頂は双耳峰(山頂が2つ)になっており、標高は今年1月に西峰の3,047mから東峰の3,052mに改定されました。あまり知られていませんが、山頂の北側は北岳にもある、¨バットレス¨(切り立っている急峻な岩壁)になっています。
三伏峠からは三伏山、本谷山を経由して山頂へ向かいます。道中、縞枯現象(シラビソ、オオシラビソ一部分が帯状に枯れ、白い縞模様ができること)に似ている景色の中を歩きます。
木々の間からは荒川岳や小河内岳を見ることができます。
森林限界を超えると塩見小屋(今年は休業中)があり、付近からは仙丈ヶ岳や甲斐駒ヶ岳、小河内岳や烏帽子岳が一望できました!
△仙丈ヶ岳、甲斐駒ヶ岳方面 △小河内岳、烏帽子岳方面
写真では分かりづらいですが、所々で紅葉が始まっていました。
塩見小屋を過ぎ、「天狗岩」が見えてきたところで塩見岳最大の核心部であるガレ場を登ります。
危なくないように見えるこの場所は落石が多く、足場も悪いです。ヘルメットの着用を強くおすすめしたい地点です。このガレ場を超えると・・・
△南アルプス北部方面
△南アルプス南部方面
南アルプスの真ん中に位置する塩見岳からは北部と南部を一望できます。この日は天気がとても良かったため、南部の中盛丸山や兎岳などもよく見えました。
塩見岳東峰直下では環境省事業として、伏工を実施しています。以前の塩見岳東峰直下はシナノキンバイやハクサンイチゲが広がるお花畑でしたが、ニホンジカの採食圧・踏圧によりお花畑が消失するだけでなく、土壌が流失し、裸地化してしまいました。そのため、植生回復および表土浸食防止を目的とし、平成21年から伏工(植生マット)を行っています。今年度は新型コロナウイルスの影響により、伏工の実施業務が中止となっていまいましたが、過年度に設置した植生マットには植物が根を付けていました!
一見、暴風で植生マットが飛ばないように設置している石しかないように見えますが、よく見ると植物がしっかりあります。着実に戻ってきている様子を今年も確認することができて安心しました。
今回の巡視は比較的晴れている時間が多く、山頂からは富士山と蝙蝠岳がよく見えました。
2020年09月30日 三伏峠・塩見岳の巡視に行ってきました。【三伏峠編】
南アルプス国立公園 南アルプス 本堂舞華
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
9月中旬に三伏峠、塩見岳の巡視に行ってきました。三伏峠、塩見岳方面は山小屋の休業および林道が通行止めになっているため、長野県より入山自粛が求められており、例年のような賑わいはありませんでした。今回の巡視のようすを2回に分けてお伝えしたいと思います。
三伏峠は標高2,580mにあり、¨日本で一番高い峠¨にと言われています。長野県から塩見岳や小河内岳に登る際は必ず通過する峠です。三伏峠までの登山道には1/10、2/10と目安になる地点に看板が設置されています。このような標記があると、登山中の気持ちの持ちようが変わりますね。
今回の巡視は高山植物の時期とズレているので植物を見ることはできませんでしたが、花期シーズンの登山道ではコウシンヤマハッカやダイモンジソウ、シロバナノエンレイソウなどを見ることができます。可愛らしいお花たちが疲れた身体を癒やしてくれます♪
三伏峠から南に向かうと、防鹿柵が設置されています。三伏峠には南アルプスを代表するお花畑がありましたが、ニホンジカの採食圧により草原化してしまいました。そのため、静岡県が平成19年、20年、24年に防鹿柵設置しています。(設置作業のようすはこちらから。)
三伏峠にある防鹿柵は初夏から晩秋のみ設置している季節型と、1年中設置している金属製柵の2タイプがあり、初夏の柵内ではシナノキンバイやミヤマクロユリ、サンカヨウなどが咲きます。(上の写真は金属製柵)8月中旬頃にはタカネマツムシソウが大群落を作ります。
今回の巡視では咲き残りを見ることができました!花そのものが大きいので、見つけやすいです。綺麗なタカネマツムシソウが群落を作る防鹿柵の横には・・・
悲しいことにニホンジカの糞が落ちていました。しかも、1箇所ではなく数カ所に。今回の巡視では個体を見ることはできなかったものの、ニホンジカの糞や食痕が多く見られました。今年は入山自粛で人の出入りが少ないため、登山道添いで被害が多く見られる、という話も聞かれます。南アルプス山域ではニホンジカの被害と切っても切れない状況になっています。いつか、防鹿柵が無くても高山植物を楽しむことができる南アルプスになるといいですよね。
ニホンジカの痕跡が多く見られる中、旅の途中で羽を休めているアサギマダラやヒガラに出会えました。どちらも群れを成しており、私たちを出迎えてくれているようでした♪
2020年09月18日北岳へ巡視に行ってきました
南アルプス国立公園 南アルプス 本堂舞華
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
先日、北岳を白根御池小屋経由で巡視しました。今年の北岳は登山道が閉鎖されているため、登山者の姿はなく、静かな巡視になりました。今回は巡視中に確認できたニホンジカの被害などについてお伝えしようと思います。
白根御池小屋付近では例年、ニホンジカの足跡がよく見られますが、今回も確認してしまいました。今年は登山者がいないため、人間の足跡はなく、ニホンジカの足跡だけが目立ちました。また、白根御池小屋から草すべりに向かう登山道では、不嗜好植物がたくさん!
マルバタケブキやミヤマバイケイソウの花期が終わっているため、若干枯れているものが多いですが、この時期に咲く秋のお花が全くと言っていいほど咲いていませんでした。マルバタケブキやミヤマバイケイソウがない写真手前は地面が見えてしまっている部分もあります。・・・ニホンジカの踏圧でしょうか。
草すべりを登っていくと、防鹿柵が設置されています。北岳へ登ったことがある方は見たことがあるかと思います。設置されている防鹿柵の中にはウメバチソウやトリカブトなどの高山植物が咲いていました。高山植物が咲く防鹿柵の際にあった植物が・・・
見事に食べられてしまっています!!防鹿柵の中に先端が入り込んでいるものの、しっかり食べられてしまっていますね。このような光景を見ると、悲しくなります。
ニホンジカは標高2,700m付近までで止まることなく、標高3,000mでも足跡が確認できました。
同じ個体が何度も移動している可能性もあり得るので、一概にたくさんのニホンジカが生息しているとは言いがたいですが、足跡は1つや2つ、ではなく、たくさんの足跡ありました。巡視中にニホンジカの姿を見ることはなかったですが、ニホンジカの痕跡は多く見られました。
環境省のほかにも、ニホンジカ対策に取り組んでいる機関があります。ニホンジカによる被害が少なくなって、いつかお花畑が、いつか防鹿柵がなくても高山植物が咲き乱れる南アルプスに戻って欲しいと思います。
見られたのはニホンジカによる食害だけではありません。
強風とガスを抜けた後にこんなステキなご褒美がありました・・・♪全く同じ風景はもう見ることができないと思います。自然とは一期一会の関係ですね。
2020年09月08日仙丈ヶ岳のニホンジカによる被害
南アルプス国立公園 南アルプス 本堂舞華
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
8月下旬に仙丈ヶ岳にニホンジカの食害状況確認と環境省事業で設置している防鹿柵の確認に行ってきました。
登山道に入ってすぐ、さっそくニホンジカの痕跡を見つけました。
若干、写真がブレていますが、ニホンジカの糞です。周辺にもぽつぽつと落ちており、このあたりを生活圏として利用している様子が伺えました。
仙丈ヶ岳は、「花の仙丈」と呼ばれ、シナノキンバイが群落を形成し、斜面を彩っていましたが、ニホンジカの食害が見られるようになってからはご覧の通り。
植物は生育しているものの、不嗜好植物(ニホンジカが好まない植物)であるマルバタケブキが咲いていて、場所によっては綺麗に整備された芝生のようになっています。「花の仙丈」とはほど遠い状況になってしまっています。
1日目は糞や食害、樹皮剥ぎなどが見られる中、肝心のニホンジカの姿を確認できないままでしたが、2日目に仙丈ヶ岳を代表するカール(圏谷)の1つ、小仙丈カールでニホンジカを見つけました。
どこにいるでしょう。クリックすると画像が多少、大きくなるので探してみてください。
見つけられましたか?
3頭のニホンジカがいます。見つけたときは下草を食べていましたが、こちらに気づいたようでこのあと樹林の中に逃げていきました。私はカールの中にいるニホンジカを見たのは初めてだったので、衝撃的でした。登山者の利用や山小屋関係者の常駐がない今年は、ニホンジカにとっては楽園になっているようです。
仙丈ヶ岳には環境省事業で、5基の防鹿柵を設置しています。防鹿柵の効果は一目瞭然です。
植物の高さや種類が全く違います。防鹿柵の中にはオヤマリンドウやウサギギク、ハクサンフウロ、ミヤマバイケイソウなどが咲いていました。環境省以外にも林野庁や信州大学、長野県、伊那市等の11機関で構成されている南アルプス食害対策協議会が設置している防鹿柵もあります。時間がかかっても、いつの日か、以前のような「花の仙丈」に戻ってくれることを祈ります。
2020年09月03日【お知らせ】南アルプス市芦安山岳館でアクティブ・レンジャー写真展開催中!
南アルプス国立公園 南アルプス 本堂舞華
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
9月1日から9月28日まで、南アルプス市芦安山岳館にて「環境省 アクティブ・レンジャー写真展‐国立公園・野生生物の姿‐」を開催しています!
アクティブ・レンジャー写真展では関東地方環境事務所管内の自然の素晴らしさや大切さ、国立公園の魅力、環境省職員であるアクティブ・レンジャーによる自然環境保全や適正な利用促進の業務について紹介しています。
南アルプス自然保護官事務所からはライチョウや赤石岳のV字谷など、計4枚の写真を展示しています。各国立公園などのパンフレットの配布も行っています。子どもたちに人気の「冒険手帳」もありますよ♪
★ 南アルプスユネスコエコパークのホームページにも掲載いただきました!
ホームページ内には南アルプスユネスコエコパーク関連の最新情報が掲載されています。
ぜひ、こちらからご覧ください。
また、会場である南アルプス市芦安山岳館では8月より、無料エリアが設けられています。
(参考:https://www.minamialps-net.jp/cat_news/340770)
アクティブ・レンジャー写真展はこの無料エリアの中で開催されています。
無料エリアには山岳関係の図書コーナーや塗り絵を楽しむコーナーなどがありますので、そちらもあわせてお楽しみいただけます♪
南アルプス国立公園はもちろん、関東管内の国立公園および国指定鳥獣保護区の魅力をたくさんの方に知っていただきたいと思います。夜叉神峠の帰りや芦安に遊びに来られた際にはぜひ、お立ち寄りください!!
◆ 南アルプス市芦安山岳館では新型コロナウイルス対策を実施しています。
下記リンクをご一読いただいた上で入館するようにしてください。
2020年08月25日この夏、南アルプスで見られたお花
南アルプス国立公園 南アルプス 本堂舞華
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
相変わらず気温が高く暑い日々ですが、標高が高い南アルプスの山々では朝晩が冷え込むようになり、秋の訪れを感じます。例年、この時期は多くの登山者で賑わう南アルプスですが、巡視をしていても登山者に会わず、山小屋関係者にも会えず。なんだか物寂しい気持ちもありますが、高山植物は元気に生育していました。今回はこの夏、南アルプスで見つけたお花を紹介したいと思います。
■ ウサギギク
根の近くに生える葉がウサギの耳に似ていることから「ウサギギク」と名づけられました。わたしが見たときは太陽のほうを向いて咲いている個体が多く、ひまわりを見ているかのような気分でした。高山植物には黄色い花が多いですが、ひと際目立ちますね。
■ トウヤクリンドウ
トウヤクリンドウは「当薬」または「唐薬」として、昔から薬に使われていました。緑の斑点が独特な模様ですよね。稜線部に咲き、8月から咲き始めて9月ごろまで花をつけます。奥に見えるのは北岳です。今年の北岳稜線部ではこのトウヤクリンドウがあちこちに咲いていました。
■ タカネビランジ
南アルプスの固有種、タカネビランジ。左は北岳で、右は地蔵ヶ岳で撮影しました。タカネビランジは地域によって色の個体差があるのが特徴です。北岳や荒川岳で見られるタカネビランジは左の写真のような白色または薄いピンクが多いです。対して、鳳凰三山や北岳の一部では右の写真のような淡いピンクが多く咲きます。
■ オヤマリンドウ
まだつぼみのオヤマリンドウ。濃い青紫がとても綺麗ですよね。晴れていても完全に花が開くことはなく、半分開いている状態のことが多いです。オヤマリンドウを見ると、¨夏が終わってしまう!¨と少し焦りを感じます。
他にもイブキジャコウソウやシコタンソウ、ハンゴンソウなどが南アルプスを鮮やかに彩っていました。
今年は7月の遅くまで梅雨が続き、巡視中、晴れの日が少なかったですが、梅雨が明けてからは比較的、晴れの日が続きました。夏の南アルプスは午後になると高確率で雷雨になりますが、今年は夕方まで強く日が差していることが多かったように思います。今年の南アルプスは、山小屋が営業し登山道が閉鎖されていない甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山で登山者がみられますが、天候が変わりやすいので、早出早着を心がけて登山するようにしてください。コロナウイルス対策も忘れずに!
▲仙丈ヶ岳 北岳稜線より
▲小太郎山と甲斐駒ヶ岳 北岳稜線部より
2020年08月20日南アルプス市芦安小学校で出前授業を行いました
南アルプス国立公園 南アルプス 本堂舞華
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
7月下旬に南アルプス市芦安小学校にて、3~6年生を対象に出前授業を行いました。芦安小学校では、総合的な学習の一環として、鳥獣による食害の学習に取り組んでおり、今回の出前授業では南アルプス市(旧芦安村)にある北岳などのニホンジカによる被害について金丸生態系保全等専門員が出前授業を行いました。今回はその様子をお伝えしたいと思います。
金丸生態系保全等専門員より、南アルプス自然保護官事務所の仕事や南アルプス国立公園で確認されている被害状況について紹介しました。芦安では昼夜問わず、道路脇や河川敷にニホンジカの姿が見られます。児童たちの反応で驚いたことは、芦安小学校では校庭にニホンジカが現れ、ニホンジカの糞が落ちているらしいです。都心のこどもたちにとっては、ニホンジカはなかなか見ることができず、珍しい動物かもしれませんが、芦安のこどもたちにとってはよく見る光景で、珍しさは感じないのかもしれません。
座学の次は、タブレットを用いてニホンジカの動画を見たり、鳥獣の捕獲に使うくくりワナを見たり。中でも児童たちの興味を引いたのが、ニホンジカの毛皮と角です。毛皮は夏毛と冬毛の両方を用意し、触り心地などの違いを感じてもらいました。
「夏毛のほうが堅い!」
「冬の毛はふわふわ」
「ちょっと臭いね」
「角の先っぽってこんなにとんがってるんだ!」
ニホンジカの姿はよく見かけても、毛皮や角に触れたり、ニオイを感じる機会は多くないので、貴重な体験になったのではないでしょうか。また、児童のみならず、初めて触る先生方も多かったようです。
今後、芦安小学校の児童は地域の山に登り、ニホンジカを含む鳥獣による被害の観察に行く予定だそうです。事前に学習したことを自分の目で確認して、実感してもらいたいです。
2020年08月13日鳳凰三山 地蔵ヶ岳の巡視に行ってきました。その2
南アルプス国立公園 南アルプス 本堂舞華
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
前回は確認されたニホンジカの被害についてお伝えしました。今回はニホンジカの被害に負けずに咲いていた植物を紹介したいと思います。
◆ オサバグサ
葉がシダのような形になっており、機織りの「オサ」に似ていることから「オサバグサ」と名付けられたようです。下向きではありますが、純白な可愛らしい花を付けます。あちこちで見られる花ですが、日本の固有種でとても貴重です。
◆ クルマユリ
クルマユリは鮮やかなオレンジ色が特徴的です。鳳凰小屋の周辺で咲いていました。わたしたちが巡視に行ったその日に開花したようで、わたしたちのことを出迎えてくれたような気持ちで嬉しくなりました。
◆ キバナノアツモリソウ
よく耳にする「アツモリソウ」はピンク色でぼってりとしていますが、キバナノアツモリソウはアツモリソウよりスマートでキリンような色合いになっています。キバナノアツモリソウは自然環境の変化や盗掘によって、年々数が減っており、環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。
◆ ツマトリソウ
花弁の縁に見られる紅色の縁取りを和服の「褄とり」に見たて名付けられました。ほんのり色づいている紅色の縁がなんとも可愛らしいですよね。小雨により、水がしたたっていてより綺麗さが増していました。こうして、雨降りの中でも足元の植物が登山を楽しませてくれますね。
綺麗な植物のほかにもこんな出会いが。
オトシブミが作った揺籃(ようらん)と呼ばれるものです。オトシブミとは木の葉を巻いてゆりかごをつくる性質をもったゾウムシの総称です。卵から孵った幼虫は、この揺籃を食べ、成虫になるまでこの中で暮らします。葉の巻物が「文(ふみ)」に似ていることから、揺籃を作る昆虫をオトシブミと呼ぶようになったそうです。登山道のあちこちに落ちていていました。孵化する前に踏まれてしまわれないよう、無事に孵化してもらいたいです。
長い梅雨が明け、ようやく夏らしくなってきましたね。南アルプス山域で営業している山小屋はかなり限られていますが、利用される際はコロナウイルス対策を十分に行うようにしてください。
2020年08月06日鳳凰三山 地蔵ヶ岳の巡視に行ってきました
南アルプス国立公園 南アルプス 本堂舞華
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
7月中旬に鳳凰三山の1つ、地蔵ヶ岳のニホンジカ被害状況の確認に行ってきました。
鳳凰三山は観音岳(2,841m)をはじめとする、薬師岳(2,780m)、地蔵ヶ岳(2,764m)から成る山で、日本百名山、山梨百名山に選出されています。鳳凰三山登山の歴史は古く、平安時代には修験者が登山しており、信仰の山としても古くから多くの人々に親しまれています。また、高山植物の種類も豊富で、鳳凰三山にしか咲かない「ホウオウシャジン」があります。
今回のルートは御座石温泉-鳳凰小屋(泊)-地蔵ヶ岳の往復で、このルートは標高が上がるにつれて花崗岩の白い地質がみられるようになるとともに、樹林帯から高山帯へと植生が移り、変化に富んでいます。
今回の記事では、確認されたニホンジカの被害状況をお伝えしようと思います。
歩き始めて10分ほど。さっそく樹皮剥ぎを見つけました。
つるつるなので、比較的新しいものです。
コメツガやミズナラやカツラなどいろいろな種類の樹木がある中、一際、樹皮剥ぎが目立った樹木は『リョウブ』でした。
白い小さな花を付け、樹皮はヒメシャラやナツツバキに似ています。剥がれやすく、柔らかいのでニホンジカにとって食べやすい樹皮のようです。樹皮剥ぎされた樹木はやがて枯れてしまいます。枯れて、根に元気がなくなり保水力が保てなくなると、大規模な土壌流出や台風等で倒木する恐れがあります。鳳凰三山は標高が高くなると崩れやすい花崗岩の砂地に覆われるので、ニホンジカの食害による土壌流出がとても心配です。
人間の出入りが多い小屋の周辺でもシカ害が見られました。
△シラビソの食害
テント場で確認されたものです。茎はあっても、新芽の部分は食べられてしまい、開花しない(できない)花も見られました。
△小屋前の食害
この写真は御座石温泉と青木鉱泉の分岐付近です。以前はこの場所にクルマユリやヤナギランが咲いていましたが、ニホンジカの被害に遇い消失。今では芝刈り機で刈ったような草地になっています。小屋のスタッフによると、小屋の目の前までニホンジカがきて植物を食べてしまっている状況とのこと。柵をせず自然体のままでは食べられてしまう、という状況になってしまっていることが非常に悲しいです。
樹皮剥ぎや小屋周辺の食害は約1,300m~2,400mで地点でみられますが、標高を上げて2,700m地点に来ると、足跡があったり糞が落ちていたり。
足跡も大きいものから少し小さいものまで。2,700m付近で生活している個体がいるようです。
今回は個体そのものに出会うことはできませんでしたが、各地点でニホンジカの被害が確認されました。鳳凰三山でニホンジカ対策に取り組んでいる関係機関のデータによると、年々定点カメラでの撮影枚数も増加しているようです。鳳凰三山の素晴らしい植生、景観を守るために、今できることを探していこうと思います。
次回はニホンジカの被害に負けずに咲いている高山植物の様子をお伝えしようと思います。お楽しみに!
みなさん、こんにちは。
南アルプス自然保護官事務所の本堂です。
10月初旬に2泊3日で荒川岳の季節型防鹿柵の撤去作業へ行ってきました。例年、7月頃に、ニホンジカが高山へ季節移動して来るタイミングで、関係者による柵の設置作業があり、環境省も同行しますが、今年は椹島までの林道の崩落で通行止めのため、請負業者のみで設置作業を行いました。環境省としては今年度初の荒川岳への巡視を兼ねた防鹿柵の撤去作業になりました。
荒川岳は南アルプスの南部、静岡県静岡市に位置する山です。東岳(悪沢岳)、中岳、前岳の3つの山を総称し、「荒川三山」と呼ばれています。中でも東岳(悪沢岳)は標高3,141mで、日本で6番目に高い山です。
荒川岳では西カールに2箇所、前岳南東斜面に1箇所防鹿柵を設置しています。初日は前岳南東斜面の防鹿柵の撤去を行いました。前岳南東斜面の防鹿柵は前岳・中岳分岐から荒川小屋の間に設置されており、登山道を含む大きな防鹿柵です。今回の作業では、ネットやポールを外し、雪崩等で流されないように紐で縛るほか、扉の撤去を行います。
作業を行う場所は傾斜がきつく、大小いろいろな岩が落ちているので、作業もなかなか大変です。
2日目は西カールの撤去です。カールの中では落石の危険があるため、作業ではヘルメットの着用が必須です。
カールの中に柵を2箇所設置しているため、2つのグループにわかれて作業します。柵の大きさにより人数を割り振りますが、大小問わず、この西カールも傾斜がきつく、足場が悪いので作業は大変です。
西カールの大きい柵を下から見ると・・・
・・・とても広大です。クリックして大きい写真で見てみると、豆粒サイズで柵や人が写っているのが分かるかと思います。とても広大なカールに設置されている柵ですが、参加されたボランティアのみなさんによって、あっという間に終えることができました。参加してくださったボランティアのみなさんに感謝です。
足元を見てみると、ドライフラワー状になったミヤマアキノキリンソウが可愛らしかったです♪